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好事家の世迷言。(初代)

※はてなブログ『好事家の世迷言。(続)』へ移転計画中。

調べたがり屋の生存報告です。

森の古城に人狼はなく。(その4)(終)

2022-01-26 | その他ミステリ
『人狼城の恐怖 第四部 完結編』(by二階堂黎人)、読了。

3年かけて書かれた全4冊、原稿用紙4000枚の大作の終焉。

人狼城という双子城で起きた連続密室殺人幻想。にもかかわらず、
【青の城にも銀の狼城にも、殺人の痕跡は存在しない。】
【青の狼城は一つしか存在しない。隠し通路の類も存在しない。】
【銀の狼城は一つしか存在しない。隠し通路の類も存在しない。】

そんな異様な事件に対し、名探偵・二階堂蘭子は真相を語る。
第一部と第二部の描写にも、第三部の推理にも、虚偽ない事が立証される。
無駄な水増しも全く無く、あらゆる場面が伏線だったと。

明かされた答えは、本当にシンプル。
そんなバカな!と目をむいて驚きたくもなる答えだが、この答えでしか辻褄が合わない。
ここに書くのは簡単だが、当然野暮なので止めておく。

ただ、個人的に残念なのが、全事件の首謀者の正体が今一つあいまいな事。
だから「解決」とか「解答」じゃなくて「完結」なんだろうなと。
あと、オカルト要素が全部否定されたわけじゃないのも引っかかった。
シリーズの次巻以降を読めば、その辺の答えも明かされてるのかな?

それでは。また次回。

森の古城に人狼はなく。(その3)

2022-01-10 | その他ミステリ
『人狼城の恐怖 第三部 探偵編』(by二階堂黎人)、読了。

『ドイツ編』『フランス編』に堪えた末、待ってましたの主役登場。
二階堂蘭子の名前がついに登場する。
登場人物紹介欄に「名探偵」と銘打たれてるのがインパクト絶大。

予備知識を極力入れないまま読み始めたため、本作が「二階堂蘭子シリーズ」の集大成みたいな物だと今更知った。
他作品を後から読むという申し訳ない流れになってしまったのが残念でもある。
もっとも、過去作の出来事については、作中で触れてはいてもネタバレしてないのは流石の技量だ。
ただ、『地獄の奇術師』だけはいずれ読みたい。
(解説にネタバレ載ってるらしくてそこのページは閉じた)

『フランス編』が招待客の日記だったように、『ドイツ編』も招待客の口述筆記だった事が明かされる。
二つの物語を読み通した蘭子たちは、
「普通に外部犯がいるんじゃないか?」
「一人称の内容を信じられるか?」
「幻想的な描写は、語り手の妄想?何かの比喩?」
「そもそも語り手が真犯人では?」
という、こちら読者の素朴な疑問にも誠実に応じてくれる。
今までの伏線については、ページ数まで挙げてくれる親切設計にはひれ伏すしかない。

現地へ飛んで調査を始めた蘭子たちだが、貴重な参考人たちは次々と怪死を遂げてしまい、証言を聞けず終いの歯がゆい展開。
しかも突然、不審者たちに拉致されて次の巻へ。
美しく完結するという触れ込みを信じて急いで読みたい。

それでは。また次回。

森の古城に人狼はなく。(その2)

2021-12-26 | その他ミステリ
『人狼城の恐怖 第二部 フランス編』(by二階堂黎人)、読了。

強敵だった。
前巻より長い、700ページ超。

物語の舞台となる場所について知ったのが最初の勉強。
ドイツとフランスに挟まれた、アルザスという地域。

今度は、最初からオカルト前提で話が進んでいく。
人に殺して取り憑いては乗り移っていく、アストラル体の殺人鬼がいるのだと。

城に招かれた者は、またも皆死に絶える。
その内容描写は、一人の招待客が残した日記。
樽に詰めて川に流した、ある意味ボトルメールのような物。

ただ、日記というわけだから、文中に細かく日付があるのは手がかり。
第1部との時期の関係が気にかかる。
向かいの城に人の気配がないと言ってるのも気になる。

城主家族はまたも訳ありの様子。
特に、日光に当たれない仮面の少年は気になるところ。
事件で襲撃してきた「小柄な老人」ってこの子かもしれない。
ドイツ編でちょっと出てきたロンギヌスの槍の話が多く出てくるのも要チェックか。

事の真相については、遠い国の人が全てを救うと占い師が予言する。
これが主人公の探偵・二階堂蘭子の事なのだろう。

早く全部読んでみたい一方、出題編をじっくり吟味したい気持ちもあったり。
モチロン、答えはサッパリ分からないけれど。
オカルトファンタジーとして読んでも楽しめるのは嬉しい。

それでは。また次回。

森の古城に人狼はなく。(その1)

