グラの気ままに徒然日記

日々の菜園アクティビティ、旅先での思い出コレクッションetc.

山岳遭難体験記(後半)~ 紀伊山地・犬戻の高

2020年10月08日 16時31分58秒 | 菜園

遭難体験記~春日嶺・犬戻ノ高周回登山

<前半のあらすじ>

出発して約6時間半後に、目的の山・犬戻ノ高に着いた。既に午後3時と予定の時間を大きく回っていた。私はやや焦り気味に、下山道入口を探す。しかし発見できない。苦慮の末、そのまま円を描くように稜線上をあるき続けた。随分大回りになるので暗くなってからの下山を覚悟した。

 

 

<滝ヤ谷での道迷い:後半>

陽は大きく西に傾き始めていた。午後4時半、滝ヤ谷ルートへの案内標識を発見する! 縦走を続行し鳥尾越峠まで行けば、以前(5/29)に歩いたコースに出るはずだが、1時間はかかるだろう。それから下山するとなると8時を回る。足元定かな登山道なら月明りでも大丈夫だが、杉林の中では一歩たりとも進めないだろう。ザックのポケットには懐中電池の空ケースが空しく収まっていた!里山歩きということでどこか舐めてしまっていたのだ。とにかく明るい間に下山しなければ大事だ。

時間が勝負! 陽はまだ主稜線まで若干距離が残る、考えるまでもない、選択の余地なしだ! 滝ヤ谷コースを下ることにした。

 

*青線:周回路最終地が91号鉄塔/白線:滝ヤ谷上流部から右尾根が南亦山への登山ルート~鍛冶屋谷ルート/✖印:ビバーグ地点

件の標識から緩やかな巻き道を進むと急に明るく開け、91号鉄塔が聳える平地に出た。真下に入った時、突然携帯が鳴る!慌てて耳にあてるが応答がない・・・電源が1%!まもなく画面が消えた。時計を持たない私は、この先、時間も、位置情報も無論撮影もできなくなった。歩き始めて約9時間経っているが、幸い体力には問題はない。いよいよ、カンと体力だけが頼りの下降となった。鉄塔から離れるとすぐ踏み跡は消えた。あとは緩やかな傾斜地を選び谷芯まで降りるだけだ。ガレ場や絶壁を避け高巻き,小巻きを繰り返しつつ谷芯に降り立つ。もはや後戻りはできなくなった。

踏み跡を探すが、足元の岩や瓦礫は不安定で歩きづらい!やがて左右が狭く急峻な岸壁に囲まれたゴルジュとなる!このまま突っ込めば、いよいよ脱出不能となり滑落の危険性も飛躍的に増すだろう。 普段はヤンチャな私だが、危険を察知する能力は案外鋭く、これ以上立ち入らないようにと体内アラームが鳴り始める。

面倒だが高巻くと少し広い場所に出た。踏み跡らしきもの! すぐ炭焼き窯の跡だとわかる。多分、昭和初期のものだ。杣道を辿るがすぐ垂直に切れ落ちた崖上に出る。この先は豪雨による崩壊!?・・・

陽も山影に沈み足元もめっきりと暗くなった! 谷ルートを断念し、左手の山腹に取りつく。杉の大木を抱くようにして攀じ登り支尾根に達し、その尾根を登り詰める。唐突に南亦山南面のトラバース道に出た! 残照に目を凝らしつつ、登山道を小走りする。南亦山山頂に続く旧道との分岐点に出た。小1時間で下山可能な地点だ。だが、秋の陽はつるべ落とし。木立の間から覗く空の明るさに反し足元は薄暗くなってきている。しかも里山ではワンシーズンで踏み跡が消えることは不思議ではない。ハイカーの往来は稀の上、多雨地帯の灌木の成長は著しい。だから2度目の道という安心感はあるが、迷いやすい箇所もあるだろうし、日没後、一歩たりと進めないことも十分あり得る。2択の決断に迫られる。本日何度目のしんどさだろう。

前回、この地点から「鍛冶屋谷ルート」を辿り大内山牧場へ下山可能だと知った。しかし、初めてのルートをこの暗さで降りる困難さはいかほどであろうか?

この明るさが30分保たれれば牧場まで降りる自信はあるし、そこから電話を借りて妻に連絡できるではないか!

決めた!!

杉林のジグザグ道を駆け下りる。所々で分岐するが明瞭なほうを選びつつ順調に降る。気が付いた時、山腹を右に嫌に大きく巻き始めた。日没後の空がまだ白く明るい分、足元に闇が迫りつつある。突然道が谷間に切れ落ちていた。ひとまず谷に降りてゴーロの岩の上から踏み跡を探す。右岸は崩壊による絶壁!左岸は先ほど歩いていた鬱蒼と茂る杉林!成す術なし、万事休す!

再び、降り立った場所付近まで戻り、目印に積んでおいたケルンを探すが闇に煙り見つけ出せず。崖を攀じ登り杉の大木の下に腰を下ろす。

目前の大木の輪郭さえ曖昧になってきた。ましてや足元など傾斜の加減さえわからない。辺りにきらきら光るものが目に付く。

私はこの大木の根元で一夜を過ごすことを決断した。様々な思いが駆け巡る。この条件で無理に森や谷を下れば遭難すること必至、断じて控えるべきこと等と、既に遭難中であるにもかかわらず頭の中を駆け巡り苦笑したりした。大丈夫、まだ私はいやに冷静だった。

という顛末を経て、山歴50年初ビバーグとなった!

