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自己肯定と自己受容の違い ~ポジティブシンキングとあるがまま~ No.240

2016-06-14 16:39:21 | 日記
 アドラー心理学がブームです。アドラーは、1870年オーストリア生まれの心理学者で精神科医でもあります。先日、ダイヤモンド社から刊行されている「嫌われる勇気」(岸見 一郎/古賀 史健:著)の中に、アドラーが「自己肯定」と「自己受容」の違いを説明している一節がありました。
 アドラーによると「自己肯定」とは、できもしないのに「私はできる」、「私は強い」と自己暗示をかけることで、これは優越コンプレックスにも結びつく発想であり、自らに嘘をつく生き方である、というのです。つまり、ポジティブシンキングには無理があるのではないかということです。
 一方「自己受容」とは、仮にできないのだとしたら、その「できない自分」を「ありのままに受け入れ」、できるようになるよう前に進んでいくことで、自らに嘘をつくものではないということです。つまり、まず、できない自分を素直に受け入れて、そこから出発しなさいということです。
 テストの点数が60点だったとき、「今回はたまたま運が悪かっただけで、本当の自分は100点の力がある。やればできる。」と言い聞かせるのが「自己肯定」です。
 「自己受容」というのは、60点の自分をそのまま受け入れた上で、100点に近づくためにはどうしたらいいかと考えることです。まず、「あるがままの自分」を受け入れなさい。そして、ここがとても重要なのですが、自分の中の「変えられるもの」と、「変えられないもの」を見極めなさい。我々は与えられたものを変えることはできないけれど、与えられたものをどう使うかは自分の力によって可能なのだから、ということです。
 これはなかなか難しい作業です。私たちは困難に直面すると、変えることが可能なことでも、どうせ私にはできないと変わろうとしないことが多いからです。
 アドラーは幼い頃、病弱で運動が苦手でした。また、くる病を煩ったため、成人した後の身長も150cmと小柄で、おそらく様々な劣等感情に悩まされたであろうことは想像に難くありません。彼は変えることのできない自分の現実を受け入れ、変えることのできる物事に対して全力を尽くし、フロイトやユングと並び称される偉大な心理学者になったのではないでしょうか。

がん治療薬の悩ましい問題 ~命の費用対効果~ No.239

2016-06-01 16:44:13 | 日記
 かつてガンは死の病と言われましたが、今は早期発見ならば生存率が大幅に改善されています。ガンの治療薬も効果的な新薬が相次いで登場していますが、問題は効果も高いが値段も高いことで、このままでは公的な医療制度が崩壊するのではないかという新聞記事が読売新聞(5月16日付け)に掲載されていました。
 記事によると、国立がんセンターが我が国に入る可能性のあるガン治療薬一ヶ月の薬剤費を調べたところ、100万円を超すものが23種類もあり、もっとも高価なものは1900万円もするとあります。
 例えば、肺ガンの生存率(1年間)を39%~51%に引き上げた「オプジーボ」という薬は月2回で260万円もします。これを進行した肺ガンで苦しむ患者5万人が一年間使うとすると年間薬剤費が1兆7500億円になり、年間8.5兆円の医療費の 2割に達するということです。
 ここで議論されるのが、限られた医療予算の中で、誰にコストをかけるのかという問題です。日本赤十字社の国頭英夫化学療法部長は「75歳以上の後期高齢者の延命目的で使わせる必要はないなど、使用を抑える方法を真剣に考える必要がある。さもないと保険制度が崩壊し、若い人にしわ寄せが行く」と警告しています。しかし、当然のことながら、命の重さに年齢や貧富の差による軽重があってはならず、高齢者ということで一律に治療を制限することはおかしいという意見もあります。
 ただ、現実問題として、高度先進医療については健康保険の適用がないものもあります。その医療費を負担できない人は治療を受けることはできません。事実上、すでに命はお金で買える状態にあるともいわれています。
 これまで、一部の関係者の間で密かに語られていた命の費用対効果が公然と議論される時代になるのでしょうか。「高齢者の延命はしない」という選択を本当に受け入れられるのか。どのステージになれば、本人も周囲の人もそれを受け入れることができるのか、私たちに突きつけられた生命倫理の問題はあまりに重いものです。