『傷だらけのカミーユ』 ピエール、ルメートル 400頁
まずはこの作品でカミーユヴェルーヴェン警部シリーズが幕となり「カミーユ警部、本当にお疲れ様でした・・・」と声を掛けてあげたくなった。
出来ることなら自分が馴染みの横丁のモツヤキ屋さんにでもお連れしてパリのビストロ料理にも通じるレバ焼きとチューハイを奢りたいぐらいですよ。
とにかく、それくらい彼はルメートルにこのシリーズで散々な目にあわされてきたのだ。
もう悲しくて悲しくてやりきれない「イレーヌ」を読み終えて
やっと「アレックス」で立ち直り現場に復帰を果たし、本作でようやく奇跡的に新たな恋人と出会えて精神的にも傷が塞がりかけたところを狙いすましたように運命と小説家の魔の手が襲い掛かる。
最愛の恋人が宝石店強盗の現場に運悪く居合わせてしまってズタボロの大怪我を負わされてしまうのだから。
しかも彼女は強奪犯人に口封じのため命を狙われる。
カミーユは彼女を守り、仇を討つ(かつてのイレーヌの時の運命への仇も含めて)かの如く捜査の指揮を執る。
例によって警察内部とか判事とか検事とかは全て彼の犯人逮捕への足枷にしかならない。
文字通り傷だらけ、ヘトヘトのボロゾーキンになってしまうのです。
原題はSacrifices 犠牲、犠牲者の複数形。
この意味するところがラストが近づくによって徐々にわかってくる。
この辺はルメートル節健在!ってところです。
読者にとってはカミーユ・ヴェルーヴェンもルイも他の人物達もすっかりこの三部作でフィクションの登場人物ではなく、冒頭で僕がモツヤキ屋のくだりを妄想したように実在し、
ともに人生の苦悩を分かち合う愛おしき存在になってしまっているようです。
ですので、なおのことヴェルーヴェンシリーズはこれ以上苦労が積もらないよう幕としていただき、
今後はカミーユはルメートルによる別のミステリーにちょい役としてだけ現れ、相変わらずパリ警察で苦労しているのか、
さもなければ無事引退してルイ・マリアーニ警部の相談役としておいしい所を持っていく、
とかそんな消息を読んでみたいもんだと思いました。
「よう、ルイ、相変わらず忙しそうだな、それに、いい服を着ている。今日はどうしたんだ?」
「カミーユ、いつもすみませんね。またヒドイ事件に当たっちゃいましてね。ちょっとこの写真で感じるところをお聞かせねがえませんか・・?」
なんてね