久能山東照宮は家康が駿府で没した翌年の1617年、駿河湾に面した断崖(だんがい)絶壁の久能山(標高270メートル)の山頂付近に建てられた。本殿と拝殿を床の低い「石の間」でつないだ「権現造り」と称される複合社殿が特徴。権現造りは久能山東照宮を皮切りに、江戸時代を通じて全国に普及、発展していった。東照宮は現在も全国に600近くあるとされ、権現造り社殿の先駆けとなった最古の東照宮であることが評価された。
また、社殿が江戸幕府直営の建築集団の礎を築いた大工頭、中井大和守(やまとのかみ)正清(1565~1619年)の代表建築の一つであることも評価された。後に国宝となる建物を数多く手掛けた中井の最晩年の作で、技術や能力を集大成した建物とも言われる。
日本古来の建築様式「和様」を基調に、要所に極彩色や金工、彫刻を装飾し、表情豊かで華麗な造りとなっている。
久能山東照宮は2001年から昨年3月まで、「平成の大修理」として社殿の漆の塗り替えなどを行った。この大修理の際に江戸時代の建築の現存が再評価されていた。
県教委などによると、県内の重要文化財の国宝指定は、1961年に美術品として指定された手鑑「翰墨城(かんぼくじょう)」(MOA美術館所蔵)以来。県内の国宝は、建造物1件、美術工芸品11件になる。文化庁によると、答申から正式決定まで一般的に2~3カ月かかるという。全国の国宝(建造物)は216件、264棟になる。
文化審議会は久能山東照宮の国宝指定と併せて、同神社の社殿手前の参道脇にある「神饌所(しんせんじょ)」についても高い歴史的価値が認められる―として重要文化財に追加指定するよう答申した。神饌所は供物をそろえるための建物。1647年に建築された。
観光ブランドに寄与
川勝平太知事の話 文化財保存に向けた関係者の日ごろのご努力に敬意を表したい。400年にわたる久能山東照宮への人々の尊敬と信仰の篤(あつ)さを感じる。本県は「富国有徳の理想郷ふじのくに」を掲げているが、国宝指定は本県の伝統・文化の奥深さをあらためて認識する機会で、観光ブランドの確立にも大きく寄与すると期待している。
市にとり大きな活力
小嶋善吉静岡市長の話 大変うれしく、光栄に思う。保存に尽力されてきた関係者に心からお祝い申し上げたい。久能山東照宮は家康公の駿府在城時、政治、経済、文化の中心地として繁栄した静岡市の歴史を代表する文化財。「世界に輝く静岡」を目指す本市にとっても大きな活力になる。大切な歴史遺産として関係者と共に保存・活用に努め、魅力を広くアピールしていきたい。
久能山東照宮 東照大権現として神格化された家康を祭る全国東照宮の根本大社。家康の遺言を受け、2代秀忠が1年7カ月かけて建立した。今回、国宝指定が決まった権現造りの複合社殿をはじめ、総漆塗りや極彩色を施した楼門や唐門、家康の墓所「廟(びょう)所宝塔」など13棟が国の重要文化財。博物館を併設し、徳川幕府にちなんだ美術工芸品の重要文化財も多数所蔵している。「太刀銘真恒(さねつね)」は1951年に国宝指定された。拝殿まで1159段あるつづら折りの石段か、日本平山頂からのロープウェイで参拝する。