好事家の世迷言。

調べたがり屋の生存報告。シティーハンターとADV全般の話題が主。※只今、家族の介護問題が発生中です。あしからず。

EP60 奥多摩編(JC第35巻)考察。(終了です)

2024-06-02 | 『シティーハンター』原作考察
ファンの間では「ラスエピ(最終回)」や「結婚式編」など、複数の呼称が見られる回。

作者は今エピソード開始時に、打ち切りを知らされたという。
しかしながら、物語は自然にまとまっており、打ち切り特有の違和感はさほど感じられない。

今エピソードでは、美樹と海坊主が
「けじめ」として挙げた結婚式を主軸に、獠と香の関係の最終結論が描かれる。
人質にされた香と、彼女のもとへ駆けつける獠という、半ば様式美のような状況で、獠は敵に持論を語る。

かつて獠は『亜月菜摘編』で、赤の他人を救うため、自らの身体をためらいなく犠牲にした。
ミックが述べたように「戦いの中に自分の死に場所を求めている」人物だった。

そんな彼が「おれは愛する者のために何がなんでも生きのびる」と宣誓した。
ここに『シティーハンター』という作品は、主人公が成長を果たす少年漫画的ビルドゥングスロマン(教養作品)として完成した。

もっとも、獠を掘り下げる方向を優先した結果、物足りない部分も残る。
実を言えば、あの場面では香の方が、獠が否定した「自己犠牲」をしてしまってるわけで。
『浦上まゆ子編』のように自力で逃げ出す底力を見たかったとも思う。

ともあれ、かくして連載全336話、全60事件の『シティーハンター』原作漫画は終演と相成った。
しかし時を経て、獠たちはアニメや実写などで繰り返し蘇っている。
これからも、彼らの世界は続いていく。
彼らの理想郷は、私たちファンの数だけ存在するのだ。

フェーズ6「アガペー」終了。
(※アガペー。利他的恋愛。人は基本的に獲得できない)

EP59 橘葉月編(JC第34・35巻)考察。

2024-05-19 | 『シティーハンター』原作考察
『にせC・H登場!!』

実は、内容を確かめようと精読した際、かなり消耗した。
どうも私は今回の話、読むのを無意識的に拒んでいるようだ。理由は以下。

第一に、ミックの扱いが不憫。
本来、日常生活に戻れただけで奇跡的なのに、元通りに戦えない点が強調され、依頼人・橘葉月を疑うなどの失態もあり、むしろ印象が悪くなっている。

第二に、話の流れ自体が非常に分かりにくい。
肝心の葉月が、自らの真情を終盤まで明かさないためだ。
そこに、前述したミックの失態や、後述する獠と香の痴話喧嘩が絡まり、要らぬ危険が増している。
大統領が死んでもいいのか葉月。

そして第三、ミックもそうだが、獠も香も、目の前の葉月の事件に真摯に向き合っているように感じられない事。
彼らはどんなに私情で揉めても、依頼では気持ちを切り替えていたと私は思う。
事件解決を痴話喧嘩の肴に使うのは、ダメでしょう。
もし葉月が一般人だったら死んでるよ?

他者と互いに素直な信頼を築き、命を預けて戦って、護り、救う。
こういった基本構造だけは、崩さないでもらいたかった。
その後の結果が次回、即ち最終回の幕開けに至るのである。

それでは。また次回。

EP58 日下美佐子編(JC第34巻)考察。

2024-04-24 | 『シティーハンター』原作考察
『ヒーローの怪我!?』

前に私は「『浦上まゆ子編』が一番苦手」と述べたが、それを撤回したい。
今エピソードが我がワーストだ。
完全に存在を忘れていた。

惚れた欲目で読んでいた時は看過していたが、冷静に読み返して絶句している。
『シティーハンター』という作品を成り立たせる絶妙なバランスを、作者が見失ってしまった結果が、今回だ。

皆様、想像してほしい。
あなたの最愛の推しが──切れ痔になったら、わあ素敵、と笑顔になれますか。
私は無理です。

性的な「もっこり」ネタは現実離れしているから笑えるのであり、対して肛門や排泄などのネタは、あまりに生々しい。

また、後半、獠と香が手錠で四苦八苦の下りは、ジャンプ初読の時代から疑問符が離れなかった。
「手錠壊せなくても、間のヒモ切ればいいのに」と。
ヒモも破壊できない設定なんだとも思うが、無理ないですか?

