〈 主な登場人物 〉
ジェフ・カート ・・・ 保険会社に勤める。
ローズ ・・・ ブライアンの隣家に住む娘。
フレッド ・・・ ジェフの同僚。
ジョーイ ・・・ 靴磨きの少年。
ニック ・・・ ローズに思いを寄せている。
スザンヌ ・・・ ジェフの同僚。ニックの妹。
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幕が開く。
――――― 第 1 場 ―――――
薄明かりの中、中央寄りに一つのベンチ。
中央スポットに、スーツにトレンチコートの
一人の男(ジェフ)浮かび上がる。
両手をコートのポケットに突っ込み、少し
気だるそうに歌う。
“一体何をしているのか
何時もただひたすらに
目に映る事柄に
振り回されてるだけ・・・
そんな気がして
昨日までと違う
迷いが湧き上がる・・・
一体何がしたいのか
そえさえも分からずに
決められた事柄を
ただ済ませるだけの
そんな人生なんて
明日に意味はない
心ない時間が・・・
通り過ぎていく・・・”
そこへ上手より、一組のカップルが幸せそうに
寄り添いながら、一つの物語のもとに、ジェフ
の前を通り過ぎ、下手へ去る。
ジェフ、その様子を見ている。
(カップルに被せ、ジェフ再び歌う。)
“何故こんな時にたった一人
何故佇むのか・・・
待つ者もなく
待たれる訳でもなし・・・
何処へ行こうが勝手自由・・・
これからの道 好き気儘に・・・
自分の遣りたいように
進めばいい・・・
そう思った途端
何もかもが
ただの嘘偽りに変わりゆく・・・”
ジェフ、深い溜め息を吐き、ベンチへ腰を
下ろす。
ジェフ「・・・今日は土曜日だったな・・・。なのに何をやってるん
だ俺は・・・。仕事・・・仕事・・・仕事・・・全く・・・。」
その時下手より、一人の少年(ジョーイ)
靴磨きの道具の箱を、肩から提げて、
息を切らせ何かに追われているように
走り登場。
ジョーイ、惚けていたジェフを認め、駆け
寄る。
ジョーイ「兄ちゃん!!匿ってくれよ!!」
ジェフ「(ジョーイを認めて。)何だ、おまえ・・・」
ジョーイ「頼むよ、兄ちゃん!!悪い奴に追われてるんだ!!
そいつらに見つかったら、俺、殺されちまうよ!!」
ジェフ「偉く、物騒な話しだな。(笑う。)」
ジョーイ「(下手方を気にしながら。)冗談じゃないんだ!!俺、
本当に・・・!!あ!!来た!!(慌てて、ベンチの後ろ
へ身を屈めて隠す。)」
ジェフ、仕方なさそうに両手を広げ、ベンチの
背に掛け、後ろを隠すように。
一時置いて、下手より黒のコートに身を包み、
黒の帽子を深く被り、サングラスを掛けた一人
の男、誰かを捜すように走り登場。
が、ベンチにジェフの姿を認めると、心なしか
驚いて顔を隠すように上手へ去る。
ジェフ「(男が上手へ去るのを見計らって。)おい・・・もう出て来
てもいいぜ・・・。」
ジョーイ「(ホッとしたような面持ちで、ゆっくり出る。溜め息を吐
いて。)・・・ありがとう、兄ちゃん・・・助かったよ・・・。(ジ
ェフの横に腰を下ろす。独り言のように。)けど、やばかっ
