東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で、贈賄罪に問われたAOKIホールディングスの青木拡憲前会長。起訴状によると、AOKIは、有利な取り計らいを受けるべく元理事に請託し、三十数回にわたり、計2800万円を渡したとされる。報道によると、青木元会長は、五輪汚職疑惑について「私が主導した」と語っている。また、2022年12月22日の初公判では、創業者主導で行われた元理事との生々しいやりとりが、公にされた。
戦後、家業の質屋が行き詰まり、質流れ品を担いで行商したのが原点。1958年に長野市で「洋服の青木」を創業し、91年に東証1部(現プライム)に上場と、一代で服飾関連約600店舗を構える業界大手に築きあげた。「社会性」「公共性」「公益性」追求を経営理念に掲げ、それへの挑戦を目標とするする、と語っていた。
青木元会長は、自著『何があっても、だから良かった』(2013年 PHP研究所発行p26~p27)で、経営理念をまとめ上げた経緯と、その意味するところを次のように述べている。
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┃★┃ 青木元会長語る -「生きる理念」を確立する-
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「理念」とは、基本的な価値観・精神・信念あるいは行動基準といった根本的な考え方のことです。この理念を、個人でも企業でも確立します。日々の中で迷いが生じたときの判断基準となり、原点を確認することができます。
理念を確立すると、企業においては、どんな大きな組織となっても、そこに働く全員が同じ判断基準を持つことができ、進むべき方向性を確認し正しく決断することができます。 (中略)
思えば、一九六五年、長野県の篠ノ井駅前に第二号店を開店した夜、父の仏壇の前で誓った言葉は「社会貢献」。そしてできた骨格が、「ビジネスでも、ビジネス以外でも、納税義務を大きく果たすことでも、社会に貢献しよう」というものだった。
この骨格をもとに、「社会性の追求」 「公益性の追求」 「公共性の追求」という経営理念が完成する。(中略)これから公の企業として成長していくためにも、経営理念の確立が大切だ。生きている限り、この理念をいつまでも追求しよう。判断のものさしにしよう。(以下略)
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┃★┃ 経営の神様 稲盛和夫氏が説く -経営理念の実践-
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2022年12月22日の初公判では、創業者主導で行われた元五輪理事との生々しいやりとりが、公にされた。「社会性の追求」は、絵に描いた餅に過ぎなかったのであろうか。名経営者青木氏程の人が、自らが掲げた経営理念を、ないがしろにしたとは、思いたくない。
「経営の神様」といわれた稲盛和夫氏は、経営理念について、次のように説いている。
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┗■ 稲盛和夫氏は説く -経営理念や経営哲学を従業員と共有するためには-
経営理念や経営哲学を従業員と共有するためには、トップの言動、行動が、理念と矛盾しないことが何よりも大事です。りっぱな理念がありながら、利益至上主義に陥り、不祥事を起こす企業が後を絶たないのは、トップが矛盾した言動、行動をとっているからにほかなりません。
経営理念や経営哲学は、その企業の風土や文化をつくり出します。その理念にもとづいて働くことが、会社にとっても、従業員の人生にとってもすばらしいことだという、そのような企業文化をつくることができれば、会社は飛躍的に伸びていくことができるのです。
出典:『人を生かす』稲盛和夫著 2008年 日本経済新聞出版社刊
一代で京セラを築きあげた稲盛氏のこのような考え方、経営姿勢を、AOKIの青木元会長は、ご存じだったのだろうか・・・。
(続 く)