実際それは野々野足軽がデートを終えて戻って来る30分前くらいである。家族になにかあったら、ちゃんと知らせが来るようにしてた野々野足軽だが、今回それがなかったのはそれは今日が平賀式部とのデートだったからだ。
確かに野々野足軽はデートをちょっと失敗してしまった。今度取り戻すと平賀式部とは夏祭りの約束をした。だから今度こそ……と思ってる。最近、寝る間もないほどに野々野足軽は世界中飛び回ってた。
いや本当に……それはそのくらい目の回るほどの忙しさ――を表す比喩ではない。事実だ。なまじ、野々野足軽はそれができる力を持ってたばかりに、野々野足軽はできる限りなんとかしようとしてた。
覚醒して行く超能力者たち。そのフォローは世界中に及んだ。速く飛べなかったら、野々野足軽も諦めることができただろう。けど今や野々野足軽は地球を今のどんな技術で作った飛行機よりも速く一周できる。
なので、どこにだって行くことができた。それに夏休みなのも拍車をかけた。自由に使える時間がたくさんあった。だからこそ、目一杯の対応ができた。野々野足軽は自身を善人なんて思ってない。けどきっと思い上がってた。
その力を使いたかった。本当に誰かのためじゃなく、力を確かめるためにたくさんの覚醒者達をさり気なくフォローをしてた。そしてその中で自分の力を実感していって、酔ってたのかもしれない。
それが大切な人とのデートの失敗につながった。そしてその後にこれである。
「なんて厄日だ」
そんな風に野々野足軽は思った。けど不幸中の幸い、小頭も母親も無事だ。本当ならこの残滓が30分も前に宿ったのなら、既に二人は……となってると思うだろう。
けどそこは大丈夫だ。なにせ、今も犯人は風呂場と脱衣所の扉の前にいる。ずっとガタガタ――としてた。なんとか手を引き抜こうしてるんだろう。けどそれはできない。
なぜなら、天使っ子と悪魔っ子が彼の潜り抜ける能力に干渉して阻害してるからだ。腕を扉から抜くことができなくなってるのだ。これは二人がよくやったと野々野足軽は思ってた。
それに今なら母親も小頭も気絶してる。もしかしたらそろそろ目覚めるかもしれないが……とりあえずその前になんとかしないといけない。けど、万が一にも見られたりはしたくない。ならどうするか?
野々野足軽には簡単だ。
「くっそ……なんで……俺の力なのに……なんでうまくできない!?」
そんな風に焦ってる男。その様子を遠視で観察しつつ、力を使って脳みそを掴んで一気にふるえさせてやった野々野足軽。その瞬間――「あへ?」――と間抜けな声をだして男は白目を向いて気絶した。