好事家の世迷言。

調べたがり屋の生存報告。シティーハンターとADV全般の話題が主。※只今、家族の介護問題が発生中です。あしからず。

星新一ショートショート再読。(その53)

2024-10-28 | 星新一ショートショート
『弱点』
新潮文庫、番号3、『ようこそ地球さん』収録。

不気味な話である。
地球に謎の物体がもたらされる回は少なくないが、今回はまるっきり原因不明。
いきなり現れた物体に、救いの無いオチが付いて終わる。

ところで、世には「SCP」というジャンルがある。
謎の物体や現象を扱う組織を描くホラーであり、子供たちにも浸透している模様。
このジャンルもまた、星氏が既に通った道であり、今回の話はまさに、そのプロトタイプに感じられる。

破壊不可能の物体だよ
(SCPっぽい)

世を滅ぼしかねない生き物が生まれたよ
(Safeだな)

めっちゃ増えるよ、殺せないよ
(Keterだ)

人命伴う冷酷な解決法が分かったよ
(Euclidだな)

相当数のDクラス職員に対応させてDecomissionedかな、と今後の展開まで想像できる。

なお、余談ながら、SCPの世界には、
面白いショートショートを教えてくれる謎の人物というオブジェクトも存在する。

SCP-1001-JP-J - SCP財団

どうぞご一読を。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その52)

2024-10-09 | 星新一ショートショート
『雨』
新潮文庫、番号2、『ようこそ地球さん』収録。

主に1970年代の環境問題は、温暖化と逆方向の、氷河期による干魃が筆頭だったと記憶している。
ただ、原因がたとえ何であろうが、当座の人々における悩みはいつの時代も変わらない。食料不足だ。

そんな「未来の氷河期時代」に、「タイムマシン」と、そして時代を超える「水の姿」と掛け合わせた三大噺から出来ているのが本作だ。

未来世界では、生活を脅かす忌々しい氷。
私たちにとっての現代(本作執筆当時は近未来)では、幻想的な雨。
そして恐竜時代のアレ。
どれも水という本質は同じだが、私たちヒトからの解釈次第で、それらは別物になる。
話の序盤で、主人公が言っていた“復讐”が、さりげなく為されているのも注目点と言える。

……と書き連ねている内に、ふと思い至る。
そもそも恐竜って、おしっこする生態なんだろうか。
爬虫類ないし鳥類なら、液状のやつは出さんよなぁ。
星氏なら、分かった上で意図的にホラ混ぜて書いてみせてる可能性も充分あるだろう。
歳とって初めて気づくネタもあるのね。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その51)

2024-09-11 | 星新一ショートショート
(初稿がクラッシュしたため書き直しています)

『デラックスな拳銃』
新潮文庫、番号1、『ようこそ地球さん』収録。

タイトル通り、『デラックスな金庫』のバリエーション。
趣味が高じて財を投じて凝りまくった品を作った人の話。

ただ、ベースになっているのがピストルというのは、この21世紀でも、日本で使うと考えたら違和感。
本当はアメリカとか舞台なんだろうか本作。

それに、あまりにも使い道の幅が広いため、様々な機能を持ち合わせた武器というよりも、端末の持ち合わせる様々な機能の一つが武器でもある、という感じの比重にまでなっているように感じる。
今時の感覚なら、スマホにスタンガン機能とか、そういう類を付ければ、似たような代物になるだろうか。
充電池が暴走したら兵器だものね実は電子機器って。

ところで、星氏といえば、自らの書いた作品を後年、時代背景に合わせて片っ端から書き直した事が知られている。
電話のダイヤルをプッシュホンに変えたのがその一例だ。

だが、そんな星氏でもフォローしきれなかった事柄もある。
まさか、テレカの変遷さえ飛び越して、公衆電話自体が消えつつあるとは、どのSF作家の方々も予測できなかった。
昔のSFを読むと、普通に車載電話使ったりしてますしね。

もし星氏が存命だったら、一体どんな風に書き直しただろう。
順当に考えたら自販機か、またはゲーセンの両替機か。
もしもの改訂版を、読んでみたいかも。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その50)

