松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆自治体結婚政策(3)婚活事業の中止・安芸高田市のケース

2021-02-27 | 自治体結婚政策

 安芸高田市は、男女の結婚を後押しする婚活事業を本年度限りで中止する。

 中国新聞によると、人口減少対策の一環で10年余り続けてきたが、新しい市長さんが打ち切りを決めたとのことである。

 石丸市長は婚活事業について「行政が関わることで結婚しないといけない、子どもを持たなくてはいけないという強迫観念が助長されかねない」と指摘。「異性婚を前提とし、LGBTの方々への配慮も欠いている。今の時代では公共性が損なわれている」と中止の理由を新聞には書かれている。

 気になるのは、若い市長さんの提案に、行政担当者は、どのように議論したのだろうかである。きちんとその意義を考えて来ていないと、正確に説明できないし、市長対職員の力関係だけで決まってしまう。

 そもそも、この事業の目的はなにかである。新聞によると、人口減少対策とのことであるが、本当にそうなのだろうか。市民の中にある、結婚したいが、出会いの機会がないという思いに応えたものではないか。その結果、人口減少対策に資することはあるが、それは派生的な結果に過ぎないのではないか。国ならば、人口減少対策でもいいが、市民の暮らしを守る地方自治の場合は、市民に寄り添う目的があるはずである。

 ここでは、担当が、市環境生活課ということもよくわからない。メインは、環境衛生の仕事なのに、なぜ、ここで結婚相談なのだろうか。

 これまでの事業内容は、市役所で結婚相談員が週2日対応している相談業務、事業の登録者に相手を紹介したり、出会いの場となるイベントを実施し、それらをサポートする結婚コーディネーター18人もいるという。成果は、09年度にスタートして、これまでに58組の成婚につながったという。

 まさに、まちづくりの仕組みであるが、これら取り組みが、「子どもを持たなくてはいけないという強迫観念が助長される」というのは、話が飛躍しすぎていると思う。

 地方自治は、市民の思いに応える仕組みで、それがある程度の量や一定の重さがあれば、政策になっていくが、あまりに理念的で、一方向にすぎるように思う。

 安芸高田市では、前市長さんが、自民党の河井議員からお金をもらって辞職し、選挙になり、今回の新しい市長さんが当選した。市長さんは、30代の元銀行員で、ニューヨーク駐在の経験者だという。こうした経験も一つの価値で、そこからの発想も大いに活かすべきであるが、同時に、これまで、まちの中で培って来た、市民が結婚をサポートする仕組みも価値である。

 最後は、市長が決めるとしても、この価値のぶつけ合いが大事で、それが役所内できちんと行われたのか、ここが一番気になるところである。そうした矜持を持って、自治体職員が、この仕事をしていたのかが、ポイントになる。

 市長の判断で、婚活事業は中止され、2021年度は、予算が盛り込まれなかったということであるが、しかし、これで問題が解決したことにはならない。「結婚したいが、出会いの機会がない」という市民の思いに対する答えになっていないからである(地方なのでより深刻だと思う)。

 価値のぶつけ合いで真摯な議論が行われていたら、両者を止揚する新たな政策が自然に生まれて来るが、ここでは果たして、どうなったのか。
 

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