「へえー、二人は東京から来たんだ」
水着の少女「幾代」はそんな風にいった。取り返した自身のパンツを人差し指に通してクルクルと回してる。自分のパンツをそんな風にしてるから、流されるんじゃないか? と思ってしまう野々野足軽。けどそこは空気を読んでそんな事はいわない。それに……だ。それに……
(本人がパンツを目の前で回してるって……都会ではありえない光景だよな。田舎凄いな。これが開放感って奴か?)
とかなんとか思ってた。しかもただの女の子ではない。可愛い女の子が自分のパンツをまわしてるのだ。この子は野々野足軽を男子と認識してないのか? とさえ思ってしまう。普通異性がいたら恥じらいとか――まあそもそも外でパンツをクルクルするなよ――であるが、もうそこは田舎だからと足軽は納得してる。目の前のパンツとそして幾代……それを結び付けたとき、自然と足軽の視線は下の方へと向いてしまう。
(あのパンツがあの部分に……てか履いて帰るのか?)
ワザとではなかったとしても、足軽はあのパンツを顔にもっていって拭いたり使ったりしてしまった。もちろん足軽もまだピチピチの男子高校生だ。別に顔を一度拭いたからってパンツが脂ぎってしまう……なんてことはない。むしろ汚れてるかどうかさえわかんないだろう。けど……だ。けど、一度は顔に触れたあのパンツを目の前の女の子が履く――その可能性になんとも言えないいたたまれなさ? みたいなのを感じてた。
「ここなんにもないでしょ? いいなぁー東京はいっぱい遊ぶところとかありそうだよね」
そんな風にいって腰かけてる岩から脚をつかって川の水をピチャピチャとやってる幾代。実際東京とここではいろんなことが全く違うと野々野足軽も感じてる。まず全然人の多さが違う。野々野足軽の家は都心ではないが、都市圏ではあるだろう。だから外に出ると人をみる。当たり前に。駅に行けばそれこそ沢山の人が行きかってる。でもここではどうだ? ここに来る前にすれ違った人はいない。遠くで田んぼで何やらやってる人はみた。それに細い田舎道で軽トラと一回だけすれ違った。
それが全て……だ。正味片手で足りる人数である。
「退屈なんですか?」
幾代に向かって小頭がそんな風に聞き返す。それに対して幾代は「あはっ」とまぶしい笑顔を見せてこういった。
「憧れだよ。あこがれ。だからって私はここが嫌いな訳じゃないからさ。そうだ! 二人には私の好きなここを案内してあげよう!」
なんかそんな事が勝手に決まってしまった。でも断る理由もないから、足軽と小頭は二人して了承した。