2024-08-02 | 星新一ショートショート
『最後の地球人』
新潮文庫、番号50、『ボッコちゃん』収録。

本作が書かれた当時は、日本を含め、地球の人口が大幅に増えていた時代だった。

「人口爆発」というのは、20世紀後半によく使われるようになった語だ。
ちなみに筒井康隆氏による『48億の妄想』は1965年作である。
翻って現在の地球人口は、ざっくり言えば80億。2倍近い。
このスピードを踏まえれば、本作の書かれた背景を想像しやすいだろう。

ただ、作中では、地球人口は瞬く間に100億、200億と増していくのに対し、実際の未来にあたる私たちの世界では、そこまでの勢いでは増えてはいない。

というよりも、増えるのが困難になってきている。
人間の消費活動より前に、星の資源が間に合わなくなってきた。
地球外などへ移住するような技術もまだ作られていない。
科学が進めば確かに人口が増えるが、戦争や疫病でたやすく人は死んでしまう。
逆に、本作のような、言ってみれば人類の衰退は、ある意味では既に始まっているのかもしれない。

ともあれ、かくして、全50話をもって『ボッコちゃん』の世界は幕を閉じる。
一旦終焉を、終演を迎えた世界は、「光あれ」の言葉で再起動する。
人間と悪魔が騙し合ったり、見知らぬ宇宙人と出会ったりする地球の歴史が、繰り返されるのだ。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その49)

2024-07-08 | 星新一ショートショート
『なぞの青年』
新潮文庫、番号49、『ボッコちゃん』収録。

この話は是非、途中まで読んだところで手を止めて、事の真相を予想してみてもらいたい。

町の人々の素朴な願いを次々に叶えてみせる正体不明の人物。
今まで『ボッコちゃん』の作品群を読んできた人なら、すぐに二つや三つ、パターンを思いつくはず。

人々を迂遠に堕落させる悪魔?
気まぐれに人々を救う妖精?
地球を観察しに来てる異星人?
謎の薬のせい?
そんな風にファンタジーやSFの類を思い浮かべる一方で、別の思考に至る人もいるだろう。
何者かに脅されてる?
それとも、何か確固たる信念や思想を持ってる?

最後、なぞの青年の正体が明かされると物語は、言ってみれば社会派ミステリ路線に収斂する。
果たして彼のした行為は、所業は、善行だったか悪行だったか。
もしかしたら私たちの現実でも実際に起こっている出来事かもしれない。
この話のように、報道されてないだけで……なんて。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その48)

2024-07-02 | 星新一ショートショート
『冬来たりなば』
新潮文庫、番号48、『ボッコちゃん』収録。

「冬来たりなば、と言えば何と続く?」というクイズが今時は成り立つかもしれない。
因みに正解は「春遠からじ」。

さて本題。この度の話は、「宇宙人とのファーストコンタクト」タイプ。
せっかく友好的に交流できたと思ったら、その出鼻をくじかれるというオチ。
なお、余談ながら、私たちが現在把握してる彗星は基本的に200年以内の周期である。

ただ、これが学術的調査の旅だったら、残念でしたの苦笑いでも済むが、今回に限ってはゴリゴリの商売。
ロケットの機体にスポンサーの広告を書きまくるのは、列車や飛行機などのラッピング広告を連想させる。

ところで、今回の主人公は「エヌ博士」。
今回でこの名前が何人目とカウントしたら面白いだろうか。
もっとも、世には既に先人がまとめた人物辞典が存在する。
一度読んでみたいものだ。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その47)

2024-03-31 | 星新一ショートショート
『白い記憶』
新潮文庫、番号47、『ボッコちゃん』収録。

他作家のアイディア殺しとして定評のある星氏。
SFやホラーなどは基本として、今回の話では、まさかのラブコメが披露される。

この話はある程度ネタバレしないと語れないから、途中まであらすじを明かす。

舞台は病院。
共に記憶喪失状態で運び込まれた男女は、会ってすぐに意気投合し、一気にラブラブ。
それもそのはず、実は二人、とうに結婚していた、という流れ。

この後は当然、二人とも記憶を取り戻す展開に入り……そこから先のオチは伏せよう。

さあ皆さん、想像してみてください。
あなた好みのカップルやコンビ、恋人や親友たちが、どっちも記憶喪失して初対面に戻ったら何が起こるだろうと。
このアイディアだけで、人によっては無限にエピソード創れるだろう。
一次創作でも二次創作でも何でも良しだ。

