好事家の世迷言。

調べたがり屋の生存報告。シティーハンターとADV全般の話題が主。※只今、家族の介護問題が発生中です。あしからず。

密室は如何に作られ、破られるか。

2022-11-16 | その他ミステリ
『鍵のかかった部屋』(by貴志祐介)、読了。

全4話収録の短編集。

探偵役は、防犯コンサルタントを名乗る謎めいた人物・榎本径。
以前、TVドラマで流行していたのを記憶している。
短編集なら読みやすいかと手に取って、確かに短い時間で読み終えた。

この本の作品群は、基本的に「如何にして外部から密室を作ったか?」のハウダニットに特化している。
犯人やその動機についてなどは、ほとんど言及されない。

よって、私としては、密室崩しの論理に集中……したいところを、榎本の相方である青砥純子弁護士の存在が邪魔をする。
物語のお約束なのか、何度も口を挟んで、見当違いの推理を披露。
せめて、それが真相を読み解くヒントになればいいが、読み飛ばしても恐らく問題ないのが残念すぎた。
なお、最終話、劇団のエピソードだけ、他の話とかなり毛色が違っており、漫画のギャグ補正でも入っているような感覚を受ける。

読み終わって、世の感想を改めて調べて知った。
この本がシリーズものの途中だという事を。
第1作の『硝子のハンマー』から読んでいかなければいけなかった。
失敗した。いつかリベンジせねば。

それでは。また次回。

パラレル日本の衒学ミステリ。

2022-11-01 | その他ミステリ
『天帝のはしたなき果実』(by古野まほろ)、読了。

本命は『天帝のみぎわなる鳳翔』なのだが、シリーズものは頭から読むのが我が信条。
よって、第1作の『果実』をGet。因みに講談社ノベルス版(初版)。

とある高校で起こった事件に、吹奏楽部員の古野まほろ(主人公)が挑む。
ここまでなら王道。それ以外の特徴が非常に強い。

まず、世界観が独特。日本でなく「日本帝国」。でも20世紀。(携帯電話がない)
アメリカに敗戦したけど軍も貴族も満州も存続してて、けれどガンダムとかドラえもんとかドラクエとか普通にある。男女同権も根付いてる。細かい部分は説明なし。
それから紙面がいわゆる「黒い」。
1段組とはいえ、漢字表記とそのルビでびっしり。フォントの種類も多様。
メインキャラは全員、外国語堪能&教養雑学広範囲&話好き、結果的に文章はどんどん長くなる。

そして展開の振り幅がこの上なく激しい。
校内に隠された暗号を解く平和な話が一転、残酷な殺人が続き、登場人物たちがドライに仲間を疑い合って解決と思ったら、最後はSFめいた組織の暗躍が描かれる。
800tの黄金とか、超能力みたいな物も出てくる。
皆して歌ったりする華やかな場面も多い一方、異性同性の恋愛、ひいては性行為まで描かれてるのは個人的には苦手。

あくまでマニア向けの作品と捉えれば、部員たちの推理合戦はいっそ心地よい。
読書という行為自体に耽溺したい私のようなタイプには、オススメしたい作品かもしれません。

それでは。また次回。

本当の、“対等”とは。

2022-09-14 | その他ミステリ
『四つの終止符』(by西村京太郎)、読了。
 
初出は1964年。著者初の長編書き下ろし。
地元の小さな図書館で、1987年発行の選集を見つけた。
以前読んだ『天使の傷痕』が共に収録されている。
 
本作もまた、現在の世に出す事は不可能だろう。
いわゆる「不適切な表現」問題が大きすぎるのだ。
 
本作最大のテーマは、聴覚障害者への誤解。
親しい人さえ、「聞こえないなら話しかけない方がいい」と避けてしまうという問題点。
 
一方、聾学校での発声訓練について紙幅を割かれ、聴覚障害者は「ことば」の概念を得がたいという実状も描かれる。
 
ここまででも先駆的と評価したいところを、本作は更に上を行く。
差別されている自分は理解されない、と命を絶った聴覚障害者キャラに対し、健常者のキャラは、彼を救おうとしていたのに被害者ぶるな、と非難する。その後、芯から信じ切れていなかったと自戒もする。お互いに本当の意味で対等に接しようという問題提起。
 
このテーマ一つでも重いところを、介護問題、公害問題、学歴差別、男女差別、マスコミ偏向報道まで切り込む。
そして当然、本格ミステリとして面白い。
入手困難ですが、読む価値あります。
 
