訴状によると、角川さんは五輪組織委員会元理事への贈賄容疑で2022年9月14日に東京地検特捜部によって逮捕され、その後、起訴された。一貫して否認を続ける中で、保釈を再三求めたが、検察は保釈に反対し、裁判所も「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」として却下し続けたという。
高齢で不整脈などの持病もある角川さんは、拘置所で新型コロナに感染するなど体調を崩し、主治医から「最悪の場合、死に至る可能性もある」と指摘されたが、拘置所では適切な治療を受けられず、命の危険があったと主張している。
拘置所の医師からは「あなたは生きている間はここから出られませんよ。死なないと出られないんです」と言われたという。
角川さん側は、裁判所は罪証隠滅の「明らかな差し迫った危険」や健康上の重大な危険がなければ、身体拘束を認めるべきではないと主張する。さらに、捜査機関も人質司法を積極的に利用して冤罪を生み出していると指摘している。
弁護団で、団長をつとめる元裁判官の村山浩昭弁護士は「角川さんは人身の自由を中核とした自由が奪われ、死の淵に立たされるところまで追い込まれました。自身の尊厳が侵されている。そのような刑事司法で良いのかと考えて訴えた」と話した。
今回の訴訟の目的は、国際的な批判を浴びる人質司法をつぶさに論証し、その制度改革、運用改善を求めることにあるという。慰謝料として2億円を請求しているが、認容された場合は拘置所医療改善のために寄付するとしている。
●角川さん「大都市のなかに別世界があった」
角川さんは「自分は拷問を受けたのだと感じた」と振り返った。
「東京の大都市の中で東京拘置所というまったく隔離された別世界があることを身をもって体験しました」
「警察の留置所や東京拘置所に入られた人はすべて同じ経験をしているはず」
「226日の中で涙を流すこともあった」
多くの人が屈辱的な身体拘束の屈辱的な体験をしているだろうとしながら、これは「人ごとではなく、リスクは大きいということを共有していただきたい」と訴えかけた。
同じく人質司法の被害でクローズアップされた「大川原化工機事件」では、逮捕された相嶋静夫さんが勾留中に病死した。
「胸が張り裂けそうです。相嶋さんは私と同じ場所にいて同じ経験をして亡くなった。死地を脱した私にはみなさんにお話しする義務があると思います。日本を変えたいと思っています」
冤罪事件の当事者で、大阪地検特捜部に業務上横領事件で逮捕・起訴され、無罪が確定した「プレサンスコーポレーション」(大阪市)の山岸忍元社長も裁判に賛同し、「角川さん裁判頑張ってください」とエールを送った。自身の長期拘留を踏まえて「検察は人質司法の制度を思い切り悪用します」と指摘した。
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警察、検察、裁判所の「やりたい放題」ww
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不正輸出えん罪事件“勾留中の生命や人権保護を” 民事裁判2審
不正輸出の疑いで逮捕され無実が明らかになる前にがんで亡くなった化学機械メーカーの元顧問の遺族が、拘置所で適切な検査や治療を受けられなかったとして、国に賠償を求めている裁判の2審が始まり、遺族は「勾留中の人に対する生命や人権の保護について改めて考え直してほしい」と訴えました。
横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の顧問だった相嶋静夫さんは、4年前、軍事転用が可能な機械を不正に輸出した疑いで、社長など2人とともに逮捕、起訴されました。
拘置所での勾留中に見つかったがんで亡くなり、その後、無実が明らかになりました。
遺族は、拘置所で適切な検査や治療を受けられなかったとして、国に賠償を求める訴えを起こしましたが、1審の東京地方裁判所が退けたため、控訴していました。
8日に東京高等裁判所で始まった2審で、原告の相嶋さんの長男は「一般的な水準の医療を受けることができなかった。無実の市民が逮捕、勾留された事実を直視し、勾留中の人に対する生命や人権の保護について改めて考え直してほしい」と訴えました。
一方、国は「拘置所の医師の治療や転院に関する調整、説明に不適切な点はなかった」などと主張しました。
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では、この国の刑事司法に満ち満ちた矛盾や不正義とは具体的に何か。
挙げはじめればキリはないのだが、さして詳しい注釈も加えずにざっと列挙すれば――
