疫病2020 門田隆将
2020年のベスト本かもしれない。
今年がBCビフォアーコロナとACアフターコロナに分かれることが確実な現状を見れば当然の必読書であり、2020年ベストとかノンフィクションベストとか、そういったピンスポットのエリアで捉えてよい本では無い気がする。
それほどの価値がある。いうなればベスト本ではない、マスト本だ。
完成度とか、信憑性といった視点で語れば、落ち度も不足な点もある、が、著者も言うように今は有事だ。
人類の生命も文明の継続も文化の存立も全てが剣先の上に危ういバランスで辛うじて踏みとどまっているに過ぎない。
「拙速は巧遅に勝る」「空振りは許されても見逃しは許されない」といった危機の際に挙がる数多の格言にあるように、“今、これを知らなければ、これからの身の安全が保てない!”事実が本書には詰まっている。
それだけの価値のあるものは今こそ世に出され、読まれてこそ価値があるのだ。
例えば5年後に完璧に整合して官僚のご立派な報告書が完成したとして、何の価値があろうか?
取返しの付かない悪路まで行ってしまった我々に、或いは死に絶えた世界の中で何の価値があるのか?誰が読むのか?想像してみるがいい。 ゴミと一緒だ。
本書では門田が香港に取材に出かけた時、2019年11月のコロナの発症の発端から始まり、日本と台湾の対象的な疫病対策の違いから、中国内でコロナウイルスが猖獗を極める様子、共産党の隠蔽とWHOの追従を経て全世界に広がってゆく様子が明白に記されている。
秀逸なのはこれらの時系列事象に全て納得できる理由がついていることだ。
何故、中国で始まったのか?
何故、世界に拡散してしまったのか?
何故、日本政府、安倍総理は防疫でも経済でも悪手ばかり打ってしまったのか?
何故、台湾では日本でできなかった最善の手を打つことができたのか?
これらの疑問点は、いまやヒステリックワイドショー化してしまった各局のニュース番組ではもまるで分らなかい、まったく触れられないのであるが、本書では明確に答えている。
ニュースを一日中見る暇があれば、この本で真実を学べ!いかにニュース番組が無意味、どころか、害悪であるかが実感できる。
更に、我々が生き抜くために必要なのは現状認識である。過去にどこで道を誤ったか?と共に、これから歩む道の方向を決めるには今自分は何処に迷って居るのか?これを知らなければ遭難した山中から生還することはできないのだ。
著者はいくつも重要な現状認識を示してくれているが特筆すべきは以下の2つだと思った。
①安倍総理と内閣(大臣たち)の指導者としての能力はかつてとは別物といっていいぐらい劣化している。
危機管理能力しかり、正しい政策を見出す判断力しかり、情報収集力しかり、外交力しかりだ。
中国と財務省に手足をしばられ、側近と官僚に目と耳をふさがれている。
1、2年前に米大統領と気脈を通じ、共に北朝鮮危機に対峙し、オリンピック開催を決め経済復活を遂げた時の安倍政権と、今の安倍政権は主の顔は同じでも能力も正しさも全く別人だ。
むしろ過去の栄光を我らが知り、声援を送った記憶が鮮明なだけに始末が悪い。
まるで末期の朝鮮出兵を断行した時の老耄した太閤秀吉のようなものである。
だが我々は今の第二波のコロナ拡散、次に来る第三波の冬の強毒化コロナに対して、この政権と共に戦わねばならない、
なぜなら、次期総理候補も野党も都知事も、今の死に体の安倍政権よりもはるかに無能ではるかに害悪だからだ。
繰り返す。だからこそ、この政権への現状認識は大切なのだ。我々は、残り少ない燃料と金属疲労で壊れそうなエンジンでゴールに生還しなければならない。
その覚悟と冷徹な判断力が求められているのだ。
②中国は初動でこそ隠蔽と医療崩壊で失敗したが、今や強権的な国家統制によってコロナ疫病を抑え込むことに成功してしまった。
あの国でありながら治療を無償化し、副作用の治験も顧みずワクチン開発と選定を強引に実用化させたのである。
更に悪いことには、疫病抑え込みを名目にして中国全土をネットと監視カメラによる全体統制社会として完成させてしまった。
ウイグルだろうが、香港だろうが、今後は全ての不満は監視され、反対運動は摘まれ潰される。
習中央集権体制は拡大、盤石化し、尖閣や南沙の先端部門同士が、皇帝の御機嫌をとろうと危険なスタンドプレイに走ろうと躍起になっている。
我々の迷子になった森の中には狼や毒蛇が存在していることを認識する。何が危険で、どんな毒があるか?これもまたサバイバルのためのマストな知識なのだ。