いまだに収束の兆しが見えないロシアのウクライナ侵攻は、プロテニス選手の間でも大きな軋轢を生んでいる。そんななか、女子世界2位に君臨するベラルーシ国籍のアリーナ・サバレンカ(24歳)が、自身を含め侵攻国出身のプレーヤーへの風当たりが強い現状に対する苦しい胸の内を吐露した。
「私に対する変な視線を感じることが多いし、おそらく一部の人たちから嫌われているのだろうとも感じる。それでも今はただ、私はウクライナに悪いことは何もしていないと思っている。私がベラルーシで生まれたというだけで、私を嫌いになる人もいる。ただそれに関しては、私にはどうすることもできない」
「基本的に何もしていないのに人々から嫌われるのはいい気分ではないけれど、そういう雰囲気になっている。戦争を止められるならそうしたいけど、残念ながら私の手には負えないし、私がコントロールできることではない。私は政治とは何の関係もない。私はベラルーシのアスリートで、自分のスポーツでベストを尽くそうとしている。ただ自分自身に集中しようとしているだけよ」
彼女が全豪優勝を成し遂げた直後にもルカシェンコ大統領は「テニス競技団体が実施したルールに従い、中立の立場でプレーしているにもかかわらず、人々はサバレンカ選手がどこの国の選手であるかを知っている」とのコメントを出していた。
だが、ベラルーシ・テニス界のヒロインは依然として侵攻国出身のアスリートが多大な批判を浴びているなかで、自身に向けられたルカシェンコ大統領の称賛の言葉に違和感を抱いていると発言。「(彼の言葉が)何の役にも立っていないことは確かね」と前置きし、大統領を次のように批判した。
「彼は私の試合について好きにコメントできるし、彼がしたいことについても好きに話すことできるから、私はそれに対して何を言っていいかわからない。でももし、彼の言葉でウクライナ人が私をより憎むようになったら、私はどうしたらいいの? もし彼ら(ウクライナ人)が私を憎むことで気分が良くなるのであれば、私は喜んでその手助けをするわ」
「私には止められないし、悪いことはしていない」
正直な言葉だけれど、家族をロシアに殺されて、怪我をさせられて、行き場を失った人らに、そこへ加担する国家の誉高さで輝く人のこうした「突き放したような言葉」は激しく擦過傷をつけるのも事実。
最後の一文にある彼の言葉でウクライナ人が私をより憎むようになったら、私はどうしたらいいの? が実際の被害です。国家の誉れに見える人がターゲットにされ、見ていたくなさは残念だけれど心情として汲み取れる。
つまり今は国家の威勢に関われる成果は、被害を被る側の人らにとっては参与に見える。
当人が知らないわ、私のせいじゃない、と言いたくなるのはわかるが、プロスポーツに関わってる以上、「どこかの国の代表」は「知らないわ」で通せない倫理に迫ってくる。
スポーツが戦争に無関係なのが徹底していれば問題視はない。でもそうではない、と認知された世界の態度なのだ。彼の国にありながら、あなた達は何もしないで栄誉を得るのか、と。
わかってる。筋違いだと思ってる。
でもせめて、見えないところで振る舞ってほしい。無関係だから、の発言には少なからず棘がある。