①警察に身柄を拘束されるとその警察管理下の留置施設に放り込まれてしまう「代用監獄」、
②相変わらず自白偏重の姿勢から脱却できない警察、検察と、密室の中で延々と長時間続けられる苛烈な取り調べ、
③被疑事実を否認すれば、起訴後も保釈がなかなか認められず、信じがたいほどの長期勾留が続いてしまう「人質司法」、
④警察や検察が捜査の過程で収集した証拠類を独占し、仮に被疑者・被告人に有利な証拠類があっても隠されてしまう陋習、そして
⑤各種令状の発付や身柄勾留等の判断を含め、ひたすら検察の言い分に唯々諾々と追随してしまいがちな司法権の砦=裁判所――。
さらにつけ加えるなら、世界的には廃止が圧倒的な潮流となっている死刑制度にいまだ固執し、しかもその運用状況がおそろしく秘密主義的なこと等々もあわせ、いわゆる先進民主主義国の刑事司法ではおよそ考えられないほど後進的な悪弊がいくつも温存されてしまっている。
そして本来なら、ここで悪弊の悪弊たる所以をもう少し噛み砕き、わかりやすく解説するべきなのだろうが、その必要を私はいままったく感じない。本作にその大半が盛り込まれ、凝縮して描き尽くされているからである。この点で本作は、悪弊の温存を主導してきた警察や検察といった捜査機関を――同時にそれは強大な国家権力でもあるのだが――平然とヒロイックに描きがちな、まさに凡百のエンターテインメント小説とは明らかな一線を画している。
折しも静岡地裁では袴田事件の再審公判が過日結審し、実に戦後5件目にもなる死刑確定事件での雪冤が果たされるのは確実な状況になっている。鹿児島では、自らの組織の不正をメディアに公益通報した前幹部を口封じで逮捕したとしか思えない警察組織の暴走が現在進行形で引き起こされている。大阪では、地検トップの座に君臨していた元検事正が在職中の準強制性交容疑で逮捕された。だというのに肝心の政治は反応らしい反応を示さず、悪弊の改善に取り組もうという気配さえ皆無に近い。
それでも――。本作の中に印象深い台詞がある。志と熱意に溢れた主人公の新人弁護士を励まし、強力にサポートする〈日本でも指折りの刑事弁護士〉が、被疑者として捕えられて無実を訴える〈増山〉に向けて発した次のような台詞である。
「増山さんは間違った制度の犠牲者なんです。われわれ弁護士はこの日本の刑事司法のシステムそのものと闘って変えていかなくてはならないし、現に闘い続けています。ですが――制度が正されるまで事件は待ってくれません。この間違った現状の中で歯を食い縛り、依頼人のためにベストを尽くすしかないというのも日々の現実です」
たしかにそんな弁護士が――おそろしく数は少ないけれど、現実に存在していることを私は知っている。と同時に、この国の刑事司法システムそのものに改善すべき課題が満ち満ちていて、「変えていかなくてはならない」のが焦眉の課題であることも。
ならば本作は、もとよりフィクションではあるけれど、これも凡百の専門書やノンフィクションよりもはるかに深く現実=事実の核心を突いた1冊として読んでも構わない。いや、多くの人に読まれて現実の課題が課題として広く共有されることを心から願っている。
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刑事事件の取り調べで黙秘したところ、検察官から「ガキだよねあなたって」などと侮辱的な言葉を投げかけられたとして、元弁護士の江口大和さんが国に1100万円の損賠賠償を求めた訴訟で、東京地裁は7月18日、違法な取り調べがあったと認め、110万円の賠償を命じる判決を言い渡した。
憲法で保障される「黙秘権」を侵害したとして、捜査機関の取り調べのあり方を問う裁判。
江口さんは「判決では、黙秘権の行使を馬鹿にする発言や何とかして供述を得ようとする発言。これらについて、許されないと判断されました。良かったと思います」と評価する一方で、「説得と称して、56時間に渡り取り調べを継続したことについては違法ではないと判断されました。このことには納得できません」として控訴する考えを示した。
原告の江口大和さんは2018年、犯人隠避教唆の疑いで横浜地検特別刑事部に逮捕された。直後から一貫して無罪を主張したものの、有罪判決が確定し、弁護士資格を失った。
訴状などによると、黙秘した江口さんに対して、取り調べを担当した川村政史検察官からは「社会性がやっぱりちょっと欠けてるんだよね」「もともと嘘つきやすい体質なんだから」「詐欺師的な類型に片足突っ込んでると思うな」などの発言があったという。
原告側は、計21日、計56時間にも及んだ取り調べも、供述の強要にあたり、違法だと主張していた。
