幻想小説周辺の 覚書

写真付きで日記や趣味を書く

怪談の学校

2022-08-20 23:01:00 | 書評 読書忘備録
怪談の学校 京極夏彦、木原広勝、中山市朗、東雅夫  
317頁を読む ★★★★ 151冊目
 
学校の怪談じゃあありません。
怪談の学校です。トイレにハナコさんも出て来ないし
理科室の人体模型君も踊りません。 
だからといって怖くないかといえば、そうでもありませんが。。。

何故こんなタイトルかと申しますと、こちらはダヴィンチ、幽、の
人気コーナー。怪談を読者から投稿してもらいそれを選考員が
評したり解説したりするというものの連載をまとめたものです。

怪談というものはこれを読むと、素材も大事ですが、語りの技術や文章の推敲が結構大事なポイントであることがよくわかります。
例えば首吊りが目に飛び込んできた、という場合にはその何が怖い
のか?を語らずに、怖い首吊りという特異なシチュエーションを
取り出したことで満足してしまう作者が多いのではないでしょうか?
本当に怖いポイントは例えば伸びきったアンバランスな首、だったり。目が見開いているのか瞑っているのか?古いのが怖いのか新しいから怖いのか?など怖さのポイントがこの話のどこにあるのか?を
理解して表現することが必須だというのです。

この本の面白いのはそれぞれの投稿怪談もさることながら、それを
シビアに評価、採点しそれぞれの評者がコメント面白く加える
ところにあります。
なかでも面白かったのは木原さんの回で投稿オリジナルの怪談と
木原さんの手による、僕ならこう書くというアナザーバージョンの
怪談を併設する回の分です。
プロのものとアマチュア投稿者によるもの、そのシビアな
実力の違いと、技の完成度の差がしっかりと把握できて
楽しくもあり、怪談や物語の生成の瞬間というものはこのようで
あるのだな。と感じることができました。




読書レビュー 誰かが見ている

2022-08-20 22:50:00 | 書評 読書忘備録
「誰かが見ている」 宮西真冬  274頁

第52回のメフィスト賞受賞のデビュー単行本2017年出版。
4人(+1人)の女性(+2人の子ども)がそれぞれ1人称で
立ち替わりに語り進め、物語のピースを埋める。。
というかルービックキューブを交代で順番に自分の色(家庭)を揃えてゆくような印象を受けた。
自分のターンになると必死に、けなげに自分の家庭や生活を整え揃えようと女性たち、妻、母親、保母、・・・・

SNSとブログで理想のなりすまし母娘の投稿を続ける母親。
セックスレスに悩みながら不妊治療にすがる妻。
保育所のストレスに過食に走り、結婚に救いを求める保育士。
高級マンションに住み母子ともに一見、恵まれた容姿と境遇に見える母親。




ようやくそろい始めた自分の色の面=幸福な家庭、に手が届き 
始めるとキューブは次のプレーヤーの女の手に渡り、盤面が乱されてしまう。
非常にも・・

夫や父親は書き割りのように類型的で存在価値を読みだせない、妻や母親の悩みも子育ての苦労もお手伝い、協力レベルでやってみようか?程度の他人事なのだ。
どの女性も「隠し事」を抱え「裏の面」を抱え、日々軋み悲鳴を噛み殺しいる。

「助けて」と誰も言えない、誰にも言えない
ネットで相互監視するように隣人の緑の芝生を注視することしかできない。いつの間にか嵌ってしまった異様な社会です。

読者の女性は激しく共感し、読者の男性は慙愧の念にさいなまれるでしょう。
それでもキューブは物語りのラストの一つの完成形に向けてターンが繰り返されてゆきます。お互いのターンがお互いの面に干渉し、組み合わされながら一つの形にそれぞれの女性たちの人生、家庭が絡み、収束してゆく。
全てのピースが組み合わさり 出来上がったキューブの色は?図柄は?どんなものになったのでしょうか? 
それはネタバレで書けませんが
僕にはこの辛い経路をようやく走り終えたような、読了の満足感を得たものであることのみ報告しておきます。

読書レビュー レズ風俗で働くわたしが、他人の人生に本気でぶつかってきた話 橘みつ

2022-08-20 22:48:00 | 書評 読書忘備録
レズ風俗で働くわたしが、他人の人生に本気でぶつかってきた話
橘みつ 

この人は頭がいい、単に物知りな優等生的な頭の良さ、では無くて、ものを見て、感じて、それを自分の言葉として表現できる頭の良さを持っている。
さらに、自分の生き方とか仕事を、今までの形骸を捨てて、セルフビルドできる強さと、それを可能にできること、これも頭の良さ故なのだ。

流行りのレズ風俗本だ、とかWEBエッセイだ・・・とかタカをくくって興味本位で読むと辛辣にしかえしされるかもしれない。
しっかり心構えして読んでほしい。

「ーー前略ーーわたしの仕事は、お客さんの性的欲求を満たすことだけではない。
 ここに来る女性たちはそれぞれ物語のかけらを持っている。
 それは世間一般では問題があるとか普通じゃないとと呼ばれるようなものかもしれない。
でも私からすると、それはまだ誰にも読まれたことのない本のようなものだ。
そして、誰かに開かれるのを静かに待っている。その物語を一緒に読み解いていくのが、わたしの仕事だ。
 体の奥のその人自身ですら知らない心を対話によって開いてゆく 。」
冒頭の自分と自分の仕事を紹介するところの文章をそのまま抜き書きしておこう 僕の所感が納得できるはずだ