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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

小沢一郎氏・陸山会事件は不起訴にすべき事件だった。検察審査会の強制起訴は人民裁判であってはならない

2011年09月29日 | 刑事司法のありかた


最近、小沢一郎氏をこれでもかこれでもかと批判する小沢一郎民主党元代表 湾岸戦争・小選挙区制・TPP・陸山会事件 政界にいる価値も資格もないという記事を書いたので、小沢氏の政治責任についてはちゃんと書いて義理を果たした(笑)と言うことで、今度は、小沢氏の刑事責任のそもそも論について書きたいと思います。

以下は、小沢氏弁護ではなく、あくまで検察批判と検察審査会制度への疑問であることをあらかじめお断りしておきます。

彼の政治責任の取り方としては、説明義務の果たし方を考えた上で、議員辞職も考えるべきだと思います。

司法に政治を持ち込むべきではない。検察・裁判に頼らねばそこまで追いつめられない、日本のマスメディアと我々日本国民の民度が低いと言わざるを得ないでしょう。

参照記事

 

取り調べ全面可視化は絶対必要!小沢裁判で調書一部不採用 佐賀国賠で検事の接見交通権侵害で弁護士勝訴 



さて、去年、東京地検が小沢氏の起訴をあきらめ、不起訴処分にしたのに対して、氏名不詳の「市民団体」が去年、東京第5検察審査会に起訴議決を求めたという報道に接したとき、私は

「ああ、人民裁判が始まった」

と思いました。

 誰かが検察審査会に議決を求めれば、先入観を持った一般市民から選ばれた検察審査会が、二度起訴議決をして、強制起訴になることは目に見えていました。

二度目の議決は13人中8人が賛成すれば良いんですから。

今とは比べものにならないほど「人民の敵」とされていた小沢氏を、一般市民から抽選で選ばれた検察審査会が放っておくわけがありませんでした。

だって、当時のマスメディアの小沢氏批判は凄かったんですよ。そのネタの多くは検察庁がお得意のリークをしたものだと思います。私は滅多にテレビのワイドショーを(それどころかニュースも)見ないのですが、小沢氏の政治資金団体陸山会が取得した世田谷の不動産なんかも嫌でも目に入りました。


 

よほど検察にとって、ひいては官僚にとって、小沢氏と民主党が邪魔な何かをしようとしているのだろうと、民主党がかえって頼もしく思えたくらいです。

とにかく我々国民の間には

「小沢氏は前から悪い噂が絶えないが、今回も悪いことをしたらしい」

という「確信」が生まれていたことは否定できません。


 

もともと、国民を刑事裁判にかけることを起訴というのですが、この起訴の権限は公益の代表者たる検察庁が独占しています(起訴独占主義)。そして、起訴するかしないかも検察庁が決めることが出来ます(起訴便宜主義)。

検察審査会というのは昭和23年に制度化されたもので、この起訴独占主義や起訴便宜主義を是正するものとして、検察庁が不起訴にした事件について、起訴相当議決を出せるというものでした。しかし、この議決には、2009年5月の改正検察審査会法施行まで強制力がなかったのです。

検察審査会の二度目の起訴相当議決に強制力を持たせることになったきっかけの事件は、福岡高裁の判事の妻が、愛人との間で三角関係になった女性にストーキングをした事件です。2001年はじめにこの妻を逮捕する直前に、福岡地裁次席検事がこの判事に妻のストーカー事件の資料を渡し、二人で事件潰しをしようとした?ことが、ばれてしまったのです。

裁く側と訴える側がこんなに仲が良いのでは、99・9%有罪も当たり前です。裁判所と検察庁が持ちつ持たれつでかばい合っているという、日本の刑事司法の闇が暴かれた事件でした。



全国で初めて検察審査会による強制起訴がされたのは、明石の歩道橋事件です。この事故は、兵庫県明石市で2001年7月、花火大会の見物客11人が歩道橋で死亡し、247人が負傷したものです。

見物客の誘導にミスがあったとして、業務上過失死傷容疑で書類送検されたにもかかわらず、4度不起訴処分になった明石署元副署長について、検察審査会は法改正を受け、2010年1月起訴相当議決をしました。今、兵庫県弁護士会の仲間が指定弁護士として検察官役をしています。

検察審査会の強制起訴権限は、もはや検察庁が「公益の代表者」とは信頼されなくなったことの象徴です。


このように、検察審査会の強制起訴決定権限は、検察庁が検察庁内部はもとより、裁判所や警察庁などを仲間内のかばい合いで起訴にしない場合に非常に有効な制度です。

しかし、小沢氏のように検察庁がしつこく狙っていても起訴し得なかったような場合に、まさか、検察審査会を使えば強制起訴ができるという話になるとは思いませんでした。

検察が身内をかばうときには、この制度はとても良いのですがねえ。逆に、こういう運用をされてしまうと人民裁判になってしまう。

 