もしも、今回のような路線で連載が続いていたらと考えたら、背筋が寒くなった。
『シティーハンター』はこの時期、終わるべくして終わったのかもしれない。

それでは。また次回。

EP57 海原編(JC第33・34巻)考察。

2024-03-24 | 『シティーハンター』原作考察
『悲しき旅立ち!!』

10週を超える、原作最長エピソード。
『ミック・エンジェル編』『シュガーボーイ編』からの連作にして、『ブラッディ・マリィー編』や『ソニア・フィールド編』も内包し、元をただせば『ユニオン・テオーペ初登場編』からの布石が伏線として回収される大事件。

獠と香のみならず、海坊主と美樹、冴子も活躍、更にあの教授の正体も描かれ、つまり、かずえも登場。
ミックは無論、マリィーも重要人物として機能する。
何より、彼らと対立するキャラクター・海原神が、強烈なインパクトを与えてくる。

名場面も名言も多い。
シリアスからギャグ、と思えばまたシリアスという、緩急の激しさも髄一。
未読の方はとにかく読んでくれとだけ言いたいのが私の本心だ。

ただし、私見ながら、今回の話には欠点がある。
ラスト2ページだ。
振り返れば、獠と香は、これを機に完全に結ばれるべきだった。
が、こうまで心を通わせてもなお、大宇宙の意思は彼らの恋愛を拒んだ。
つまり、彼らはただ加齢だけしていく事が、ここで決定づけられてしまった。
それ即ち、少年漫画として続く事が、ついに限界を迎えた瞬間だった。

それでは。また次回。

EP56 シュガーボーイ編(JC第32・33巻)考察。

2024-02-21 | 『シティーハンター』原作考察
『写真を巡る思い出!』

前回の『ミック・エンジェル編』からの続き。
長期連載ならではの展開の一つ、過去編である。
今まで見慣れてきていたメインキャラ達の異なる時代を眺める事が出来る貴重な回である。

時代設定は『シティーハンター』連載開始から3年前、香は高校2年生修了、歳16、しかし満年齢では17に……と書いてて頭痛くなってきた。
登場人物が加齢する設定の作品は、これだからヤヤコシイ。

閑話休題。
本作を読んで気づくのはまず、長期間を経ての絵柄の変容だろう。
連載初期の画風を極力踏襲しつつも、現在の画風も滲み出ている混ざり具合が何とも言えない。

また、連載初期の香が、男扱いされるのを嫌がるわりには、一人称「おれ」の男言葉をつかっていたという、ある種のムジュンを後付けで解消しているのは好印象。
他にも、獠と香が出会った日付の補強や、香が自分の出自を把握済みだった事など、情報は多い。

が、その一方で、後の作風に引きずられてしまっている部分も散見する。
連載初期の獠は自分を年長者(おじさん)と自覚していたはず。
あの時点で「おれはハタチ」ネタは、やや不適切だろう。
また、少なくとも連載初期の獠と槇村は、必要悪の殺人者としての自負を持っていたと私は感じている。(殺人自体の是非は今は問わない)
なのに槇村がモノローグで「人殺しではない」「殺し屋なんかじゃない」と発言しているのは、ムジュンを起こしてないか。
結局、この時代の獠&槇村はどんなスタンスでスイーパーを務めていたのか、謎は残る。
個人的には、この時代設定でスピンオフを読んでみたいところだ。

それでは。また次回。

EP55 ミック・エンジェル編(JC第32巻)考察。

2024-01-24 | 『シティーハンター』原作考察
『おかしなふたり!!』

今エピソードから『シティーハンター』は、連作状態に入る。
この時期の作品を未読の方は、今エピソードから最終回まで一気に読む事を強くお勧めする。
(厳密には、前回の『野上唯香編』から続けるとなお良い)