たよなぁ・・・。・・・ところで兄ちゃん、こんなところでこん
な時間・・・しかも独りぼっちで何やってたんだ?今日は
町は恋人達で溢れ返る花のサタデーナイトだぜ?」
ジェフ「煩いな・・・。悪い奴はもう行ったんだろ?向こうへ行けよ
。俺は今、一人でいたいんだ・・・。」
ジョーイ「ははぁ・・・彼女に振られたとか?なぁんだ、そうだった
のか。そりゃあ一人で思い出に浸りたいよなぁ・・・。だけ
ど何時までも過去にばかり引き摺られてちゃ駄目だぜ。
辛いことを乗り越えて、前を向いてこそ、人間一回りも
二回りもでっかくなれるってもんだ。(笑う。)」
ジェフ「(溜め息を吐いて。)おい坊主・・・俺は彼女もいなけりゃ
、勿論振られて落ち込んでる訳でもないんだ!」
ジョーイ「なぁんだ・・・。(上を見上げて。)それにしても雪降らね
ぇかなぁ・・・。姉ちゃん喜ぶのになぁ・・・。クリスマスには
雪降ってくれりゃあいいのに・・・。姉ちゃんが好きな“サ
ンタクロースの贈り物”って本の中に、サンタクロースが
クリスマスに雪の贈り物をくれるってのがあるんだ・・・。
その中の女の子の置かれてる境遇が、自分と似てるん
だって。兄ちゃん、知ってるか?」
ジェフ「くだらない・・・」
ジョーイ「くだらなくなんてないさ!!俺がサンタならよかったの
に・・・。」
ジェフ「つまらないこと言ってないで、餓鬼はもうとっくにお休み
の時間だろ?早く帰らないと、ママが心配するぜ。」
ジョーイ「(明るく。)ママなんていないさ。」
ジェフ「・・・え?」
ジョーイ「ママはいないって言ったんだよ。生まれた時から、ずっ
と父ちゃんと2人っきりさ。それがさぁ、兄ちゃん聞いてく
れよ。この父ちゃんってのがまた、どうしようもない飲ん
だくれで、とんだ野郎なんだ。俺にずっと靴磨きさせとい
て、自分はその儲けで昼間っから酒屋通い・・・。そのく
せ儲けが少ないと、もの凄く怒鳴るんだ。一体何考えて
んのかねぇ、あの人は・・・」
ジェフ「・・・何故・・・俺にそんな話しを・・・?」
ジョーイ「な?兄ちゃん、世の中には俺みたいな奴も大勢いるん
だ。兄ちゃんが何に悩んでるのか知らないけど、所詮、
人の悩みなんて、落ち着いてみりゃ、ちっぽけなものっ
てことだよ。」
ジェフ「・・・どうして俺が何かに悩んでるって思うんだ・・・?」
ジョーイ「俺、色んな苦労して来たからなぁ・・・。一目見りゃ分か
るさ。(笑う。)」
ジェフ「(呆然とジョーイを見詰め、思わず笑う。)生意気な奴だ
な・・・。(ジョーイの頭を突く。)」
ジョーイ「(照れたように頭を掻く。)」
ジェフ「おまえの言う通りだよ・・・。ふと仕事人間の自分に、嫌気
がさしたんだ・・・。自分の時間を持つことも出来ないよう
な、今のこの生活が俺が本当に求め望んだものだろうか
・・・ってね・・・。(ハッとしたようにジョーイを見る。)・・・お
まえに言っても仕方ないな。(微笑む。)」
ジョーイ「そうか・・・。大人の世界は奥が深いよな・・・。俺みたい
に、ただ金が欲しくて我武者羅に働けばいいってもんで
もなさそうだし・・・。けど、俺でよかったら、またいつでも
愚痴聞いてやるぜ。」