起訴不起訴を検察庁に決めさせたら不公平が生じるという、検察庁への不信がそれだけ大きいわけで、検察の罪は二重に重いと言えるでしょう。

私も、たとえば「郵政不正」事件(不正なのは検察のほう 笑)(たぶん検察の狙いは小沢氏側近の石井一氏だった)については、村木被告人が無罪だろうと、初公判の時から書き続けました。

 

無罪の香りが濃厚 村木元厚生労働省局長

おいおい 検察庁がメモ廃棄 郵便不正事件

郵便不正事件 「村木元局長は冤罪」 前任係長「指示」否定 

上司 被告人本人 部下 業者全員否定 郵便不正事件

 

で、やっぱり担当検事による証拠ねつ造があって、この事件は無罪になり、かえって検察官達が次々起訴されることとなっているわけです。

この事件は不正を行なった検察官達個人の問題ではなく、特捜部だけの問題でもなく、検察庁全体の体質の問題です。もちろん取調の全面可視化は必須ですが、さらに根本的な改革をしないと、もうこの検察不信は払拭のしようがないでしょうね。



さて、検察審査会が強制起訴して、10月6日に第1回公判が予定されている小沢氏の陸山会事件の被疑事実は以下の通りです。

1 被疑者は、資金管理団体である陸山会の代表者であるが、真実は睦山会において平成1610月に代金合計34264万円を支払い、東京都世田谷区の土地2(以下「本件土地」という。)を取得したのに

1 2 陸山会会計責任者A(以下「A」という。)及びその職務を補佐するB(以下「B」という。)と共謀の上、平成173月ころ、東京都選挙管理委員会において、平成16年分の陸山会の収支報告書に、本件土地代金の支払いを支出として、本件土地を資産としてそれぞれ記載しないまま、総務大臣に提出した 

2 3 A及びその職務を補佐するC(以下「C」という。)と共謀の上、平成183月ころ、東京都選挙管理委員会において、平成17年分の陸山会の収支報告書に、本件土地代金分過大の415254243円を事務所費として支出した旨、資産として本件土地を平成1717日に取得した旨それぞれ虚偽の記入をした上、総務大臣に提出した

小沢氏起訴議決全文




要約して言えば、小沢氏が代表である陸山会が平成16年に土地を買ったけど、その年度の政治資金収支報告書に記載しないで、平成17年に買ったと同年度の報告書に記載した、ということなんですね。

これ、そんなに悪いことですか?記載しなかったわけではないんですよ。年度がそれぞれ一年ずれただけです。

不起訴処分には、嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予という区分があるんですが、額がとてつもなく大きいものの、記載した内容と年度が一年違ったというくらいなら、起訴するほどのことはなくて、立証が十分出来るとしても起訴猶予にするのが普通の事件だと思いますね。


確かに法律違反なんですが、単なる手続きミスで、いわゆる形式犯という奴です。検察庁は、大きな、疑獄事件に通じるような実質犯的な起訴を考えていて、それは立証できないと言うことで、「嫌疑不十分」で不起訴としました。

もし形式犯の背景に、今回の石川被告人等の事件で認定されたような

「水沢建設から胆沢ダム建設下請けに関するほとんど賄賂といえるような多額の裏献金があり、その隠蔽が今回の献金記載漏らしの動機であった」

という実質的な問題があるとなれば、それは政治的には致命傷にならなければいけないのですが、そのことは小沢氏の事件では刑事的には起訴事実とされていないのです。

検察審査会はどうしても起訴したくて、記載漏れという形式犯だけに絞って被疑事実としたのですが、それだけを端的に見ればかなり不自然で、検察庁が起訴しなかった判断のほうが素直だと思います。


来月から小沢氏の公判が開かれます。第1回公判では冒頭陳述が大きく報じられ、それ以降も公判の度に、小沢氏の政治的影響力は削がれていくでしょう。

それ自体は、私は結果としては結構なことだと思いますが、法律家としては、この小沢・陸山会事件が刑事事件になった事の起こりは、以上のような経緯であったことをこの時点で明確に言っておきたいと思います。

これから、別の「人民の敵」に対する『人民裁判』が繰り返されないように。

 

 

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6 コメント

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Unknown (toorisugari)
2011-09-29 20:22:25
おっしゃるように、
マスコミの力は無視できませんね。

麻生内閣時代、予算委員会で漢字のテストを行った政党がいますが、当時は一切批判されませんでした。
今、同じことをやるとまず批判されますね。当時もリーマンショックで大変な時代だったのに。

>司法に政治を持ち込むべきではない。検察・裁判に頼らねばそこまで追いつめられない、日本のマスメディアと我々日本国民の民度が低いと言わざるを得ないでしょう。

主として民主党議員のモラルは著しく低いですね。石川知裕衆議院議員が逮捕されたら、「・・の逮捕を考える会」などを作り圧力をかけようとしたり、有罪判決が出たのに議員辞職勧告決議を握りつぶそうとしたり。また自らやめないし。

