3週完結という比較的短い内容にまとまっている。
ゲストキャラのいわゆる“美女”が登場しない、異色の回。
というのは、この度の依頼人である謎の女、その正体は美樹の変装だからだ。
かつて銀狐によってされたような、他人のマスクによるカンペキな変装でなく。
香が絵梨子によってされたような、髪の長さから大幅に変えたものでもなく。
単に髪の様子と服の趣味を変え、ホクロを消しただけ。
(あと香水も変えているとの事だが、読者にその違いは分からない)
それで誰も見破れない別人扱いというのは、流石に漫画じみているというか、または逆に生々しいというか。
今回の話は『伊集院隼人氏の平穏な一日』に近い、息抜きのような印象を受ける。
獠&香、海坊主&美樹の四人の掛け合いを純粋に楽しむ回と言おうか。
そのじつ、今エピソードを境に、『シティーハンター』のメインストリームは、最後にして最大のシリアス展開に入り、最終回へ駆け抜けていく。
なお、余談ながら、今エピソードは『シティーハンター』最後の下ネタ路線の事件、とも呼べる。
原作で、いわゆるラブホテルがあからさまに描かれたほぼ唯一の回でもある。
そういった意味でも今回は、言わば、首都高に入る前のサービスエリアのような物と言えるかもしれない。
それでは。また次回。
『獠と恐るべき似た者姉妹!!』
『シティーハンター』原作ファンなら必読、と言っても過言でないだろう。
今回のゲストキャラは、あらゆる意味で「テコ入れ要員」。
冴子に続く麗香に続く、野上姉妹の三人目。
注目すべきはその年齢と、職業。女子高校生にして、第一線で活躍中の少女小説家。
周囲を利用しようとする口八丁手八丁は姉たち同様。
姉たちの捜査についてを創作に反映、というより、そのまま使っているのは色んな意味で問題があるように思える。
そんな唯香は、獠&香に護られる中で、10代の視点から、二人の関係について率直に疑問をぶつけていき、ついには獠から香への感情を、具体的かつ客観的に断罪する。
「自分勝手」「わがまま」「卑怯」と。
ここまで獠の心境に踏みこんだ登場人物は、他に恐らく教授くらいしかいないのではなかろうか。
かくて本心を露わにされていった獠は今回の終盤、ある事情で大幅に弱体化する。
連載初期にあった超人性は、ほぼ失われ、“普通の人”としての側面が強調される。
いつものように?唯香をさらわれた時も、獠一人では立ち向かえない。
そこで獠は香と共に、奇抜な案でピンチを超える。
その詳細は、ここでは敢えて伏せよう。
万一、未読の方は、是非とも原作を読んでいただきたい。
それでは。また次回。
『ハートマークの逃がし屋!?』
この度の“美女”である、みゆきは獠たちとある種の同業者。
危険な物や人やアレコレを扱う「運び屋」のプロである。
職業人が国際問題に巻き込まれているのを護り救うという点は、『北原絵梨子編』とやや似ている構造と言える。
今エピソードについては、注目すべき点が多い。
★作中での金銭感覚の変化
最も大きな点だろう。
作品初期には「1億円を1週間で使い切る」など豪快な描写が見られたが、それは過去の話。
獠と香の経済は、とうとうカップ麺生活のレベルまで逼迫してしまっている。
CHの全盛期、バブル時代が終わりつつある事が述べられている。
★薬物依存者とその家族の問題
CHでは、エンジェルダストを皮切りに、薬物事件がしばしば扱われている。
今エピソードでは、それが更に、みゆきの“憑き物”として掘り下げられた。
単純な勧善懲悪では処理できない、考えさせられる問題に触れた作者に敬意を表したい。
なお、この辺りはアニメ版では全カットされてしまっているので、ご興味あれば是非ともこの漫画版を。
★香の活躍
(獠と香でなく)香単独で、これほど大活躍した事件は他にないのではなかろうか。
敵に侮られてる事まで初めから計算済みで動く彼女は、確かにもう一人の「シティーハンター」を名乗る資格がある。
★『RUNNING TO HORIZON』
みゆきが披露している暗号ソングは、アニメ版『CH3』オープニングを模した曲。
元の歌詞と比べてみるのもまた一興。
それでは。また次回。
『命懸けのパートナー』
本当は「優希」じゃない、と書くとネタバレになるか。
本エピソードは、作品ファンの間であまり好かれていない意見が少なくない。
私も例に漏れず、少々苦手。というか、印象が薄い。
世の反応においては、とにかく獠と依頼人が(香を差し置いて)本気で恋愛している点が、いわゆる大きな地雷原。
もっとも、連載初期には、こうした形で進むエピソードも存在している。
『佐藤由美子編』がその筆頭だろう。
が、『ソニア・フィールド編』や『神宮寺遙編』を通過した獠&香に、こうした展開は、やや不自然と言わざるを得ない。
もしも本エピソードを、もっとずっと昔に発表していたら、違う評価もあったかもしれない。
と、一般的な評価はこの辺にして、以下、私見。
本エピソードの問題点は大きく二つ。
一つは、“美女”たる優希が、事件を経ても一切成長しなかった事。
彼女は獠たちとの出会いを糧にするどころか、まるで邪魔な“憑き物”のように、文字通り全て「消去」してしまった。
これだと早晩、別のスジから結局暗殺されるだろう未来さえ見える。
そしてもう一つは、『麻生かすみ再登場編』辺りでも特殊能力めいていた「催眠術」が、とうとう何でもありに暴走している事だ。
本来の催眠術では、かける側かけられる側の双方に信頼関係が必須。
それが本エピソードでは、獠も香も初対面で暗示かけられまくり。
そこまでなら、まあフィクションだからと流してもいいが、なんと敵の術士は、優希を自殺させる事は出来ないと言っていながら、「水中で体を動かせなくなる」という荒技をこなしている。
明らかにコレ、(随意でない)反射の領域を操っている。
こんなんやれたらもう、相手の呼吸を止めて殺せる。
と言いますか、暗殺者なんかより、世界征服とか目指した方がいい。
この真実に、どうか術士が気づきませんように。
それでは。また次回。