▶次回ベルリンに行ったら是非歩いてみたい…
❤六草いちかさんのご著書2冊
▶ひょんな出会いから「舞姫」へ
何とか16回目のドイツへの旅をブログで書き終えようとしていた頃、わが家では鴎外の恋人とベルリンに関わる会話が頻繁に交わされました。それは、連れ合いの三津夫が「舞姫」フィーバーで大盛り上がりだったからです。彼のブログにも2回にわたって関係記事が書かれているほどです。
(三津夫のブログ 293, 295 https://blog.goo.ne.jp/engekikyoikuron )
私の方は旅のブログと併行して写真集Ⅳ『完・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーと中世ドイツの作家たち』(10月末に丸善プラネットから刊行予定)の再校校正紙を確認するという大事な仕事があったため、三津夫より一足遅れてやっと『鴎外の恋』を読むことができたのでした。読み始めたら止まらないというのはこういう本のことを言うのですね。なぜこの本を手に取ることになったのかと言いますと、それはひょんな出会いからなのです。
昨年11月に開催した「祈りの彫刻 リーメンシュナイダーを歩く」写真展でのことでした(ブログ194~200参照)。第22回日本自費出版文化賞の特別賞受賞のおかげで、12月になって日経新聞に私の記事が掲載され、写真展についても紹介されました。このあと日に日に訪ねてきてくださる方が増え、次第に何枚かパネルを買いたいという方も出てきました。その中のお一人がUさんでした。彼女はピアノの上に置いたアムステルダムの「受胎告知」を求められたのでした。これはリーメンシュナイダーが25歳頃の作品で、恐らく一番初期の作品といっていいでしょう。とても清楚なマリアと少年のような天使の表情には多くの方が目を留めてくださいました。このパネルをUさんにお送りしてからメールでのやりとりが始まり、彼女が支援している若いチェンバロ奏者、中川岳さんのコンサートをご紹介いただいてまたお目にかかるようになりました。私も中世の音楽の響きには憧れがあり、チェンバロの演奏を生で聴いてみたいと思って1月にコンサートに行ってみたのです。それは想像以上に素晴らしい音色で、このような音楽を写真展のバックミュージックに使いたいものだと感動しました。そして、東大在学中にヴュルツブルク大学にチェンバロを学ぶために留学したという中川さんの経歴にも興味を持ちました。Uさんのご紹介でこの日、コンサートが終わってから中川さんともお話を交わし、私の写真展動画にも中川さんが音楽を提供してくださるという幸運に恵まれました。ただ、残念なことに私のパソコンではボリュームを相当大きくしないとよく聞こえません。入れ方が悪かったのでしょうか。中川さん、ごめんなさい。
福田緑写真展「祈りの彫刻 リーメンシュナイダーを歩く」日本語版
リーメンシュナイダーの追いかけ人(びと)福田 緑です。 2019年11月23日から12月7日まで、おそらく日本で初めての“リーメンシュナイダ...
youtube#video
そのUさんは私の写真展をお住まいの国分寺でも開きたいとあれこれ調べてくださって、3月には国分寺駅ビル内にある便利な会場で10月末~11月には開催する予定まで立てたのでした。ところが皆さまご存じのように日ごとにコロナの感染者が増えてきて、とうとうそうした催し物をすること自体が難しくなってしまいました。そのため、今は延期という状態です。Uさんと会う機会が増えて一緒にあれこれお話しするうちにお友だちの六草いちかさんのことも折に触れて出てきていたのでした。そんな経過で、この『鴎外の恋』はいつか読んでみようと思っていた本だったわけです。Uさんとの出会いも、中川さんとの出会いも、また六草いちかさんとの出会い(まだ本の上でだけですが)も、リーメンシュナイダーが紡いでくれたご縁ですね。
トップに載せた写真は、ベルリン在住の六草いちかさんが鴎外の恋人を追って2011年と2013年に書かれたご著書です。右の文庫本『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』は今年文庫本になったそうで、こちらをまず購入しました。でも、あまりにも感動してその続きがどうしても読みたくなって、左側の単行本『それからのエリス』を図書館から借りたのです。近々返さなければなりませんので記念撮影をしました。
▶ベルリンの新たな魅力が見えてきました。
ベルリンは私と三津夫にとってはまず「ボーデ博物館」なのです。
ヴュルツブルクのフランケン ヴュルツブルク美術・文化史州立博物館(旧マインフランケン博物館)は世界一のリーメンシュナイダー所蔵館です。ヴュルツブルクはリーメンシュナイダーの工房があった町で、博物館には常時80体ほどのよりすぐりの彫刻が展示されていますが、恐らく世界で2番目(あるいは3番目? 収納庫にあと何体あるのかまではわからないので)の所蔵を誇るのがここボーデ博物館なのです。そのため10回近く訪れている博物館で、館長のジュリアン・シャプイさんには写真集第Ⅲ巻のご挨拶を書いていただきました。また、博物館島には超有名な博物館が目白押しで、毎回どこかに寄っています。同じベルリンにはケーテ・コルヴィッツの美術館もあり、ナチス時代のユダヤ人迫害に関する場所、例えばグリューネヴァルト駅のマーンマル17番線、ヴァンゼー会議記念館、プレッツェンゼー記念館、虐殺されたユダヤ人のための記念碑なども訪ねました。さらにナチスによるユダヤ人への差別プレートがあるBayerischer Platzにも行ってみました。80枚全部は見ることができませんでしたが、こうした加害の歴史をきちんと残すドイツの姿勢に敬服しています。
でも、なぜか今までは森鴎外の記念館があることは知っていても行ってみようという気持ちにならなかったのです。興味の対象外だったということですね。それがUさんの引き合わせのおかげで、六草いちかさんのご本を読み、森鴎外も恋人エリーゼも私たちにとって一気に身近な人物となりました。六草さんがこのベルリンの町を駆け回って様々な資料を調査したエネルギーと時間は膨大なものだったはず。私などには想像できないほど偉大なお仕事です。ご自身のお仕事もありながら、そしてご家族もいながらのこのご研究はただただ「すごい!!」と言うしかありません。
さらに驚いたのは、窮地に立たされたときに不思議と出会うという「墓地の彼女」の存在、またどん詰まりになったときの自分に問うことばの鋭さ、その結果得られたインスピレーションのすごさ、インスピレーションに突き動かされての行動力…。もう、ため息をつきながら頁をめくる手が止められませんでした。これはまさに映画になっても良い探求の記録だと思います。
私も「リーメンシュナイダーの追いかけ人」は天から与えられた仕事という感じがしたことが何度かありますが、六草さんの偉業はまさにそれです。ここで詳細は述べません。関心を持たれた方は是非この本を実際に手に取ってみてください。ベルリンの地理にも詳しくなり、明治の時代の一端がわかり、それでも純愛を保ち続けた鴎外とエリーゼに拍手を送りたくなるのではないでしょうか。私たちも次の17回目ドイツの旅では必ずや二人の面影を追いかけながらベルリンの町歩きをしてみたいと思ってわくわくしています。
そのためにも今のコロナ感染が落ちつき、遠距離への移動も許されるようになり、安心して旅に出掛けられる世界を一日も早く取り戻したいものですね。
❤友人宅の庭先の花 追記:名前を調べたところ、アストランチア「スノースター」とわかりました。
※このブログに掲載したすべての写真のコピーをお断りします。© 2015 Midori FUKUDA