ジェフ「(笑って。)・・・ああ・・・。」
その時、ジョーイを呼ぶ声が遠くから聞こえる。
声「ジョーイ!!」
そこへ上手よりローズ、走り登場。
ジョーイ、立ち上がってローズを認める。
ジョーイ「姉ちゃん!」
ローズ「ジョーイ!こんなところにいたの?遅いから心配したわ
。」
ジョーイ「(恥ずかしそうに。)いやだなぁ、姉ちゃん。俺もう餓鬼
じゃないんだぜ。お迎えだなんて・・・。」
ローズ「ごめんなさい。それよりお父さんが大きな声で、あなた
のこと捜してたのよ。」
ジョーイ「やばい・・・(ハッとして振り返る。)あ・・・兄ちゃん、俺
もう帰んないと、また父ちゃんにぶん殴られちまう。(笑う
。)」
ローズ「兄ちゃん・・・?」
ジョーイ「ああ!俺の命の恩人で、名前は・・・えっと・・・」
ジェフ「ジェフ・カート・・・。(立ち上がる。)」
ジョーイ「ジェフ兄ちゃん!悪い奴に追われてたとこを、助けて
もらったんだ!」
ローズ「まぁ!悪い奴って・・・?」
ジョーイ「ああ、大したことないよ。」
ローズ「そう?どうもジョーイがお世話になって、ありがとうござ
いました。(頭を下げる。)」
ジェフ「そんな大袈裟に礼を言われるようなことは、何もしてな
いから・・・。」
ジョーイ「それから兄ちゃん!こっちは俺ン家の隣に住んでる、
ローズ姉ちゃん。」
ジェフ「よろしく・・・。(微笑んで手を差し出す。)」
ローズ「(ジェフと握手して。)こんにちは・・・。(少し恥ずかしそ
うに。)」
ジョーイ「(2人の様子を代わる代わる見て、ニヤニヤと。)じゃ
あ俺、先に帰るから姉ちゃんはもう少し兄ちゃんと話して
来なよ!小母さんには俺から上手いこと言っといてやる
からさ!」
ローズ「ジョーイ!」
ジョーイ、手を上げて上手へ走りかけて、
振り返る。
ジョーイ「兄ちゃん!俺、表通りで何時も仕事してるから、今度
寄ってくれよ!」
ジョーイ、上手へ走り去る。
ローズ「ジョーイったら・・・。(ジェフに向かって。)すみません・・・
。あの子、屹度取り留めなくあなたにお話ししたんじゃあ
りませんか・・・?」
ジェフ「(楽しそうに。)ああ・・・。」
ローズ「ごめんなさい。(頭を下げる。)あの子、いつもああなん
です・・・。誰にでも直ぐ、親しげに話しかけて・・・。」
ジェフ「楽しかったよ・・・。」
ローズ「・・・え?」
ジェフ「さっきまで、つまらないことに落ち込んでいた自分が、馬
鹿馬鹿しく思える程、いい話しを俺にしてくれたよ・・・。」
ローズ「いい話し・・・?」
ジェフ「親父さんと2人暮らしなんだって?」
ローズ「ええ・・・。生まれた時からもうずっと・・・。きついお父さん
で、小さい頃からよく叱られてました・・・。今でこそ、お父
さんの方がジョーイを頼るようになってますけど、ジョーイ
に対する扱い方は昔のまま・・・。けど、とてもいい子で・・・
。」
ジェフ「ああ、そのようだね・・・。(微笑んで。)君は“サンタクロー
スの贈り物”を待っているんだって?」
ローズ「(驚いたようにジェフを見て、恥ずかしそうに下を向く。)
あの子ったら、そんなことまでお話ししたんですの・・・?