それでは。また次回。

古きよき時代のどんでん返し。

2022-08-22 | その他ミステリ
映画『第三の男』のDVDを見る。
 
1949年作。
映画好きなら必見という世評を昔から見かけていた。
それで勉強のために見た自分は、恐らくこの作品の魅力を理解できてない。
原因としては、制作当時の国際情勢について私が無知である事や、戦争というテーマ自体を私が受け付けられない事などが大きい。
 
そんな私なので、見ていて純粋にミステリ&サスペンスとしてストーリーを追っていく事になる。
主人公は、訪ねた親友が現地で亡くなった事を知るが、その目撃証言を洗い直すにつれて、交通事故があったとされる現場には、更にもう一人の人物がいたはずと知る。
 
その後の展開は、すれっからしの今時の人間ならある程度先を読める。
××のはずが実は……と気づく。
 
そうして明かされていく親友の正体が、序盤に語られていた印象とは正反対。
あまりにギャップが激しくて私は混乱。
いい人と思ったら実は悪人、で終わってしまったのが個人的には残念。
 
BGMが有名という理由も初めて知った。
ヱビスビールのCM曲なんですね。
『サウンド・オブ・ミュージック』の時にも思ったが、名作とされる映画の曲がCMで使われる事ってホント多いのね。
 
それでは。また次回。

科学×護衛×冒険!

2022-08-08 | その他ミステリ
『キャッツ・アイ』(by R・オースティン・フリーマン)、読了。
 
1923年作。
『歌う白骨』以来に読む、ソーンダイクのシリーズ。
 
先祖伝来の土地の権利書を巡る殺人事件と、それにまつわる冒険。
そこに、アンスティ弁護士とウィニフレッド嬢のロマンスが花を添える。
 
ジャコバイトにまつわる歴史ネタは、不勉強な私には厳しいが、分からなくても充分に面白い。
分かる人には、より一層面白いんだろうと思う。
 
ところでソーンダイクといえば、いわゆるカガク捜査をフィーチャリングした作品の元祖。
指紋の検出あり、石膏での足跡の型取りあり。
中盤では毒殺未遂事件から、砒素を検出する実験が取り上げられる。
謎の屋敷の隠し部屋からの脱出劇は、さながらダンジョン探索。
そして(聖書絡みの)暗号解読を経て、物語はハッピーエンドへ至る。
 
おおらかで素直な展開は、今時の擦れたミステリ読みには物足りないかもしれない。
意外すぎる犯人だったらどうしようと焦りながら読み続けていって、犯人像が明かされた時には、ほっとするやら寂しいやら。
メインキャラに思いっきり感情移入して大丈夫というネタバレはしておこう。
そうやって素直に読んだ方が断然楽しめる作品なので。
 
それでは。また次回。

アナログとデジタルの過渡期に。

2022-06-23 | その他ミステリ
『噂』(by荻原浩)、読了。

おすすめのレビューで見かけて読んだ。
因みに、2001年初出。(←この時代設定重要)

登場する舞台は、大きく二つに分かれる。

一つは、「WOM(Word of Mouth)」、いわゆる「口コミ」を宣伝に利用しようとする業者たち。
彼らは、レインマンという殺人鬼を創作し、それに狙われないお守りとして口紅を売りさばこうとする。
すると何と、創作だったはずの殺人鬼の仕業としか思えない殺人事が実際に発生してしまう。
もう一つは、その殺人事件を捜査する刑事たち。
ベテランの男性と、若手の女性とのコンビが奮闘する。
終盤、女性ならではの視点(爪の手入れ)で、犯人像が絞られていく場面は興奮した。

ところで、この作品の特徴の一つは、2001年当時のデジタル事情が全面に出されている事だろう。
作中は、まだSNS登場以前の時代、フィーチャーフォン全盛期。
ドコモのiモードが最先端で、不幸のチェーンメールが流行中。
ベテラン男性刑事は、自分の娘の同年代であるティーン達との交流に悪戦苦闘する。
今後インターネットでの噂は口コミの力を超えるか否か、という議論も興味深い。

最終的に、連続殺人鬼は逮捕され、物語は穏やかに終わる。一応は。
それが、最終ページのラスト1行で引っくり返る。
あの瞬間の悪寒は、まさにミステリならでは「奇妙な味」を感じさせた。

それでは。また次回。

虐待の連鎖を止めてゆく。

2022-05-30 | その他ミステリ
『ファーストラブ』(by島崎理生)、読了。

※精神に余裕のない時に読むとダメージ受けます※

映画に行きそびれた事から文庫で読み始めたものの、挫折。
後日、半ば意地で読了して知った。
体調のすぐれない時に読まなくて正解だったと。

読み進みにくかった点は二つ。
登場人物の名前が独特だったり、誰の台詞か分かりにくかったり、場面転換が突然だったり、回想シーンが多くて時系列に混乱したりといった、表現上の理由。

