「風に恋う」 額賀澪 310頁
憎たらしいほど眩しい。どのくらい眩しいかと言うと
「タンスの角に足の小指思いっきりぶつけてしまえ!」だ。
吹奏楽部に打ち込んだが全日本大会出場を果たせず中学卒業と同時に吹奏楽をやめる決心のアルトサックスの茶園基。
かつて憧れていた吹奏楽の強豪校・千間学院高校に進学するが、今の吹奏楽部にはここ7年予選を抜けることが出来ず、以前の栄光の見る影は無い。
そんな彼の前に、黄金時代の部長、OB不破瑛太郎がコーチとして現れた。
基は瑛太郎の世代の吹部を追ったドキュメンタリー番組「熱奏 吹部物語」を見て音楽を始めた憧れの人物だったのだ。
「茶園、俺と一緒に、全日本に行く部を造ろうか」
停滞していた千学吹部をぶち壊し、作り直す為に瑛太郎は一年生の基を部長に指名した。
コンクールの自由曲は瑛太郎のかつての吹部仲間(女子)
の作曲した新曲「風を見つめる者」だ。
憎たらしいほど眩しい、そして羨ましく愛おしい、彼等の夏が始まる。
今現在、部活に熱中している現役生。
かつて青春をかけたOB達。
そして部活に打ち込み過ぎているわが子の勉強に気を揉んでいるお母さん、お父さん達。
それぞれみんなの涙腺に響くセリフが、文章が、音楽が
この本のなかから、次々と飛び出してくる。
「まるで感動の100本ノックやーッ!」って彦摩呂かよ、額賀!
『指揮者がいないと演奏って難しいだろ。
もしかしたら今「自分たちはまだみんなで一つになれてない」なんて思ってるやつがいるかもしれないけど大体そんなもんだ
人間っていうのは生まれてから死ぬまで一人なんだ。五十五人とか六十三人で集まって一つになんてなれないんだよ。
歩く速度が違って、抱えてる事情が違うんだ
だから同じ方向を向くんだ。バラバラの人間が同じ方向を向こうとすることに意味があるんだよ 』
ブラック部活、とかいろいろキャッチーな宣伝文句が目に入るかもしれないが、本文はあくまでも正攻法、正論、ド直球の青春部活ストーリーである。
タオルを準備して涙を汗と誤魔化して拭うべし、なのだ。