いい子なんだけど、お喋りなのが玉に傷ね・・・!」
ジェフ「自分がサンタならよかったのに・・・そう言ってたよ・・・。」
ローズ「(ジェフを見て。)・・・ジョーイが・・・そんなことを・・・」
ジェフ「ああ・・・。」
ジェフ、ローズに語り掛けるように歌う。
“人の夢を願える者は
心から思い優しく・・・
人の為を思える者は
広大な温かい心を・・・
満ち足りた思いに
溢れ返る程・・・
自分の願いは
常に回りのこと・・・
しようと思うのではなく
自然に振る舞うだけで・・・
いつもただ自分らしく
進むだけで・・・
それは常に気付かずとも
君のこと・・・
初めて知った
心の真実・・・”
フェード・アウト。(カーテン閉まる。)
――――― 第 2 場 ―――――
中央スポットにフレッド、浮かび上がる。
影の声「何をやってるんだ!!あれ程、殺害には細心の注意を
払えと言ってあっただろう!!」
フレッド「すみません・・・。しかし近いうちに必ず見つけ出してみ
せます!!だから・・・」
影の声「いいか・・・!!どんなことをしても見つけ出して、必ず
息の根を止めろ!!」
フレッド「いや・・・見られたのは子どもで、何も殺すことは・・・。少
し脅かしておけば・・・」
影の声「何を甘いことを言っているんだ!!子どもでも女でも、
我々の仕事を見られたからには殺るしかない!!いい
か、フレッド!!もし我々が身寄りのない人物を見つけ
出し、そいつの偽物の家族を作りあげ、多額の保険に
加入させたうえで、そいつを殺害し、保険を我々のもの
にしていることがばれるようなことがあれば、我々は皆
終わりだ!!余計な情けをかけて、何かあった時に泣
くことになるのは我々なのだ!!」
フレッド「(ゆっくり頷く。)・・・その通りです・・・」
影の声「分かったのなら、さっさと見つけ出し、早いとこ殺ってし
まえ!!」
フレッド「・・・はい・・・!!(目つき鋭く、彼方を見遣る。)」
音楽でフェード・イン。
フレッド、深い溜め息を吐いて、上手へ行き
かける。と、上手よりジェフ、追いかけるように
その同僚スザンヌ登場。
スザンヌ「待ってよ、ジェフ!!待ってったら・・・!!」
ジェフ「(歩きながら振り返って。)悪いけど、今夜忙しいんだ。(
フレッドを認める。)よぉ、フレッド!どうしたんだ?顔色良
くないぜ。」
フレッド「ジェフ・・・。いや、何でもないさ・・・。」
スザンヌ「ねぇ、お願いジェフ!!学生時代の友達が皆、彼氏
を連れて来るのよ!!私も学歴よし、容姿抜群の社
内きっての有能戦士の彼氏がいるから、連れてくるっ
て言っちゃったのよ!!」
ジェフ「(スザンヌの話しは無視するように。)BJブライスカンパ
ニーとの契約はどうだった?」
フレッド「ああ・・・まだいい返事はもらえなくてさ・・・。」
スザンヌ「ジェフ!!」
ジェフ「一度、一緒に行こうか?」
フレッド「いや、いいよ。どんどん大会社との契約を取り付けて来
るおまえと違って、初めて俺だけに任された、大手会社
の大口契約なんだ。一人で何とかしたいんだ。」
ジェフ「そう・・・だな。頑張れよ!(フレッドの肩を叩く。)」
フレッド「ああ・・・。そっちこそ、何揉めてたんだ?(チラッとスザ
ンヌを見る。)」
スザンヌ「今夜、一年振りに学生時代の友達と会うことになって
るのよ!!しかも皆、彼氏つきで!!」
ジェフ「今夜は大事な接待があって、どうしても抜けられないん
だ。そう言うことは、他の奴に頼んでくれないかな・・・。」
スザンヌ「駄目よ、他の人なんて!!友達の彼氏より、一番素
敵な人を連れて行かなくちゃ意味ないわ!!」
フレッド「それで、ジェフに頼んでるって訳か・・・。」
スザンヌ「そう言うこと!!フレッドからも頼んで頂戴!!」
フレッド「だけどスザンヌ、もし仮にジェフと君が本当に付き合っ
てたとしても、仕事をほったらかしてまで、君に付き合う
ことはできないと思うけどね。」
スザンヌ「でも!!」
フレッド「君は本当にジェフのことが好きなんだろ?だとしたら、
無理を言って、ジェフを困らせることは厳禁じゃないかな
。」
ジェフ「悪いけど、本当に今夜は駄目なんだ。暇な時なら、幾ら
でも付き合ってやるから・・・。」
フレッド「ジェフ!」
スザンヌ「(少し考えて。)・・・分かった・・・。じゃあ今夜は一人で
行く!でも今度は絶対、付き合ってよね!!」
ジェフ「ああ・・・。」
スザンヌ「そうと決まれば、早く帰って仕度しなくちゃ!!私、早
退するわ!!今夜、次の集まりのこと決めて来るから
ね!!じゃあ!!」
スザンヌ、2人に手を上げて、上手へ
走り去る。
――――― “ジェフ・カート”2へつづく ―――――
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