2月20日(月)ウラディーミル・アシュケナージ指揮 NHK交響楽団
《N響創立80周年/サントリーホール20周年記念公演》
サントリーホール
【曲目】
1.武満 徹/リヴァラン
Pf:ウラディーミル・アシュケナージ
2.ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
3.ナッセン/ヴァイオリン協奏曲 作品30
Vn: ジェームズ・エーネス
4.猿谷 紀郎/Where is HE? 夢 まじらひ ~谷川俊太郎の詩”Where is HE?とともに~ N響委嘱作品 [世界初演]
朗読:谷川俊太郎
5.武満 徹/5人の打楽器奏者とオーケストラのためのフロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム
武満徹の没後10年に当たる今年は、モーツァルトと共に武満の作品に接する機会が多くなりそうだ。今日の10回目の命日にちなんで行われたサントリーホールとN響主催の武満のためのコンサートは素晴らしい内容だった。ロビーには湯浅さん、松平さん、池辺さんなどの作曲家の姿も見られ雰囲気も盛りあがる。
「リヴァラン」は、武満徹円熟期の1985年の作品。指揮のアシュケナージがピアノを受け持ち、作品のもつ濃密な色彩と輝きが見事に放たれた演奏となった。「調性の海へ進んで行く」(武満)この音楽だが、厳しさに貫かれた中に聞こえる調性的な響きはひときわ美しい。アシュケナージのピアノと指揮で導かれたN響は、弦も管も理想的に鳴り、響き、音を紡ぎ、極上の音世界を体現した。
続く「牧神」も絶品!引いては打ち寄せる波のように滑らかにつながったやわらかな音の動きは生きているように呼吸し、聴いている者を遠い彼方へと運んで行ってしまうよう。波の響きには匂やかな香りの細かい気泡がほどよく取り込まれ、あたたかな空気を抱いている。こんな素敵な「牧神」には滅多に出会えない。神田さんのフルート、松崎さんのホルンをはじめ、各ソロ楽器の妙技も見事。
ナッセンのヴァイオリン・コンチェルトはソロのエーネスの力量が光っていたが、少々眠くなってしまった。
猿谷の新曲は緻密かつ柔軟に書かれた秀作で、アシュケナージ/N響はこれを豊かな感性で描いた。谷川さんの朗読はとてもいい味がある。ただ、次にまた武満作品を聴き、武満にしかない音楽のたたずまいの中に身を置くと、ナッセンや猿谷の音楽は「良く書かれている」という以上に何があるか、という疑問が湧いきてしまう。
この日最後に演奏された「フロム・ミー・・・」には初めて接したが、こんな素敵な未知の作品にまだまだ出会えるのが嬉しい。「ファミリー・トゥリー」を思わせるハーモニーや旋律の動きは、既に晩年期の静かな境地が窺えるが、様々な打楽器がカデンツァも交えて繰り広げる異文化的な音色とリズムの競演や、チベットの習俗にちなんだ5色の長い布やら、客席からクロタルを鳴らしながら奏者が登場するといったシアターピース的要素が加わり、強いメッセージを伝えてくる。劇場効果という表面上の演出が、民族性を超えて深く人類に根源的に共通する精神性にまで昇華されているのは武満の真骨頂。ここでもアシュケナージ/N響のファンタジーに溢れた名演があり、更にN響の5人のパーカッション奏者の見事なパフォーマンスが曲の真価を発揮した。
今夜のコンサートは僕がこれまでに聴いたアシュケナージ/N響の中で最高の出来だと思う。緻密で滑らかな音の運び、温かくファンタジー豊かな響き、柔らかく極彩色に変化する音色・・・ デリケートで細やかなアシュケナージのセンスが鮮やかに反映された。
武満没後は映画音楽系のより一般受けする音楽はよく演奏されているが、没後10年を機に武満の重要なオーケストラ作品を定期的に取り上げてもらいたいものだ。そして武満のオケ作品はN響で聞くに限る、と再認識した。