裁判では、上記のような発言を含んだ取り調べの録音録画映像が上映された。さらに弁護団は取り調べ映像をYouTubeにもアップした。
憲法38条1項は「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と黙秘権を規定している。弁護団は、黙秘権が保障されるためには、そもそも取り調べを拒否できるべきとの考えを主張した。
弁護団によると、今回の判決では、取り調べで黙秘した江口さんに投げかけられた検察官の発言が人格権侵害と認められた。一方、黙秘していた江口さんに56時間にわたって取り調べを継続したことは違法ではないと判断された。
弁護団の趙誠峰弁護士は「今日の判決は非常に評価が難しい。物足りない判決だとは思いますが、一方で、黙秘権保障に向けた第一歩と見ることもできるかなと思います」と捉える。
「今日の判決では、黙秘権について、自己の意思に反する供述をしないことだというふうに判断しました」(趙弁護士)
趙弁護士は、実際の取り調べの現場では、黙秘権を行使しようとする被疑者・被告人に、取り調べの担当者が趣味の話などを振って、なんとか供述を得ようとすることが日常的におこなわれているとしたうえで「判決がそれも黙秘権の趣旨に反するんだと判断したことはプラスに評価できると捉えました」と述べた。
「黙秘をする人に、捜査官があの手この手で事件と関係ない話やその人のプライドを傷つけたり、家族との間をさこうとしたり、ことさら不安にさせたりして、相手に反論させようとすることは今まさに全国の取り調べでおこなわれている。黙秘しようとした人に反論させようとしたことも黙秘権の保障の趣旨に反すると判断した点は非常に評価できるのではないか」(趙弁護士)
一方で、黙秘の意思を表明しているのに、取り調べが56時間も続けられたことは違法と判断されなかった。
宮村啓太弁護士は「黙秘権が保障する権利主体である被疑者の黙秘権行使の意思は尊重されなければならない」と指摘した。
今回の裁判で特徴的だったのは、取り調べの様子が法廷で上映されたことだった。
弁護団の髙野傑弁護士は「録音録画制度は、違法な取り調べの問題を検証するための制度。今後も同じような事態になったときに、国賠訴訟の中で録音録画が頻繁に使われるんじゃないか」と話す。
裁判では、取り調べにおける検察官の発言がいくつも事実認定された。
「今までは、警察、検察の発言を違法だとすると、まずはそもそもそんな発言がされたのかというところから問題になっていた。今回そうではなかったのは、法廷でも映像が再生された効果に間違いないと思います」(髙野傑弁護士)
しかし、そうした録音録画の映像が裁判の中で証拠として採用されるには、長い時間が費やされ、煩雑な手続きが求められるとして、時間短縮や手続きの簡略化が必要だと訴えた。
今回、YouTubeで公開された映像は、取り調べの様子を可視化するものとしてだけでなく、その取り調べのひどさも伝えて、大きな反響を呼んだ。
趙弁護士は「あらゆる事件において取り調べを録音録画するべき」としつつも、国側が裁判の中で「多少声を荒げたかもしれないが適法だ」と主張したことを踏まえて、「カメラがあるから違法な取り調べがなくなるかというとそうではない」とし、取り調べを受けたくないという意向を示した場合には尊重されなければならいとの考えを強調した。
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手口3:供述調書は検事が作文する
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特捜事件における供述調書は、基本的にはすべて検察官の作文だと言える。何も材料がないと作文できないので、会話やできごとなどについて被疑者や参考人からいろいろと話を聞き、使えそうなフレーズなどをピックアップしておき、それらを使う。こうして、「具体性・迫真性・臨場感のある調書」が出来上がる。
その一例として、村木さんの上司だった塩田幸雄氏の供述調書を取り上げてみたい。塩田氏は、偽の証明書の発行に自分と村木さんとが関与したことを認める調書を、特捜部の林谷浩二検事から何通も取られてサインをしたが、証人尋問ではことごとく否定した。
なお、裁判の証拠書類については「目的外使用の禁止」というルール(刑事訴訟法第二八一条の四、同五)があり、検察官から開示してもらった供述調書を弁護人や被告人(またはそうであった者)が裁判以外の目的で使うことはできない。次に挙げる塩田調書は、魚住昭氏の著書『冤罪法廷 特捜検察の落日』(講談社)からの引用である。
まことしやかな塩田調書