そんなオイシイ状況を、こんなにもアッサリと料理してしまうのが、星新一ショートショートの素晴らしくも恐ろしい点である。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その46)

2024-03-13 | 星新一ショートショート
『よごれた本』
新潮文庫、番号46、『ボッコちゃん』収録。

「人外召喚」の内、「悪魔」モチーフのパターン。
星作品では非常に多い印象。
人と悪魔と、互いに言葉尻を取り合う屁理屈合戦ぶりが、星作品の気質に合うのだろう。

今回登場する悪魔は、他のショートショートと比べ、相当に強かだ。
例えば最初に紹介した『悪魔』の悪魔は最終的に人間をゲットしているが、それは人間が欲に飽かせた結果論。
それが本作では、人間の望みなんざ何も叶えるつもりがない。
最初から食らう気まんまんである。

そんな悪魔も、後の話では逆にしてやられる率が上がっていったはず。
読み返すのが楽しみだ。

ところで、こういう話で、本の指示に従って、まず日常では手に入らないだろう風変わりな素材を一通り集める下りが毎度さらっと出てくるが、皆さん一体どんなツテで手に入れてるんだろうか。
これも或る種の才能では?

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その45)

2024-02-28 | 星新一ショートショート
『盗んだ書類』
新潮文庫、番号45、『ボッコちゃん』収録。

「博士のアヤシイ発明品シリーズ」と名づけたい。
もう少し記事数が増えたら、こういうシリーズ名を各種揃えたい。

さて、そんな今回の話に出てくる発明品は、薬と呼ばれているものの、実際のところは料理の品のような印象を受ける。
出来上がって即座に博士自ら飲んでるし、データを盗んだ不心得者も、紙幅の都合かもしれないが簡単に完成させている。

そんな今回の“薬”の正体。
初読時の子供心では、心暖かくなるイイ話に感じたが、改めて読み返して、異なる考えが浮かんできた

そも「良心」とは何だろう。
皆、正直で公平で平穏で、それは一見心地よい。
だが、相手を傷つけまいと敢えて口をつぐむ勇気や、より誇れる自分を目指す向上心や、進む道を阻まれても乗り越える気概などの感情は、果たして善か、悪か。悩む。

ところで今回の話に出てきたのは「エフ博士」。
この名前の出現率もなかなか高い。
エヌ氏同様、何作登場しているかカウントしてみるのも一興かもしれない。

それでは。また次回。

星新一ショートショート再読。(その44)

2024-02-11 | 星新一ショートショート
『欲望の城』
新潮文庫、番号44、『ボッコちゃん』収録。

多彩な星作品において、本作は純粋にホラー系。
『世にも奇妙な物語』で映像化か、あるいはいっそ『笑ゥせぇるすまん』のコミカライズで見てみたい。

本作が発表されたのは、大量生産&大量消費の時代だが、現代でも十分通じる内容だと思う。
「今の世の中、老いも若きも男も女も、断捨離やらミニマリストやら言っていますが……」なんてナレーションで始まればカンペキ。

無意識で欲しいと感じた物が、自動的に配置される夢世界。
何でも手に入ると喜ぶと束の間、最終的に、最も重要なモノが失われてしまう。
ネタバレ防いだ表現なら、当人の安全が。

もしかしたら本作のタイトル、本当は「城」でなく「檻(おり)」かもしれない。

ところで星新一氏本人が、この夢世界を得たらどうなってただろう。
氏も大量に資料蓄えてたはずだから、バットエンドの可能性は高い。
私も、書籍なら無限に欲しくなるだろうから、怖いね。

それでは。また次回。