あれは,あれで良いのかなPART2

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市町村長申立ての後見事件が増えそうです

2005年06月05日 22時33分27秒 | 地方自治
読売新聞によると,市町村長が申立てることができる後見開始申立の要件を4親等の親族の確認から2親等の親族の確認に要件を緩和するということです(ニュースソースはこちら)。簡単にいえば,これまでは甥姪の子まで確認する必要があったのが,これにより孫やきょうだい程度で済むということになります。
これについては,今後市町村による後見制度の積極的な活用が期待できる旨コメントもありました。
まあ,確かにそのとおりですが,ちょっと気になることがあります。

厚生労働省って,そんなことまで通達を出していたの?

そもそも後見開始の申立は,民法7条に規定があります。そこには市町村長ができる旨の記載はありません。
では,市町村長が申立ができる根拠はどこにあるのでしょうか。それは,特別法です。具体的には,老人福祉法32条,知的障害者福祉法27条の3,精神保健法51条の11の2等です。
ただ,ここで注意したいのは,いずれの条文も「市町村長は,必要あると認めるときに申立ができる」旨の規定があるに過ぎず,その具体的な内容までは規定されていません。
つまり,本来は,各市町村の独自の判断により申立をするか否かを決めることができるはずなのです。
しかし,現実にはこのような通達の存在により,市町村の独自申立は相当に制約されていたいのです。後見制度は高齢者や障害者等社会的弱者を保護するための制度であり,彼らの生活スタイルは地方によって相当異なるはずですから,全国一律に基準を作るということ自体ナンセンスだと思います。もっと,市町村に柔軟性を与えるべき案件ではないのでしょうか。

また,これは,先の政策法務の観点からすれば,まさしく市町村としては,自己の施策判断により自由に動けるべき事項であったと思われます。すなわち,法的拘束力がない以上,市町村は独自の法解釈によりより柔軟な対応ができたと思われます。
こんな所でも政策法務,そう考えさせられる一件でした。

いずれにしても,今回の方針変更により,政策法務云々はともかくとして,各市町村における後見制度に対する認識の充実と,高齢者障害者政策の充実が求められるようになることはいうまでもありません。この点については,大きな前進ではないでしょうか(虐待防止条例もより充実されると思われますし。)。

とはいうものの,実は手放しで喜べない問題もあります。簡単にいえば,「これにより,簡単に後見開始の審判が出る」ということにはならないということです。

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実は,4親等の親族探しから2親等の親族探しの負担が軽減されるのは,市町村担当者ですが,4親等の親族探しが全く不要になるわけではありません。状況によっては,4親等以内の親族探しをしなければなりません。
では,誰がさがすのか。それは,家庭裁判所です。
つまり,今回の厚生労働省の方針変更は,市町村からの申立てを簡単にできるようにした反面,家庭裁判所に対する負担を増やしたことになります。そして,裁判所はこれにより急に人が増えるわけではありません。とすると,結果として,後見開始の審判がでるまでより時間がかかってしまうという懸念があります。

まあ,申立てが増えるということで,社会的弱者に対するフォローが容易になるという点は非常によいことですが,家庭裁判所側がそれに追いつかなければ,結果的に審判が出ず,その間に様々なトラブルが発生してしまうという可能性も考えなければなりません。

この問題の解決策は,究極的には裁判官の増員になるでしょうが,すぐに対応できるはずがありません。当面は,裁判所,厚生労働省,市町村との間で連携を強化して,例えば戸籍集めは申立市町村が積極的に行うようにするなど,しっかりとした役割分担を定めておくことが大事ではないかと思います。

繰り返しになりますが,後見制度は社会的弱者保護のための制度です。彼らを保護すること,これが国家的命題であるといえるでしょう。