「身の丈」経営,「身の程」人生

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故菅原文太さん夫人の文子さん語る 「松方弘樹さんに宿る哀愁と文太さんの最晩年」

2017-07-19 16:49:48 | 「身の程」人生

  
本の窓 2017年 08 月号 [雑誌
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 小学館刊

 100円で読める小学館のPR誌『月刊 本の窓』に,故菅原文太さんの夫人,菅原文子さんが「朝(あした)の紅顔 夕(ゆうべ)の白骨」と題するエッセイを連載執筆されています。その筆さばきは,簡潔,明快で見事です。最新号の8月号では,先日なくなった松方弘樹さんを偲ぶとともに,菅原文太さんの最晩年の姿を,読む人の心の琴線に触れる名文で綴っています。

 「朝(あした)の紅顔 夕(ゆうべ)の白骨」  菅原文子
                               出典:  『本の窓』 8月号 3ページ ・小学館発行

松方さんの眼差しの奥に、哀しみが宿っているように思われた。優れた俳優は、オン、オフにかかわらず笑顔の明るさの裏に必ず衷しみを秘めている。.....

 夫のお別れ会に来て下さった松方弘樹さん、石垣島で大マグロを釣り上げた元気な姿をテレビ番組で見た印象も消えないうちに、お別れ会の祭壇上にお写真を見ることになるとは---。明るい海辺の陽光をいつも周囲に振りまき、弱音を吐かず、言い訳もしない潔い生き方を通された松方さんは、芸能界の中に親しくする友人の少なかった夫にとっては、気持ちの通じるお一人だった。松方さんの奔放で豪放森落な一面が語られているが、夫の口からは、真剣に仕事に取り組む姿や人柄の温かさを聞いた。私には松方さんの眼差しの奥に、哀しみが宿っているように思われた。優れた俳優は、オン、オフにかかわらず笑顔の明るさの裏に必ず衷しみを秘めている。生きてきた軌跡の苦渋や悔恨が衷しみの琥珀(こはく)を作るのか、天与の感性が生み出すのかは分からない。辿って来た実人生の苦渋に復讐するように、時に満たされなかった思いを取り返すように演じる熱情、そして骨肉に刻んだ陰影が内面から放射する時、映像の中で人物は生きで動き出す。

その人にとって本当に大切なことを、人は決して語らない。....

 夫は最晩年になって俳優であることをやめたが、表面的に語っていた理由とは違う、もっと根源的な理由があったのだろうと思う。それが何か、彼は言葉にしたことは無いが、依頼された仕事を私が勧めでも、ひと言「やらないよ」と言い、その目は深いものを語っていた。強いて言えば哀しいものがあった。なぜ俳優をやめるのかと理由をあらためで聞いたことは一度も無い。身体を人前に晒す仕事が、傍が思うより過酷なことを察するだけだ。その人にとって本当に大切なことを、人は決して語らない。語り得ない。語らなくて良いのだ。それを言葉に出すほど人は強くはない。語らないままに別れた人の方がいつまでも心に残り、死んで後、別れて後、その謎を解く旅が続く。人生の旅の半分は、心が辿る旅だ。

 

本の窓 2017年 07 月号 [雑誌]
 
小学館

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