「石井議員からの要請は(04年)2月25日午前、私が国会で政府委員としての初答弁を行ったあと、その当日、またはその前後の1日か2日の間にありました。石井議員は私の国会答弁を知っていて、『塩田部長、お久しぶりですねぇ。部長としての初答弁だそうで大変やなあ』というように切り出されました。
このころには、厚労省障害保健福祉部は、いわゆる障害者自立支援法を迅速、かつ、円滑に成立させて、障害者福祉行政の円滑化を図らなければならないという最重要、かつ緊急の課題を抱えていました。障害者自立支援法を円滑に成立させるためには石井一議員の機嫌を損ねたくないと思い、凛の会への公的証明書の発行を引き受けました。
私は村木課長に『この案件は、丁寧に対応して、先生の御機嫌を損ねない形で、公的証明書を発行してあげる方向で、うまく処理してくれ。難しい案件だと思うけど、よろしく頼むわ。こういうことをうまく処理するのも、官僚の大切な手腕のひとつなんだよね』と言いました。
2月下旬ごろ、倉沢会長が村木課長を訪ね、村木課長に案内された倉沢会長が障害保健福祉部長室にきました。私は失礼のないよう部屋の出入り口まで移動して挨拶しました。
その後、6月上旬ごろに村木課長から『石井代議士から話のあった公的証明書のことなのですが、担当者のほうでいろいろ苦労をしてくれて証明書を出すことになりましたので、ご報告しておきます。秘書の倉沢さん〔筆者注:倉沢氏はかつて石井議員の私設秘書を務めたことがあった〕には私から連絡しておきますので、石井代議士のほうは部長からご連絡をお願いします』という報告を受け、『そうか、よかったね。これがバツだったら大変なことだよねぇ。石井代議士には僕から伝えておくから』と村木課長をねぎらいました。すると村木課長は『本当にそうですね。なんとか、うまく処理することができました』などと答えました」魚住昭『冤罪法廷 特捜検察の落日』(講談社)より
このように、塩田調書には、実際にはまったくなかったことが、一言一句、まことしやかに書かれていた。厚労省内での村木さんとの会話などは、じつにリアルである。
特捜検察が「迫真性・具体性・臨場感のある供述調書」を作るのは、自分たちが描いた事件のストーリーをいかにも現実にあったように仕立てて、裁判官を説得したいからだ。表に挙げた検察側冒頭陳述のアミ掛け部分も同様で、調書から引っ張ってきた「存在しなかったフレーズ」を、検察官は裁判官の面前で滔々(とうとう)と述べていた。
証人尋問で明らかになった上村調書の作文の実態
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上村勉氏の証人尋問では、彼が検察に取られた供述調書のデタラメぶりが明るみにでて、傍聴人や法廷に詰め掛けていた記者たちを唖然とさせた。
その詳細を記す前に、村木事件の背景について説明しておこう。
村木事件の発端となった郵便法違反事件で、「凛の会」が悪用した障害者郵便割引制度は、正式には「心身障害者用低料第三種郵便物制度」という(以下、低料第三種と記す)。事件当時、低料第三種の適用を受ければ、1通120円かかる封書の郵便物がわずか8円で発送できるなど、通常の第三種郵便より格段に安く郵便物を発送することができた。
低料第三種の適用を受けるためには、正規の障害者団体であることを認める厚労省発行の証明書が必要だった。障害者団体としての実体がない「凛の会」は、偽の証明書を上村氏に作らせ、心身障害者向けの新聞(定期刊行物)を装って、さまざまな企業のダイレクトメールを大量発送し、正規の郵便料金との差額を免れることで荒稼ぎしていた。
偽証明書プロジェクトの仕上げのころの状況について、特捜部が作り上げたストーリー(すなわち検察側冒頭陳述)は、以下のようなものであった。
「凛の会」は、まず、通常の第三種郵便物承認請求書を日本郵政公社(現・JP日本郵便)に提出し、厚労省から公的証明書が近々発行される予定だと伝えた。しかし、その後も公的証明書の提出がなかったため、日本郵政公社は、「凛の会」に対して、通常の第三種郵便の適用しか認めず、低料第三種を取得したければ、その申請に必要な公的証明書を至急提出するよう求めた。この要請に慌てた「凛の会」の河野氏は、2004(平成16)年6月上旬頃、上村氏に電話をし、公的証明書の発行をせっついた──特捜部のストーリーはこのようなものだった。
このテーマについて、検察官は上村氏の証人尋問において、2009年6月7日付の上村氏の供述調書を示して質問した。以下、〔 〕内は筆者が付した補足である。
