LGBTについてずっと注目してくれている毎日新聞で「同性愛」の特集つづきです。
■境界を生きる:同性愛のいま/3 LGBT市場、狙う企業
http://mainichi.jp/feature/news/20130220ddm013100041000c.html
■境界を生きる:同性愛のいま/4 新たな家族のかたち、探し
http://mainichi.jp/feature/news/20130221ddm013100002000c.html
◆境界を生きる:同性愛のいま/3 LGBT市場、狙う企業
毎日新聞 2013年02月20日 東京朝刊
◇高い可処分所得、消費動向調査 当事者限定、就職説明会も
「ゲイ(男性同性愛者)の人たちは可処分所得が高く、旅行やファッションにお金をかける。このマーケットをいかにつかむか」
昨年11月、東京都新宿区。「新富裕層LGBT戦略」と題したセミナーに、旅行代理店や航空会社、大手ホテルの担当者ら25人が集まった。ゲイを中心とした性的マイノリティー(LGBT)を「富裕層」と位置付け、海外からの観光客誘致につなげる狙いだ。
セミナーを企画したのは、旅行コンサルティング会社「SKトラベルコンサルティング」(東京都北区)。年間約150組のゲイのカップルを日本に送っているというロサンゼルスの旅行代理店スタッフらが講師を務めた。「ゲイは知性的な人が多く、ゆったりと旅を楽しむ。必然的に宿泊数が増え、単価も上がる」と語る講師。「日本でも通用するか」という質問に「成功しない理由がない」と言い切った。
◇
LGBTの存在をビジネスチャンスととらえる動きが、一部の企業に出てきた。
日本では、カミングアウト(告白)の難しさもあり、就労の問題を抱えるLGBTは少なくない。だが、カップルが2人とも男性で、双方に収入があるゲイの場合、経済的に比較的余裕があるとも言われる。
電通総研は昨年、初めて国内のLGBTに関する大規模な消費動向調査を実施した。インターネットを使い、20〜50代の男女計約7万人からLGBT層490人と一般層300人を抽出し、回答を比較した。
「どんな商品にお金をかけるか」との質問に「海外旅行」と答えたのは、LGBT男性が一般男性の2・6倍。「国内旅行」は約1・5倍、「化粧品・理美容品」は約2・7倍にのぼった。女性では「車・バイク」で、LGBT女性が4倍近く高かった。
マーケティング会社「コチ」の東田真樹社長は「LGBTがお金をかけるジャンルとかけないジャンルを見極め、うまく訴求する商品やサービスを提供できれば、大きなビジネスチャンスがある」と話す。
大手旅行代理店のJTBは2年前、社内にLGBTのマーケティングチームを作った。法人専門のグループ会社で企画・販促を担当する百中さおりさんは「旅行者を受け入れる関係企業はまだ、LGBTとは何かが分かっていない」と指摘。LGBTへの理解を深めるため、まずは企業向けの海外視察旅行を企画中だ。
こうした企業の姿勢に対し、当事者たちは「LGBTへの関心が深まるのは好ましいこと」と評価する声がある一方で、ビジネスの対象としてだけ見られることへの冷ややかな見方もある。性的少数者が働きやすい職場環境を求める市民グループ「虹色ダイバーシティ」の村木真紀代表は、こうくぎを刺す。
「LGBTに取り入ろうとしても、その企業にいる当事者が安心して働ける環境でなければ、それが口コミで広がり、かえって反感を買う可能性もある」
◇
セミナーが開かれたのと同じころ、東京都港区の六本木ヒルズ森タワー47階に、リクルートスーツに身を包んだ約30人の学生が集まった。外資系金融大手「ゴールドマン・サックス」が実施した、LGBT限定の就職説明会だった。
前方のスクリーンに、中継で結ばれたニューヨークのオフィスにいる女性幹部が映し出された。彼女は女性パートナーがいることを明かし「自分のスタイルを隠さなければならないような会社は選ばないように」と、自社がいかにLGBTにとってチャンスのある企業であるかを訴えかけた。
連載の第1回で登場した法政大3年のマコトさん(23)は、現在就職活動中。面接ではゲイであることを明言したうえで、LGBTへの理解を深めるための出張授業などを行うサークルでの活動の実績をアピールする考えだ。「それを理由に拒絶するなら、企業の方がおかしい」
