東京・銀座4丁目のランドマーク、というよりファンには「木挽町(こびきちょう)」の旧地名で親しまれてきた歌舞伎座。
28日に千秋楽を迎え、30日の歌舞伎座閉場式をもって完全に60年の歴史を閉じた。取り壊される前に、歌舞伎座の秘話やトリビアを集めてみた。
【なぜ建て替え?】
破風造りの瓦屋根に白壁、赤ちょうちん…現在の歌舞伎座は4代目。先代は東京大空襲で一部を残して焼け落ち、1950年に再建された。文化遺産をなぜ建て替え?
「戦災に遭った建物の一部も使われ老朽化で、耐震性が危うい。エレベーターなどバリアフリー設備もない。4階までの客席約2000席は情緒があるが、1階でも柱で花道が見通せない席があるなど、劇場としては賞味期限切れなんです」(演劇ライター)
現在の雰囲気を残しながら、高層ビルと一体化した複合施設として2013年に生まれ変わる。
【チケット高騰】
16カ月も続いたさよなら公演も「御名残四月大歌舞伎」の28日の第三部が“最後の最後”。
巷の金券ショップでは2500円の3階B席に5万円、1万5000円の1等席は10万円に迫る値が付いた。一演目ごとに低価格で見られる当日券「一幕見席」は連日、長蛇の列ができている。

【屋上の住人】
パリ・オペラ座には蜂が住みハチミツが土産として売られている。歌舞伎座の屋上の住人は鳩だ。「ある時期、鳩が異常に増え歌舞伎座の舞台に上がることがあって、苦情が殺到。思案のあげく業界トップの建設会社が鳩小屋を建設、歌舞伎座の屋上にはそれ以来、鳩が暮らしているんです」(劇場関係者)
【名物弁当、そば】
歌舞伎座内には、短時間でかっ込めるカレーコーナーから、吉兆まで懐具合に合わせた食事処がある。幕の内のお弁当が忘れられない人のために、人気の「くまどり弁当」(901円)や「歌舞伎小町」(1201円)など歌舞伎座厨房の弁当が、日本橋高島屋で売られる。
また、歌舞伎座に入らなくても食べられるのが場外店の「歌舞伎そば」。もりかき揚げ(470円)は、幕間にさっと食べやすいよう、かき揚げが6つに切ってある。
「揚げたてサクサクで、そばも美味。そば湯が出るタイミングもあうん。よく“三階さん”(大部屋俳優)の若い子が飛び込んできて、あっという間に平らげていくよ」(常連客)
【婚活現場だった】
チケットがないと入れないが歌舞伎座のロビーや階段踊り場には鏑木清方、伊東深水、片岡球子、朝倉文夫ら日本画壇の最高峰の絵画や彫刻、フランスの巨匠ビュッフェが描いた油彩「景清」などが展示されている。 開館当初は、お見合いの定番スポット。また、家族と観劇にきた気立てのよいお嬢さんが歌舞伎俳優の妻になるなど、ラブロマンスには事欠かなかった。
中村橋之助が三田寛子をデートに誘ったシチュー専門店「銀之塔」は歌舞伎座と同じ銀座4丁目にある。
【芝居の神が住む】
いつの頃からか「歌舞伎座には神がいる」と俳優たちは語る。「三人吉三巴白波」に出演中の尾上菊五郎には「今年は春から縁起がいい」と言うセリフがある。その通り、愛娘の寺島しのぶがベルリン映画祭最優秀女優賞を受賞し、歌舞伎ファンまでもが喜んだ。
【じっくり見る好機】
オールドファンが、さよなら公演に通い過ぎたためか、新橋演舞場と大阪松竹座に移して開かれる5月歌舞伎には、まだ空席が目立つ。
「新橋演舞場では、何かと話題の市川海老蔵が『助六由縁江戸桜』で22年ぶりに平成初の“水入り”を演じる。江戸恒例の『團菊祭』が大阪で行われるのも話題。今が歌舞伎をじっくり見るチャンス」(演劇ライター)