「〔あなたの〕供述調書には、平成16年6月上旬ころに、河野さんから公的証明書の発行を催促されて、その際に、郵政〔公社〕から三種〔第三種郵便〕の認可が下りるなどしたので、5月中の日付で証明書を欲しいんだと迫られたと書いてあるんですが、これはあなたの記憶とは違うんですか」
と検察官は問うた。
これに対して、上村氏は、
「そういう話は國井検事のほうからもたらされました。私はそういう、凛の会側のほうで、期限が迫ってるとか、そういう事情は知りませんでした」
と答えた。
検察官が示した調書の該当部分には、
「河野さんは/もう郵政から第三種の承認が下りてしまいました/それに、新聞の広告主も決まっていて、すぐに障害三種〔低料第三種のこと〕の認可を取らないと、大赤字になってしまいます/大急ぎで、証明書をください/ただ、郵政との関係もあるので、日付は5月中にしてください/などと言って」
との記載がある。実際には上村氏が知らない事情でも、このように具体的で詳細な言辞が調書に記載されたのである。
検察官は、続けて、「この供述調書では、更にその後、村木さんからあなたに内線電話があって、やはり、5月中の日付で公的証明書を作って持ってくるようにというふうに言われたと書いてあるんですが、──中略──これはあなたの記憶とは違うんですか」
と問うた。
上村氏は、
「違います」
と、きっぱりと答えた。
検察官が示した調書の該当部分には、
「平成16年6月上旬ころ、村木さんが、自ら、内線を使って、私に電話をかけてきました。/その電話で、村木さんは/『凛の会』のことで面倒なことをお願いしちゃって、ごめんなさいね/などと言って、優しい口調で、悩んでいた私を気遣ってくれ、さらに/5月中の日付で、証明書を作ってくれていいから/証明書ができたら、私のところに持ってきてください/などと──中略──指示してきました」
との記載がある。実際にはこのようなやりとりがいっさいなかったことが裁判で明らかになったが、およそ存在しないことでも、「優しい口調で」「悩んでいた私を気遣って」というもっともらしい言葉まで並べて、調書が作られたのである。
さらに検察官が上村氏に対して、
「それに対して、あなたが資料の提出がないとか、実体が疑わしいという、問題があると言ったところ、村木さんが、決裁なんかいいんで、すぐに証明書を作ってくださいと指示をしてきたと書いてあるんですが、これもあなたの記憶とは違うんですか」
と訊いたところ、上村氏は、はっきりと
「違います」
と答えた。
検察官が示した調書の該当部分には、「凛の会」から公的証明書の発行に必要な資料(同会の規約や会員名簿など)が提出されていないことを不審に思った上村氏が、
「障害者団体としての実体があるか疑わしい。それでも公的証明書を発行していいのですか」と村木さんに確認したところ、村木さんは、「石井一先生からお願いされていることだし、塩田部長から下りてきた話でもあるから、決裁なんかいいんで、すぐに証明書を作ってください/上村さんは、心配しなくていいから」
などと言ったと、記載されている。
事実とかけ離れたことを、このように真に迫ったセリフまで入れて調書に仕立て上げる検察官の「作文能力の高さ」には驚かされる。
上村氏は、自身の供述調書について、
「村木課長と私のやり取りが生々しく再現されていますけれども、それは全部でっち上げです」
と、証言時に法廷で断言した。傍聴人や記者たちが唖然としたのも当然である。
しかし、多くの人は、特捜事件の供述調書がこのようにして作り上げられたものだとは考えもしないから、調書の内容をそのまま信じてしまう可能性がある。これは、村木事件に限らず、特捜事件全般について言えることである。
「可能性」を「断定」にすり替える
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検察官が供述調書を作文するテクニックの一つに、可能性があることを認めさせたうえで、それを調書では断定的表現にすり替えたうえに無理やりサインさせる、ということがある。たとえば、厚労省職員の田村一氏は、取り調べの際に供述した「可能性」を、調書で「断定」にすり替えられている。
検察側冒頭陳述では、2004年2月下旬頃、村木さんは、厚労省を訪れた倉沢氏に、社会参加推進室長補佐の田村氏と同室社会参加係長の村松義弘氏(上村氏の前任者)を紹介したことになっていた。田村氏は、取り調べの際、高橋和男副検事(※「高」は正式には「はしごだか」。以下、同)から、「村松さんは事実だと認めている」と聞かされていた。そのときのことについて田村氏は、証人尋問で次のように述べた。