LGBTに友好的であることが、企業のアピールポイントになる−−。そんな時代が目の前に来ている。【丹野恒一】=つづく
◆境界を生きる:同性愛のいま/4 新たな家族のかたち、探し
毎日新聞 2013年02月21日 東京朝刊
◇2人の父、代理母が子出産 シングルマザー同士も
カナダの最大都市・トロントですくすくと育つ1歳の双子、ゲン(元)君とライデン(来伝)君には、2人の父親がいる。法的に認められ、同性同士で結婚したゲイ(男性同性愛者)のカップルだ。血もつながっている。代理母が産んでくれたのだ。性の多様性の先には、新たな「家族のかたち」も存在する。
「パパ」と呼ばれる静岡市出身の中村心(しん)さん(42)と、「ダディ」と呼ばれる米国・オハイオ州出身のマークさん(41)。2人は98年に東京で恋に落ちた。「将来、子どもを持ちたいな」。初デートから夢を語り合った。
正式に結婚できて、子どもを安全に育てられる国に住もう−−。2人はカナダで永住権を取り、07年に移り住んだ。トロントには、子どもを持ちたい同性カップルが養子制度や代理母について学んだり、育児指導を受けたりする、世界的にも珍しい公共の「ゲイの父親教室」がある。2人も3カ月受講した。
両親がゲイで、子どもはしっかり育つのか。そんな心配もあった。だが、父親教室でゲイのカップルに育てられた子どもが「愛情をかけて育ててもらった。何の問題もありません」と胸を張るのを見て、心は決まった。
翌年、日本人と米国人の親を持つ女性から卵子提供を受け、受精卵を凍結保存した。だが、大変なのはそこから。「危険を冒して子どもを産んでくれる代理母を探さねばならなかった」と心さんは振り返る。
ようやく代理母が見つかったのは2年半後。インターネットのサイトに代理母を探していると書き込んだところ、偶然目に留めた女性がいたのだ。夫と2人の子どもに囲まれ、満ち足りた生活を送っていたこの女性は「ゲイのカップルにも幸せになってほしい」と、代理出産を申し出た。
双方の精子をそれぞれ使った受精卵で双子が欲しい。2人の要望を、女性は快く受け入れた。心さんは女性の妊婦健診に毎回付き添い、出産を支えた。そして11年秋、元気な双子が生まれた。
現在、平日の子育てはホテル関係の仕事を休職した心さんが担い、生活費は会社員のマークさんが稼ぐ。代理母とは「家族のように」毎週メールを交換している。
「若いころはゲイであることに絶望し、自殺も考えた。こんなに素晴らしい未来があるとは」。心さんがやさしくほほ笑んだ。
同性愛者は子どもまで巻き込むべきではない−−。同性愛の当事者の中にさえ、こんな声がある。だが「ゲイの父親教室」でコーディネーターを務めるクリス・ベルトーベンさんは訴える。
「そう考えてしまうのは社会が原因。『人種差別があるから黒人は子どもを持つな』と言う人がいますか」
◇
契約社員の麻実さん(35)と会社員の緑さん(36)=ともに仮名=は、それぞれの小学生の娘と4人で暮らす。男性と結婚し、出産後に離婚した2人の女性が愛し合い、子どもとともに「一つの家族」になったのだ。
もともと女性が好きだった麻実さんは「我慢すれば男性を愛せるはずだ」と24歳で結婚。子どもができた。しかし、やがて自分を偽ることができなくなり「男性も愛せると思っていたが、違った」と、夫に告げた。
麻実さんと同じような境遇にある緑さんはシングルマザーの友人として互いの生活を支え合ううちに、互いにひかれ合うようになった。
「彼女の子どもにとっては、泊まりがけで遊びに来ていた親子が、いつしか毎日泊まるようになった感じ」と麻実さん。だが3年前、結婚式を挙げることを決めたのを機に、2人が夫婦のような関係だと子どもたちに打ち明けた。
子どもたちは当初「ポカーンとしていた」が、しっかり説明すると、受け入れたようだ。小学校には「親戚同士で暮らしている」と伝えている。「変に誤解されると困るから、友達には言わない方がいいよ」と子どもに話すのはつらい。でも、麻実さんは、こう話すようにもしている。
「長い歴史の中で、多くのマイノリティーが生きづらさと闘ってきた。2000年代に入ってから、同性同士で結婚できる国も出てきた。日本もきっと変わるよ」【丹野恒一】(25日にインタビューを掲載します)