2021-12-13 | その他ミステリ
『人狼城の恐怖(第1部・ドイツ編)』(by二階堂黎人)、読了。

「世界最長の推理小説」としてギネスブックに登録されている作品。
因みに初出は1996年。

存在は発表当時から知っていたが、果たして読みきれるのか不安で敬遠していた。
いざ読み始めたら、今のところの第1巻は、意外というかあっと言う間に読み終えた。
文庫で600ページ超えるのに。

読み通せた要因は、絶え間なく繰り出されるフックの連続にあった。

ハメルンの笛吹き男の物語。
早すぎる埋葬、からの人狼伝説。
謎めいた招待旅行。
命を狙われる女性。
過去の事件に関わる青年。
犯罪者を追う警官。
フランスとドイツの国境に建つ双子城。
正体不明の城主。
繰り返される密室殺人。
その城に招かれて、生き残れる者はなし。

こうした謎が次々に出題されては、時にはすぐ解け、時には解けない。

小刻みに示されている伏線を読み返すのも楽しい。
やっぱり、デジタル要素のない時代の本格ミステリって好きだ。

ただ、今のところ私、終盤で激しく混乱中。
ニンゲンによる事件と思われた物語がオカルトファンタジーへ変貌してるようにしか見えなくて。
名探偵・二階堂蘭子に早く会いたい。

それでは。また次回。

「僕」と「彼」との物語。

2021-12-06 | その他ミステリ
映画『ファイトクラブ』を劇場へ見に行く。

最初に懺悔。
公開当時、TVの某バラエティ番組に影響されて、てっきり「ブラッドピットがボクシングを始めるスポーツ映画」だと思い込んでたのは私です。

この度の「午前10時の映画祭」のラインナップに入ってるなら見るべきか、でもR15は怖い。だからDVD借りてお試しで鑑賞して、それで驚愕した勢いで映画館へ行って、小ネタ調べながらつらつらと考察してる今。

そう、この映画は、私のような理屈屋のミスオタこそ見逃せない作品だった。
冒頭に映る物が何と気づいた時から、もしかしたらと思った予想の一つが当たった、何とも言えない感慨は忘れがたい。

ただし、サブリミナル的演出については、自分の中では辛い記憶が未だにあるようで、純粋に楽しめなかった事は否めない。
(目を凝らしていれば知覚できる程度だから、そもそもサブリミナルではありませんが)

なお、R描写は恐らく、「明らかに助からない遺体」が1名描かれてる部分と思われる。
そこさえ薄目になれば、私は何とか耐えられた。
↑コレくらいのネタバレなら許されるよね?

それでは。また次回。

本格ミステリお約束の源流。

2021-11-30 | その他ミステリ
『本陣殺人事件』(by横溝正史)、読了。

大昔に読んで以来の再読。

本命は『黒猫亭事件』。
『車井戸はなぜ軋る』も収録されていた。

トリックやストーリーやキャラと言った普通の感想を書くのは今更だとも思う。
むしろ今回は、全体的に感じた点を。
昔に読んだ時には、半ば読み飛ばしていた部分。

この時代の名作は、終戦直後の日本という舞台だからこそ活きる。
違う国や時代だったら描けない。

本家と分家のお家騒動も、直系と傍系の因縁も激しい。
和装も洋装も同じくらい用いて、その一方、男装と女装の差異は大きく。
つまり、性差別も、階級差別も、根強く深く。

そして、その当時でもやはり非現実的なのだろう狂的な殺人動機を、
読者に納得させるために、説得力を与えるために、
作者が如何に腐心し、紙幅を割いて筆を尽くしているかを思い知った。
探偵が捜査に食い込むために、如何に手を尽くすかもまた同様。
後の凡百なミステリ作品で、軽く流されてる「お約束」は、こうした先達の努力が礎になってるんだよなぁ、と感慨に耽った私だった。

それでは。また次回。

ホワイダニット(動機)小説。

2021-11-01 | その他ミステリ
『叫びと祈り』(by梓崎優)、読了。

全5話の連作短編集。(あくまでも「連作」である)

ミステリのテーマは数多い。
犯人当てだったりトリック解明だったりアリバイ崩しだったり。
本作は、その内の一つ、動機について掘り下げた作品たち。

もっとも、謎解きの要に置くほどの動機である以上、物語はどれも特徴的。
日本人・斉木の視点で、世界各地ならではの出来事と事件と、その顛末が描かれていく。

第1話は、キャラバンがさすらうサハラ砂漠。
第2話は、風車の並ぶスペインの街。
第3話は、ある秘密を持つロシアの修道院。
第4話は、原始的生活を営み続けるアマゾンの奥地。
そして、
第5話は、何者かが暮らす謎めいたどこか。

