松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆書評『励ます令和時代の地方自治‐2040年問題を乗り越える12の政策提案』(木鐸社)

2021-05-06 | 1.研究活動
 自治体学会誌「自治体学誌」に、新城市の穂積市長さんが、『励ます令和時代の地方自治‐2040年問題を乗り越える12の政策提案』(木鐸社)の書評を寄せてくれた。

 書評をだれにお願いするかは、案外、難しい。やや偉そうに言えば、「きちんと読んでくれる人」でなければならないからである。とくに私の立場は、これまでのガバメント論では、地方自治の真の姿をとらえていないし、次の地方自治を切り開く導きにはならないという立場で、その具体化が、監視だけではなく、「励まし」であるというものである。

 「役所をチェックしていれば、それで市民は幸せになれる」と考えている学会主流の人たちには(おそらく自治体学会の主要な人たちにも)、おそらく、意味が通じないのではないか。だから、書評というと、穂積市長さんにお願いすることになる。

 下記のように、いつもながら、深い洞察と実践に裏付けられた文章で、ありがたいことである。

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 昭和を「役所と議員が税金で地方自治をしていた時代」とすれば、その転換を模索した平成を経て、令和の時代は「チェックや監視の地方自治から、市民が存分に力を発揮する励ましの地方自治へ」踏み出す時だと本書は訴える。

 この主張は、伝来の地方自治理論から異論を呼ぶかもしれない。たしかに地方自治法体系では、住民、議会、執行機関が相互牽制を通して、自治体の民主的・効率的運営を担うことが求められていて、そこに「励まし」の入る余地はないように思われる。
 
 しかし本書の論述は周到である。地方自治も統治システムの一環である以上、その土俵では民主的統制の原理が働くべきである。けれども地方自治体は排他的統治権を行使する主権団体ではないし、自らの行う業務の過半は地域社会の共同事務に根ざしていて、その規範原理をも推力にすることで運営されている。その原理は、相互牽制よりも相互扶助を、代表委任よりも全成員の意思確認を、支柱にしている。

 では民主的統制と協働協治とを結びつけるものは何か。それは「すべて国民は個人として尊重される」との憲法規範を、自治の現場で実体化させる努力だ。
諸個人が、国籍、人種、信条、性別、身分、職業等の違いにかかわらず、互いの人格と価値観を尊重し、孤立と排除の連鎖を断ち切って、「誰一人取り残さない」社会をめざして支え合えるようにすること。―基礎的社会単位でのその成熟度こそが、明日の民主制度を決するだろう。
 
 住民が投票や連署結果のように数の力を介して自治主体となるだけでなく、一人一人が自立し、考え、熟議し、働きかけ、行動する主体として立ちのぼってくるような地方自治の姿。それが「励まし」の向こう側に広がっていそうなことを、本書が語りかけてくる。

 「2040年問題」を市民自治の側から問い、俎上にのせるべき政策と法の体系を探究する上で必携の一冊である。【愛知県新城市長 穂積亮次】
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