こうした政党を選択した国民の民度が低いというのはおっしゃるとおりかと。
返信する
なにか勘違いしておられるようですが (ray)
2011-09-29 21:11:33
自民党だ、民主党だ、どっちがいいなどということには、私は関心がないのです。
返信する
Unknown (ヤマモトカデラテ)
2011-10-01 13:22:44
小沢秘書の裁判の報道について見ているとあまりにも一方的な論考と報道姿勢が気になる。この事件の事自体ほとんどまともにリーク以外は報道してこなかったNHKが有罪裁判ばかりをある意味、気違いのように狂気して舞い上がった報道姿勢をしていることはいただけない。事件の本質を真面目に論理的に合理性と理性と倫理観をもって報道すべきであり、その義務も責務も全く果たしていない。すべてが検察寄りの、あるいはそれ以上に飛躍した大時代的な判決に知的階層は唖然としているが、その結果は世界の恥でしかない。NHKはいつになったらマトモにもなるのだろう。困ったものだ。キャスターの質の低下と言語能力の貧困さは救いようがない。

地裁の信じられないような有罪判決を頻繁に報道しているが、この事件の問題の本質となる検察&検察審議会の内容についてはほとんど検証すらしていない。NHKが本来検証すべきはを資料や関係者の証言や事件の推移などを踏まえ裁判官と検察との癒着関係、冤罪の温床となる99.9%有罪とか日本の三権分立の闇にメスを入れ、検察が一体どういう組織であるということはすでにあらゆる過去の膨大な数の捏ち上げ案件の根拠を基に一部のインテリ層によって検証されてはいるものの、今回のあまりにも異常な捏造された「推認」という論理性も合理性も具体性も皆無の驚き呆れた判決を日本の報道の第一人者としての自負と愛国心から徹底検証すべきである。私は原発事故も然ることながら国際的に日本のさまざまな不条理と司法の暴走には常に最大の感心と注意を傾けていかなければならないことを最も憂いているが、一般国民に対してNHK自らが正義感を持って正報道で導いていかなければならない。

政治家のことばで、いつも、「しっかり」とか「きっちり」とか、言っているが、何一つ、きっちりしてないし、しっかりもやっていない。また悪いことをしたら反省したり謝って終わるものではない。責任を取ることが重要なのだ。頭をさげることは猿でもできる。

才能や能力や知性がある人が政治をやっていないのが大問題。政治家を家業として税金で個人ビジネスをしているとしか思えない。伝達する言葉もまともに出来ないからコミュニケート(伝達)できない。誤解を生む。責任も取れないし取らない。次回の選挙では現議員の90%が入れ替わらないといけない。... ... さてさてこれらNHKに送った小言を抜粋してブロガーさんへお送りします。3流報道機関しかない日本で3流週刊誌なみの情報露出を糧にブログを配信するのもよいが、あまりにも世間(世界という情報)知らずで淋しいかぎりです。恨みや嫉妬や劣等感から批判するのではなく、本来のクリティークの本質を目指して、弁護士と云うのなら、遂行して欲しい。何故ならあまりにも論考の完成度が低いからです。
返信する
法理と政治 (南の光)
2011-10-01 14:33:05
法的な正当性に疑義があるにもかかわらず、結果政治的な影響力をもつというこの流れは、法律の流れに倫理がないことの証左となり、故に、政治的にはよかった、という情緒的な見解を法律的な立場と異なるとして了解してしまうことには問題があるのではないでしょうか。いかなる場合も、法律的に妥当でないと考えるのなら、それが回復された地点から他の価値観の責任ある評価への流れを作るべきではないでしょうか。陸山会事件のねつ造のない段階での小沢氏の政治的な評価は本来回復されてしかるべきものに思いますがいかがでしょうか。
返信する
日本の権力分散は未熟である (ゆう)
2011-10-28 04:26:40
人民裁判が起こらないように、検察審査会法は廃止すべきです。
検察から捜査権を剥奪すべきです。
日本は三権分立だけ呪文のように唱えるだけで、不完全です。捜査権を検察が持っていたり、検察審査会などという人民裁判が起こる仕組みを持っていたり、先進国の中ではシステム的に未成熟です。
裁判所との癒着の原因になるため、検察官適格審査会を廃止し、検事公選制も導入すべきです。
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検察審査会による強制不起訴 (3104)
2012-12-28 10:28:47
はじめまして、ブログ記事を読んで、コメントさせていただきます。検察審査会が、「強制不起訴」を行ったら、どうなるでしょうか?検察審査会そのものが行われていない、事実、証拠を入手しました。面白いとおもいませんか?

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