■境界を生きる:同性愛のいま/3 LGBT市場、狙う企業
http://mainichi.jp/feature/news/20130220ddm013100041000c.html
■境界を生きる:同性愛のいま/4 新たな家族のかたち、探し
http://mainichi.jp/feature/news/20130221ddm013100002000c.html
◆境界を生きる:同性愛のいま/3 LGBT市場、狙う企業
毎日新聞 2013年02月20日 東京朝刊
◇高い可処分所得、消費動向調査 当事者限定、就職説明会も
「ゲイ(男性同性愛者)の人たちは可処分所得が高く、旅行やファッションにお金をかける。このマーケットをいかにつかむか」
昨年11月、東京都新宿区。「新富裕層LGBT戦略」と題したセミナーに、旅行代理店や航空会社、大手ホテルの担当者ら25人が集まった。ゲイを中心とした性的マイノリティー(LGBT)を「富裕層」と位置付け、海外からの観光客誘致につなげる狙いだ。
セミナーを企画したのは、旅行コンサルティング会社「SKトラベルコンサルティング」(東京都北区)。年間約150組のゲイのカップルを日本に送っているというロサンゼルスの旅行代理店スタッフらが講師を務めた。「ゲイは知性的な人が多く、ゆったりと旅を楽しむ。必然的に宿泊数が増え、単価も上がる」と語る講師。「日本でも通用するか」という質問に「成功しない理由がない」と言い切った。
◇
LGBTの存在をビジネスチャンスととらえる動きが、一部の企業に出てきた。
日本では、カミングアウト(告白)の難しさもあり、就労の問題を抱えるLGBTは少なくない。だが、カップルが2人とも男性で、双方に収入があるゲイの場合、経済的に比較的余裕があるとも言われる。
電通総研は昨年、初めて国内のLGBTに関する大規模な消費動向調査を実施した。インターネットを使い、20〜50代の男女計約7万人からLGBT層490人と一般層300人を抽出し、回答を比較した。
「どんな商品にお金をかけるか」との質問に「海外旅行」と答えたのは、LGBT男性が一般男性の2・6倍。「国内旅行」は約1・5倍、「化粧品・理美容品」は約2・7倍にのぼった。女性では「車・バイク」で、LGBT女性が4倍近く高かった。
マーケティング会社「コチ」の東田真樹社長は「LGBTがお金をかけるジャンルとかけないジャンルを見極め、うまく訴求する商品やサービスを提供できれば、大きなビジネスチャンスがある」と話す。
大手旅行代理店のJTBは2年前、社内にLGBTのマーケティングチームを作った。法人専門のグループ会社で企画・販促を担当する百中さおりさんは「旅行者を受け入れる関係企業はまだ、LGBTとは何かが分かっていない」と指摘。LGBTへの理解を深めるため、まずは企業向けの海外視察旅行を企画中だ。
こうした企業の姿勢に対し、当事者たちは「LGBTへの関心が深まるのは好ましいこと」と評価する声がある一方で、ビジネスの対象としてだけ見られることへの冷ややかな見方もある。性的少数者が働きやすい職場環境を求める市民グループ「虹色ダイバーシティ」の村木真紀代表は、こうくぎを刺す。
「LGBTに取り入ろうとしても、その企業にいる当事者が安心して働ける環境でなければ、それが口コミで広がり、かえって反感を買う可能性もある」
◇
セミナーが開かれたのと同じころ、東京都港区の六本木ヒルズ森タワー47階に、リクルートスーツに身を包んだ約30人の学生が集まった。外資系金融大手「ゴールドマン・サックス」が実施した、LGBT限定の就職説明会だった。
前方のスクリーンに、中継で結ばれたニューヨークのオフィスにいる女性幹部が映し出された。彼女は女性パートナーがいることを明かし「自分のスタイルを隠さなければならないような会社は選ばないように」と、自社がいかにLGBTにとってチャンスのある企業であるかを訴えかけた。
連載の第1回で登場した法政大3年のマコトさん(23)は、現在就職活動中。面接ではゲイであることを明言したうえで、LGBTへの理解を深めるための出張授業などを行うサークルでの活動の実績をアピールする考えだ。「それを理由に拒絶するなら、企業の方がおかしい」