第1~3話までは順不同で読んでも問題なく楽しめる。
第4話と第5話は一応連続した形になっているので注意。
特に第5話から読むのは避けたい。
私のような伏線回収好きにもオススメです。

それでは。また次回。

偽書作家はハッピーエンドを綴った。

2021-09-20 | その他ミステリ
映画『鳩の撃退法』を劇場へ見に行く。
 
原作未読。
ページみっしりの厚い上下巻の前に挫折した。
読み終えられる頃に映画終わってそうな予感さえした。
 
いざ見終えた今も、感想を書くのが難しい。
ネタバレするのがもったいないのもあるが、そもそも作品構造からして説明しがたい。
 
当ブログでなら、まだ例えようがある。
コレは、成功してる『うみねこ』だ。
 
謎めいた組織に牛耳られる富山県の小さな町で、不思議な事件が複数並行して発生する。
その現実の事件を元にして、ある作家が異なる現実を、言うなれば偽書を書き上げていく。
偽書における「駒」たちの下位世界と、その偽書に関わる編集者や作者たちの上位世界との、多層構造が渾然一体と入り乱れる。
 
ストーリーの大半は、作者の創造や編集者の想像であり、どこからどこまでが幻想なのか現実なのかの答えは出ない。
だが、念のため断るが、下位世界の事件たちはスッキリ分かりやすくまとまっている。
「100ユーロ紙幣」のコピペのようなキレイなループ。
そこに、上位世界たる虚構内現実が更にボリュームを足している。
現実では悲惨でも、虚構である偽書で人々は救われる。
 
驚かされたのが、エンドロール。
まさかの黒背景に白字、そこにまさかの赤字と青字。
ちゃんと、断定文に赤、疑問文に青、になってたと思うし。
イイ物見れました。
 
それでは。また次回。

ギャグ漫画世界の本格推理!

2021-09-10 | その他ミステリ
『クレヨンしんちゃん』映画『謎メキ!花の天カス学園』を劇場へ見に行く。

ミステリ系の作品という触れ込みで、ずっと気にはなっていた。
しかも、ミステリ「風」と謙遜してる。そういう作品は、たいてい良品。
なので、早い時間帯で見てみて、その苦労は報われた。
実に楽しい「ナゾ解き」の時間だった。

作中に出てきた物を思い返して並べただけで今も興奮する。

森に閉ざされた全寮制学園。
開かずの時計塔に現れる人外。
鳴らない鐘が鳴る晩に起こる事件。
全身そぼ濡れて見つかる肢体。
尊厳を奪われ狂える被害者たち。
今際の際に遺されたメッセージ。
探偵倶楽部の結成。
さり気ない手がかりとミスリード。
探偵に指差された犯人の豹変。
散りばめられた布石と伏線の回収。

厳密に検証すれば疑問点も無論出るが、だからこそミステリ「風」という但し書きが生きる。
ギャグ漫画の文法で紡がれる犯人探しには、正直ゾクゾク震えた。
塑像作りの場面からの伏線が拾われ、ああやっぱりそう来てくれたか!と膝を打てた瞬間たるや!

テロリズムや、猟奇的惨劇や、社会的問題提起など出さなくても、本格推理は創れる。
こういう作風のミステリ作品、他にももう少し増えてほしいな。
……下ネタは程々にお願いしたいが。『クレしん』だから仕方ないが。

それでは。また次回。

ゾンビ・パンデミックの世界で。

2021-08-17 | その他ミステリ
『わざわざゾンビを殺す人間なんていない』(by小林泰三)、読了。

唯一無二の世界観に、とにかく驚かされる。

突如発生したウィルスが世界中に広まった事によって、全人類(を含む大多数の生物)は死亡すると間もなく、自我なくさまよう死体として蘇る。
一見、あまりに突飛な設定だが、感染拡大の経緯をはじめとする、作中での整然とした説明は、さすが作者の力量にうならされ、納得できる。

と、そんな異常が日常と化している世界で、ミステリ的にはごくごくオーソドックスな密室殺人事件が起こる。
その事件を解いてやると名乗り出る探偵を・瑠璃の動向と、彼女自身の秘密との二本立てで、謎は展開し、解決される。

勘のいい読者なら、彼女が爆弾で狙われた辺りから、事件全体の真相をある程度見破る事が出来ると思う。
ただ一つのキーワードさえ踏まえれば、トリックはごくごくフェアな王道だ。

しかしながら、キャラ達の掛け合い、中でも瑠璃と彼女のパートナー(?)優斗との絆には、シリアスとほのぼのが絶妙に融け合っていて何とも楽しく、そして最後は……純愛でした。ハッピーエンドは好き。

ただし。小林作品と言えばグロテスクも、もう多い多いと言ったらない。
決して、食事の合間に読んではならない事を警告しておく。

それでは。また次回。