とある近未来、医学はまさにめざましい発展を遂げていた。
ある薬を使うことで、お産の苦しみを母親の代わりに
父親が代行することができるようになっていた。
ある夫婦がお産に当たって、この薬を使うべく医者のもとを訪れた。
医者曰く、「本当にいいのですかね....
私に言わせるとお産の苦しみは男の人にはとうてい我慢できませんよ。
つい最近もこの薬を使って死んだ男性も出たくらいですからね.....
最近医学会でも、この薬について問題視する声が大きいのですよ」
夫曰く、「先生、大丈夫です。私は妻を愛しています。
その最愛の妻が私の子供を産もうとしてくれているのです。
その愛に賭けても、夫として、父親として、私は耐え抜いて見せます。
どうかこの薬を私たちにお願いします」
医者曰く、「そこまで、言われるのなら仕方ありませんな。
では、奥さん。この薬を陣痛が始まったら飲んでください。
この薬の作用で赤ちゃんがお母さんに与える苦しみをお父さんにテレパシーで伝えます。
するとお母さんの苦しみがお父さんに移って、
お母さんは無痛で分娩が出来るという仕組みですので」
一週間後、ついに陣痛。妻はその薬を服用し病院へと向かった。
夫曰く、「先生、ついに陣痛です。はやく赤ちゃんを.....
なんだか私も気分が悪くなってきました。さぁ、早く!お願いします」
医者曰く、「大丈夫ですか? さあ、奥さんと一緒に正しく呼吸しましょう。
ひ、ひ、ふー、ひ、ひ、ふーと言う感じに、どうです具合は?」
「何だか大丈夫です。この調子なら問題なさそうです」
お産がもともと軽かったのか、夫もさほど苦しみもせず、
やがて玉のような赤ちゃんが無事産まれた。
夫曰く、「先生、ありがとうございます。
これで私も夫として、自分の役割が果たせました」
医者曰く、「良かった、良かった。でも正直、驚きました。
あなたは本当によく頑張った。普通ならとても堪えられない痛みなのに。
こういうこともあるのですね」
そうやって夫が喜びをかみしめているちょうど数分前。
その夫婦の家の玄関先にて。
ある郵便配達夫がわけのわからない、
とんでもないこの世のものとも思われない突然の腹痛で、もがき苦しみ、
独り、命を落とした。
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