LGBTに友好的であることが、企業のアピールポイントになる−−。そんな時代が目の前に来ている。【丹野恒一】=つづく
◆境界を生きる:同性愛のいま/4 新たな家族のかたち、探し
毎日新聞 2013年02月21日 東京朝刊
◇2人の父、代理母が子出産 シングルマザー同士も
カナダの最大都市・トロントですくすくと育つ1歳の双子、ゲン(元)君とライデン(来伝)君には、2人の父親がいる。法的に認められ、同性同士で結婚したゲイ(男性同性愛者)のカップルだ。血もつながっている。代理母が産んでくれたのだ。性の多様性の先には、新たな「家族のかたち」も存在する。
「パパ」と呼ばれる静岡市出身の中村心(しん)さん(42)と、「ダディ」と呼ばれる米国・オハイオ州出身のマークさん(41)。2人は98年に東京で恋に落ちた。「将来、子どもを持ちたいな」。初デートから夢を語り合った。
正式に結婚できて、子どもを安全に育てられる国に住もう−−。2人はカナダで永住権を取り、07年に移り住んだ。トロントには、子どもを持ちたい同性カップルが養子制度や代理母について学んだり、育児指導を受けたりする、世界的にも珍しい公共の「ゲイの父親教室」がある。2人も3カ月受講した。
両親がゲイで、子どもはしっかり育つのか。そんな心配もあった。だが、父親教室でゲイのカップルに育てられた子どもが「愛情をかけて育ててもらった。何の問題もありません」と胸を張るのを見て、心は決まった。
翌年、日本人と米国人の親を持つ女性から卵子提供を受け、受精卵を凍結保存した。だが、大変なのはそこから。「危険を冒して子どもを産んでくれる代理母を探さねばならなかった」と心さんは振り返る。
ようやく代理母が見つかったのは2年半後。インターネットのサイトに代理母を探していると書き込んだところ、偶然目に留めた女性がいたのだ。夫と2人の子どもに囲まれ、満ち足りた生活を送っていたこの女性は「ゲイのカップルにも幸せになってほしい」と、代理出産を申し出た。
双方の精子をそれぞれ使った受精卵で双子が欲しい。2人の要望を、女性は快く受け入れた。心さんは女性の妊婦健診に毎回付き添い、出産を支えた。そして11年秋、元気な双子が生まれた。
現在、平日の子育てはホテル関係の仕事を休職した心さんが担い、生活費は会社員のマークさんが稼ぐ。代理母とは「家族のように」毎週メールを交換している。
「若いころはゲイであることに絶望し、自殺も考えた。こんなに素晴らしい未来があるとは」。心さんがやさしくほほ笑んだ。
同性愛者は子どもまで巻き込むべきではない−−。同性愛の当事者の中にさえ、こんな声がある。だが「ゲイの父親教室」でコーディネーターを務めるクリス・ベルトーベンさんは訴える。
「そう考えてしまうのは社会が原因。『人種差別があるから黒人は子どもを持つな』と言う人がいますか」
◇
契約社員の麻実さん(35)と会社員の緑さん(36)=ともに仮名=は、それぞれの小学生の娘と4人で暮らす。男性と結婚し、出産後に離婚した2人の女性が愛し合い、子どもとともに「一つの家族」になったのだ。
もともと女性が好きだった麻実さんは「我慢すれば男性を愛せるはずだ」と24歳で結婚。子どもができた。しかし、やがて自分を偽ることができなくなり「男性も愛せると思っていたが、違った」と、夫に告げた。
麻実さんと同じような境遇にある緑さんはシングルマザーの友人として互いの生活を支え合ううちに、互いにひかれ合うようになった。
「彼女の子どもにとっては、泊まりがけで遊びに来ていた親子が、いつしか毎日泊まるようになった感じ」と麻実さん。だが3年前、結婚式を挙げることを決めたのを機に、2人が夫婦のような関係だと子どもたちに打ち明けた。
子どもたちは当初「ポカーンとしていた」が、しっかり説明すると、受け入れたようだ。小学校には「親戚同士で暮らしている」と伝えている。「変に誤解されると困るから、友達には言わない方がいいよ」と子どもに話すのはつらい。でも、麻実さんは、こう話すようにもしている。
「長い歴史の中で、多くのマイノリティーが生きづらさと闘ってきた。2000年代に入ってから、同性同士で結婚できる国も出てきた。日本もきっと変わるよ」【丹野恒一】(25日にインタビューを掲載します)