もう一つは、全体を通して徹底的に書かれる「虐待」というテーマだ。
この本には、年長者から虐げられて育った人物が多く出てくる。
父を殺害したとされて逮捕された女性が、実はずっと多岐にわたる虐待を受けていた事を、生まれて初めて自覚するという主軸からして重いが、他も重い。

前述した被告人の女性に関わる、臨床心理士である主人公もまた、家族から精神的暴力をふるわれて生きてきたという事情が描かれる。
それから、やはり被告人の女性に関わる弁護士(主人公の親族)も同様。

最終的には皆、自分の心に沈んでいた、わだかまりを吐き出し、ある種救われる。
が、そこに至るまで読むのが、少なくとも私には非常に苦痛だった。
全編にわたって、性行為にまつわる細かい描写が出てくるのも辛かった。
テーマとして避けられないのは理解していても、読む手が何度も止まってしまった。
私がこの本を飲み下せるようになるのは、まだ先になりそうだ。

それでは。また次回。

ペーパーバックで読みたい本。

2022-04-18 | その他ミステリ
『真っ白な嘘』(byフレドリック・ブラウン)、読了。
 
全18話収録の短編集。
ミステリ寄りの作品群だそうで。
今まで読んだ、氏の作品はどれもSFだったので新鮮だった。
 
凶悪事件に対し、一般人が意外にアグレッシブなのが印象に残っている。
表題作もそうだし、『世界が終わった夜』『背後から声が』『危ないやつら』など多数。
 
最終作の『後ろを見るな』は最後まで取っておくといい、という裏表紙の惹句にも従った……が、期待しすぎてしまった。
(二人称で落とす展開だったら『町を求む』の方が寧ろ震えた)
 
アイディアそのものは興味深かったが、このトリックって原語(英語)の版で読まないと成立しないし、そもそも今や活字の実物を組むんじゃなくて、コンピュータ処理の時代だからね……。
この本をリアルタイム(初出は1953年)で読めだ人たちが、正直うらやましいかも。
 
それでは。また次回。

タイトルに騙された!(←褒めてます)

2022-03-02 | その他ミステリ
『マリアごろし異人館の字謎』(by多島斗志之)、読了。

この本を知ったきっかけは、「字謎」について調べた事。
なお、『ことば遊びの世界』(by小野恭靖)は最も参考になった本の一つ。

マリアの異人館って?と興味惹かれて調べたら、am○zonでの取引価格が8000円。
これは、とんでもない稀覯本だと、おののいて。
結局、図書館で借りた。
一切ネタバレ知らないままで。

読む前に、あれこれ予想していた。
主人公が訪ねた異人館に秘められていた暗号から、謎の美女マリアが怪死した真相が明らかになる話……とかじゃなかった。

蓋を開けたらコレ、全5話収録の短編集。
『異人館の花嫁』『虜囚の寺』『井筒屋の字謎』『マリア観音』『お蝶ごろし』のタイトルを継ぎ接ぎして全体タイトルを作っていたのだ。
タイトルにトリック仕込んでる本って初めて見たかもしんない。

というわけで、我が本命は『井筒屋の字謎』。
前段の時代劇と、後段の現代劇との二段構えで暗号が解かれていく様は興味深かった。
いつか、同作者の長編も読んでみようかな。

それでは。また次回。

惨劇を語る偽書作家の顛末。

2022-02-15 | その他ミステリ
『ユージニア』(by恩田陸)、読了。

2002年初出。因みに文庫版で読んだ。(←重要)

タイトルからして謎である。
と言いますか、読んでる間は「何が何だか分からない」という気持ちがずっと続いていた。

ある事情から追いつめられた“犯人”たちの出会い。
実行犯とその関係者たちと交流。
町の名士である一家が惨殺された大事件。
関係者による取材と書籍の発行。
証拠が隠滅される事件たち。
作家の死。

これらの出来事が、基本的に伝聞の形で順不同に述べられていく。
取材によって発行された作中作だろう内容や、新聞雑誌の切り抜き、
一見意味不明な会話のみの章もある。

その全てを読んでから、作中の出来事を脳内で再構築して、何とか理解できた、つもり。
なぜ惨殺は起きたのか。
実際に何が起きたのか。
取材作家はなぜ本を出したのか。
語り手の「私」は誰なのか。
「ユージニア」という造語の意味も、きちんと読めば推測可能。

不思議な本だったなあと思いながら解説を読んで、目をむいた。
単行本はもっともっと凝った装丁になっているなんて。
もう一度読まねば……!

それでは。また次回。