(カネの張形)
えー、「白い歯、赤い唇」と申しますと、それだけで美人が浮かんで参りますが、昔の美人と申しますと「黒い歯、赤い唇」で、昔の御婦人は、結婚すると歯を黒く染めたものでございます。
お歯黒とは俗な言い方で、正しくはカネ(鉄漿)をつけるといって、女性の身だしなみとされたものです。
ある上方の上屋敷で、奥女中が
「カネが落ちてこまる。誰かカネの落ちない粉を買って参れ」
「ははぁ、承知仕りました」
引き受けたのが奥役人。この奥役人てえのが、近頃、お国表の尼崎から江戸詰めになったばかりで、お国なまりがある。
江戸っ子てえのは、「それは、いけない」「出来ない相談だ」「少しも、落ちない」と発音する。
少し鉄火な口調なら「いけねえ」「出来ねえ」「落ちねえ」で、決して「いかん」「出来ん」「落ちん」などとは使いません。
この奥役人は、「いかん」「出来ん」「落ちん」のお国柄だったとみえて、
「これ、これ、誰ぞおらんか」
「ははァ」
「急いでな、カネの落ちん粉を買ってまいれ」
「ははァ、心得ました」
てんで、中間(ちゅうげん)が駆け出します。
中間は江戸雇いの江戸っ子で、飛び出したのはいいが、いつまでたっても帰って来ない。
「何をしくさっているのじゃ」
とヤキモキしているうちに、もう夜になって、そろそろ門限も近い頃、汗を拭き拭き息せき切って戻ってきた。
「やっと、やっと見つけて参りました」
と、風呂敷の中から取り出したのは、いやァ見事な金ピカの男根の張形です。それも特大の・・・。
「な、なんじゃい、コレは?」
「だって旦那がおっしゃったのは、かね(金)のおちんこで、ござんしょ!」
勢蔵註: 両国米沢町にあった四ツ目屋は淫具、媚薬のたぐいを販売する店として有名であった。この噺にある中間も、おそらく両国まで走ったのであろう。張形、兜形、肥後ずいきなどの淫具、媚薬では女悦丸、長命丸が広く知られていた。名からして大概わかると思うが、女悦丸は女性用、長命丸は射精を遅らせる塗布薬で、広告ビラ(引き札という)を見たことあるが「阿蘭陀(オランダ)秘法」とあって、苦笑してしまった。江戸川柳に「なかずんば泣かしてみよう女悦丸」なんていう句があったですな。店は明治の中頃、姿を消したという。
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