さて今回の事件は、原作勢としては必読である傑作の一つ。
ストーリー最後のレギュラーキャラと呼ぶべき、獠の親友・アメリカ人のミック・エンジェルが登場、活躍するのだ。

獠に匹敵する有能なスイーパーにして女好き。
一つ違うのは、ミックは積極的に香にモーションをかけた事。
結果、『浦上まゆ子編』などで起こりかけた、「香を挟んだ三角関係」がついに勃発。

ずっと獠に護られていた香が、自ら獠を護ると決断する一方、獠は長年の逡巡に、彼なりの結論を下す。

が、ラストはやっぱり、締まらない。
まさか、口八丁手八丁の獠が、肝心要の場面で台詞を言い間違えるという消化不良でおわってしまう。

なお、余談ながら。
このエピソードは原作に詳しくない人、つまりはアニメ勢に知名度が低い、不憫な立ち位置にある。
原作以外でミックを知る方法は今のところ、ボイスドラマ版か宝塚版しか存在しない。
似た構造のアニメオリジナル『ロバート・ハリスン編』もある以上、『ミック・エンジェル編』のアニメ化は厳しいと考えざるを得ないだろう。
将来、この余談の段落が追記修正される事を個人的に願ってやまない。

それでは。また次回。

EP54 平山希美子編(JC第31巻)考察。

2023-12-20 | 『シティーハンター』原作考察
『もっこり十発の陰謀!?』

3週完結という比較的短い内容にまとまっている。
ゲストキャラのいわゆる“美女”が登場しない、異色の回。

というのは、この度の依頼人である謎の女、その正体は美樹の変装だからだ。
かつて銀狐によってされたような、他人のマスクによるカンペキな変装でなく。
香が絵梨子によってされたような、髪の長さから大幅に変えたものでもなく。
単に髪の様子と服の趣味を変え、ホクロを消しただけ。
(あと香水も変えているとの事だが、読者にその違いは分からない)
それで誰も見破れない別人扱いというのは、流石に漫画じみているというか、または逆に生々しいというか。

今回の話は『伊集院隼人氏の平穏な一日』に近い、息抜きのような印象を受ける。
獠&香、海坊主&美樹の四人の掛け合いを純粋に楽しむ回と言おうか。
そのじつ、今エピソードを境に、『シティーハンター』のメインストリームは、最後にして最大のシリアス展開に入り、最終回へ駆け抜けていく。
なお、余談ながら、今エピソードは『シティーハンター』最後の下ネタ路線の事件、とも呼べる。
原作で、いわゆるラブホテルがあからさまに描かれたほぼ唯一の回でもある。
そういった意味でも今回は、言わば、首都高に入る前のサービスエリアのような物と言えるかもしれない。

それでは。また次回。

EP53 野上唯香編(JC第31巻)考察。

2023-11-26 | 『シティーハンター』原作考察

『獠と恐るべき似た者姉妹!!』

『シティーハンター』原作ファンなら必読、と言っても過言でないだろう。
今回のゲストキャラは、あらゆる意味で「テコ入れ要員」。
冴子に続く麗香に続く、野上姉妹の三人目。
注目すべきはその年齢と、職業。女子高校生にして、第一線で活躍中の少女小説家。

周囲を利用しようとする口八丁手八丁は姉たち同様。
姉たちの捜査についてを創作に反映、というより、そのまま使っているのは色んな意味で問題があるように思える。

そんな唯香は、獠&香に護られる中で、10代の視点から、二人の関係について率直に疑問をぶつけていき、ついには獠から香への感情を、具体的かつ客観的に断罪する。
「自分勝手」「わがまま」「卑怯」と。
ここまで獠の心境に踏みこんだ登場人物は、他に恐らく教授くらいしかいないのではなかろうか。