《N響創立80周年/サントリーホール20周年記念公演》
サントリーホール
【曲目】
1.武満 徹/リヴァラン
Pf:ウラディーミル・アシュケナージ
2.ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
3.ナッセン/ヴァイオリン協奏曲 作品30
Vn: ジェームズ・エーネス
4.猿谷 紀郎/Where is HE? 夢 まじらひ ~谷川俊太郎の詩”Where is HE?とともに~ N響委嘱作品 [世界初演]
朗読:谷川俊太郎
5.武満 徹/5人の打楽器奏者とオーケストラのためのフロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム
武満徹の没後10年に当たる今年は、モーツァルトと共に武満の作品に接する機会が多くなりそうだ。今日の10回目の命日にちなんで行われたサントリーホールとN響主催の武満のためのコンサートは素晴らしい内容だった。ロビーには湯浅さん、松平さん、池辺さんなどの作曲家の姿も見られ雰囲気も盛りあがる。
「リヴァラン」は、武満徹円熟期の1985年の作品。指揮のアシュケナージがピアノを受け持ち、作品のもつ濃密な色彩と輝きが見事に放たれた演奏となった。「調性の海へ進んで行く」(武満)この音楽だが、厳しさに貫かれた中に聞こえる調性的な響きはひときわ美しい。アシュケナージのピアノと指揮で導かれたN響は、弦も管も理想的に鳴り、響き、音を紡ぎ、極上の音世界を体現した。
続く「牧神」も絶品!引いては打ち寄せる波のように滑らかにつながったやわらかな音の動きは生きているように呼吸し、聴いている者を遠い彼方へと運んで行ってしまうよう。波の響きには匂やかな香りの細かい気泡がほどよく取り込まれ、あたたかな空気を抱いている。こんな素敵な「牧神」には滅多に出会えない。神田さんのフルート、松崎さんのホルンをはじめ、各ソロ楽器の妙技も見事。
ナッセンのヴァイオリン・コンチェルトはソロのエーネスの力量が光っていたが、少々眠くなってしまった。
猿谷の新曲は緻密かつ柔軟に書かれた秀作で、アシュケナージ/N響はこれを豊かな感性で描いた。谷川さんの朗読はとてもいい味がある。ただ、次にまた武満作品を聴き、武満にしかない音楽のたたずまいの中に身を置くと、ナッセンや猿谷の音楽は「良く書かれている」という以上に何があるか、という疑問が湧いきてしまう。
この日最後に演奏された「フロム・ミー・・・」には初めて接したが、こんな素敵な未知の作品にまだまだ出会えるのが嬉しい。「ファミリー・トゥリー」を思わせるハーモニーや旋律の動きは、既に晩年期の静かな境地が窺えるが、様々な打楽器がカデンツァも交えて繰り広げる異文化的な音色とリズムの競演や、チベットの習俗にちなんだ5色の長い布やら、客席からクロタルを鳴らしながら奏者が登場するといったシアターピース的要素が加わり、強いメッセージを伝えてくる。劇場効果という表面上の演出が、民族性を超えて深く人類に根源的に共通する精神性にまで昇華されているのは武満の真骨頂。ここでもアシュケナージ/N響のファンタジーに溢れた名演があり、更にN響の5人のパーカッション奏者の見事なパフォーマンスが曲の真価を発揮した。
今夜のコンサートは僕がこれまでに聴いたアシュケナージ/N響の中で最高の出来だと思う。緻密で滑らかな音の運び、温かくファンタジー豊かな響き、柔らかく極彩色に変化する音色・・・ デリケートで細やかなアシュケナージのセンスが鮮やかに反映された。
武満没後は映画音楽系のより一般受けする音楽はよく演奏されているが、没後10年を機に武満の重要なオーケストラ作品を定期的に取り上げてもらいたいものだ。そして武満のオケ作品はN響で聞くに限る、と再認識した。