Tシャツの上に綿シャツを着こむ。寒さしのぎにザックを胸に抱き仰向けに寝る。少し傾斜しているので膝を立てて安定させる。

虫と獣の気配が心配だったがあまり気にならなかった。それでも時折、腹の上のザックにつけた熊鈴を揺する。驚くほど響き渡る。頭上は杉の木影と折からの中秋の名月で得も言われぬ壮大な万華鏡のようであった。

ウトウトしては寒さで目が覚める。タオルを顔にかけて首根っ子まで巻き込むと少し過ごしやすくなった。またウトウトとして目覚める。胸と腹の上に乗せた空ザックの位置を中央に戻しそのうえでクロスして組んだ両手の先を脇の間に突っ込む。

その後も目覚めるたびに、足を組んだり解いたり、傾斜地のため態勢の維持に苦労する。しかし最も驚いたのは地面の温かみで、背中の体温の保温効果があるのか、寝返りを打つたびに地面から伝わる温かみに励まされた。

目を覚ますごとに、「今、何時ごろかなあ?」「まだ、寝たばかりだ、とかまだ真夜中さ」等と自問自答していた。

そして多分3時ごろだと思うが、いやな感じ、 雨が降り出したのだった! 幸い杉の木に守られているので、時折雫が近くに落ちる音を聞くだけで済んだ。再び睡魔に襲われ一番深い眠りに落ちたと思われたとき2度目の雨が降り始めた。

どうすることもできずそのままの姿勢で止むのを待っていたら眠りに落ちていた。寒さで目を覚ますと、一瞬夜目に慣れてきたのかと思ったが、夜明け前が近づいてたのであった。

 

9月29日 朝

私は身を起こし、まだ薄暗さのなか荷物をまとめ、残っていた不味いカレーパンをスポーツ飲料で胃に流し込んだ。身体を屈伸し温める。体調は良くも悪くもない通常の状態だった。足元も見る見る明るくなってきている。行動する時だ!私は昨夜から決めていたとおり迷わずより安全かつ確実な鍛冶屋谷ルートを登り返すことにした。未知の谷を下るより勝手知ったる、と言っても一度歩いただけだが犬戻峡へのルートを下ることにした。

ビバーグ地点から約90分で再び、昨夕の尾根分岐点まで登り返した。「お~い!ヤッホー!」と2,3度呼びかけるが反応はない。

捜索隊が要請されていたとしても2次遭難の危険性を冒してまで夜間の行動は控えるはずだし、ただ元職場の同僚たちなら夜間行動もあり得ると思ったからだ。

 

 ~ここから、キャノンを引っ張り出して撮影再開した。昨日はその余裕もなかった~

 

  小峠 午前7時23分

犬戻峡 南亦山登山口 午前8時16分  無事下山!?

 

これより、捜索隊等関係者が集まる駐車地に向かう。

その時の状況は前篇の通りである。駐車地と麓の公民館の対策本部と2度全員の前であいさつする場を提供された。勿論、ひたすら謝罪の弁となったのだが、そして最後に始末書を取られました。文面はほぼ課長さんに誘導していただきました。

尚、8時20分に下山しいろいろと諸手続きを済ませたあと一緒に謝罪してくれた弟と、実家で待つ妻と娘のところに戻ったらたっぷりと正午を回っていた。

3人から警察からの聞き取りの量の多さに驚いたことや、ココヘリ(京都)と警察との連携の話とか

ココヘリは午前10時発で京都からヘリコプターが飛ぶことになっていた。娘婿の言うには約40分で私のいる上空に達し私の携帯しているマッチ大のココヘリから発信している電波をキャッチして捜索隊に位置情報を知らせてくれる段取りであったらしい。

私が、スマホの登山コンパスに登山届を作成しておればもっと捜索に役立ったということだ。

因みに警察からは、私の写真はもちろん当日の服装、普段の服装、収入、借金の有無、歯科医などなど私に関する多岐にわたる情報の提供を要請されたようだ。遭難というよりは失踪者、行方不明者リスト入りしあらゆる可能性を考慮して対策本部を設置しているようだった。幸いだったのはケガもなく無事に下山できたことだった。

 

 

【愛知県から急遽駆けつけてくれた娘が帰る間際に、カレンダーの裏に書き残していった誓約書?】

 

 登山前の約束

❶ 登山届コンパスで登山届を入力する

  ID : *********

  パスワード:*********

❷ ココヘリで登山計画を作成する 

  ID:***********

  パスワード:***********

  会員証ID:******

❸ 登山計画のメモを残す

  登り口

  降り口

  ルート

  山の名前

❹ ヤマップで地図のダウンロード

 

❺ ココヘリの充電・・・フル充電すると3ケ月電源が続く。

  家でスイッチを入れておく。入れる場所はできるだけリュックサックの上のほうへ。

❻ 携帯の充電&モバイルバッテリーの充電

 

  <持ち物>

 *携帯電話のモバイルバッテリー

 *懐中電灯

 *防寒用のアルミシート

 *車中での充電器

 

大変ご迷惑をおかけいたしました。

      了



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