かくて本心を露わにされていった獠は今回の終盤、ある事情で大幅に弱体化する。
連載初期にあった超人性は、ほぼ失われ、“普通の人”としての側面が強調される。
いつものように?唯香をさらわれた時も、獠一人では立ち向かえない。
そこで獠は香と共に、奇抜な案でピンチを超える。
その詳細は、ここでは敢えて伏せよう。
万一、未読の方は、是非とも原作を読んでいただきたい。

それでは。また次回。


EP52 小林みゆき編(JC第30・31巻)考察。

2023-10-27 | 『シティーハンター』原作考察

『ハートマークの逃がし屋!?』

この度の“美女”である、みゆきは獠たちとある種の同業者。
危険な物や人やアレコレを扱う「運び屋」のプロである。
職業人が国際問題に巻き込まれているのを護り救うという点は、『北原絵梨子編』とやや似ている構造と言える。

今エピソードについては、注目すべき点が多い。

★作中での金銭感覚の変化
最も大きな点だろう。
作品初期には「1億円を1週間で使い切る」など豪快な描写が見られたが、それは過去の話。
獠と香の経済は、とうとうカップ麺生活のレベルまで逼迫してしまっている。
CHの全盛期、バブル時代が終わりつつある事が述べられている。

★薬物依存者とその家族の問題
CHでは、エンジェルダストを皮切りに、薬物事件がしばしば扱われている。
今エピソードでは、それが更に、みゆきの“憑き物”として掘り下げられた。
単純な勧善懲悪では処理できない、考えさせられる問題に触れた作者に敬意を表したい。
なお、この辺りはアニメ版では全カットされてしまっているので、ご興味あれば是非ともこの漫画版を。

★香の活躍
(獠と香でなく)香単独で、これほど大活躍した事件は他にないのではなかろうか。
敵に侮られてる事まで初めから計算済みで動く彼女は、確かにもう一人の「シティーハンター」を名乗る資格がある。

★『RUNNING TO HORIZON』
みゆきが披露している暗号ソングは、アニメ版『CH3』オープニングを模した曲。
元の歌詞と比べてみるのもまた一興。

それでは。また次回。


EP51 及川優希編(JC第29・30巻)考察。

2023-10-08 | 『シティーハンター』原作考察

『命懸けのパートナー』

本当は「優希」じゃない、と書くとネタバレになるか。
本エピソードは、作品ファンの間であまり好かれていない意見が少なくない。
私も例に漏れず、少々苦手。というか、印象が薄い。

世の反応においては、とにかく獠と依頼人が(香を差し置いて)本気で恋愛している点が、いわゆる大きな地雷原。
もっとも、連載初期には、こうした形で進むエピソードも存在している。
『佐藤由美子編』がその筆頭だろう。
が、『ソニア・フィールド編』や『神宮寺遙編』を通過した獠&香に、こうした展開は、やや不自然と言わざるを得ない。
もしも本エピソードを、もっとずっと昔に発表していたら、違う評価もあったかもしれない。
と、一般的な評価はこの辺にして、以下、私見。
本エピソードの問題点は大きく二つ。

一つは、“美女”たる優希が、事件を経ても一切成長しなかった事。
彼女は獠たちとの出会いを糧にするどころか、まるで邪魔な“憑き物”のように、文字通り全て「消去」してしまった。
これだと早晩、別のスジから結局暗殺されるだろう未来さえ見える。

そしてもう一つは、『麻生かすみ再登場編』辺りでも特殊能力めいていた「催眠術」が、とうとう何でもありに暴走している事だ。
本来の催眠術では、かける側かけられる側の双方に信頼関係が必須。
それが本エピソードでは、獠も香も初対面で暗示かけられまくり。
そこまでなら、まあフィクションだからと流してもいいが、なんと敵の術士は、優希を自殺させる事は出来ないと言っていながら、「水中で体を動かせなくなる」という荒技をこなしている。
明らかにコレ、(随意でない)反射の領域を操っている。
こんなんやれたらもう、相手の呼吸を止めて殺せる。
と言いますか、暗殺者なんかより、世界征服とか目指した方がいい。
この真実に、どうか術士が気づきませんように。

それでは。また次回。