「村松さんの話として、確かにその場面に私がいたということを〔高橋副検事から〕聞かされましたので、私としては記憶がありませんでしたが、否定する記憶もございませんでしたので、そういう可能性はないわけではないと思い、可能性としてはあるのではないでしょうかというふうにお話ししました」
「ところが、調書では、その場面に私がいたことが明確な記憶としてあるという表現にされたので、可能性があるというふうに記載してもらいたいと要望したところ、検察官から、『それはできない』と、びしっと言われ、迷いましたけれど、最後は署名押印をした」
と。
役所には、さまざまの人が種々の用件で訪れる。五年も前に、ある障害者団体の人と会ったことがあったのではないかと問われれば、会った記憶がなくても、その可能性は100%ないとまでは言い切れない。
そこに検察官はつけ込んで、まず、「可能性の存在」を認めさせる。そのうえで、調書上の記載は明確な記憶のようにすり替えて、無理やりサインさせるのである。
検察のほうでは、初めから「こういう調書を取る」という目的がはっきりしているので、曖昧なことを曖昧なまま調書にしても意味がない。曖昧だろうが、相手が「可能性はあるかもしれない」と言ったら、それを断定的なこととして書く。「その程度のことは調書だからしょうがないんだ」と、居直るわけだ。
あり得ないことが調書に書かれているのなら、誰でも抵抗するだろうが、「そういうこともあったかもしれない」と思わされていることを「そうだった」と書かれると、「でたらめだ!」とまでは言えず、検察官に威圧されて、最後は「しょうがないか」と諦めて、調書にサインしてしまうのである。
検察官の取り調べを受ける場合の「対抗策」
対抗策は、検察に呼ばれた時点で弁護士に相談することだ。単なる参考人の場合に費用を負担してまで弁護士に相談するかどうかは、人それぞれの考え方にもよるが、慎重な人はそうするかもしれない。検察の取り調べを受けるというのは、それほど大変なことなのである。
検察の捜査は、まずガサ(捜索差し押さえ)が入る。被疑者に限らず関係者のところに行き、パソコン、携帯電話、手帳、手紙、日記などを押収したうえで中身を調べ、客観的証拠とも矛盾しないストーリーとして事件化できるかを考えるのである。
逮捕されれば、自宅や仕事先などに家宅捜索が入り、あらゆる資料が押収される。参考人の携帯電話を取り上げるのは令状を取らない限り無理だが、被疑者の場合は逮捕時には携帯電話も含めて全部持っていかれてしまうので、事件当時の記憶を時系列でたどれなくなる。しかし、逮捕前にコピーを取って弁護士に渡しておくことには何の問題もない。
逮捕前の村木さんから相談を受けた私は、「そういうものは全部コピーして渡してください」と話した。参考人の場合でも、弁護士は同様のアドバイスをするはずである。
関連記事<その後、まさかの「即逮捕」…メディアの前で無実を主張した「KADOKAWA元会長」が、翌日「検事」から呼び出されて言われた「ヤバすぎる言葉」>もぜひご覧ください。
*本記事抜粋元の弘中惇一郎『特捜検察の正体』では、検察がもっとも恐れる無罪請負人が、「特捜検察の危険な手口20」を詳細に解説している。
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東京地検特捜部の検事による違法な取り調べで精神的苦痛を受けたとして、特捜部に逮捕・起訴された男性社長が24日、国に1100万円の賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。男性側は、自白を得ようとした検事から「なめたらあかんわ」などと繰り返され、人格権を侵害されたとしており、代理人弁護士は「拷問に該当する」としている。
【写真で見る】社会に衝撃を与えた事件
訴えたのは、太陽光発電関連会社「テクノシステム」(東京都)社長の生田尚之被告(50)。金融機関から融資金をだまし取ったとして2021年5月に特捜部に逮捕され、詐欺罪と会社法違反で起訴された。公判は始まっておらず、現在も勾留されている。
訴状によると、生田被告は逮捕直後から容疑を一貫して否認。特捜部検事から41日間連続で計205時間の取り調べを受けた。
生田被告は黙秘したが、検事は「普通の刑事事件でも99%有罪や。今回この事件なんて、ま、100やわ」「ここで黙秘をするのはどMや」と発言。弁護人は検察側に苦情を申し入れたが、検事は「なめたらあかんわ、こちらを」「検察庁を敵視するってことは、反社(反社会的勢力)や、完全に」と脅すような言動を続けたという。
さらに検事は「大したもんや。悪党ぶりが」「子どもでも、そんなことせんぞ。たちの悪いやくざの組長ぐらいやで」と侮辱的な言動を繰り返したほか、「自分がここにいる理由がないのにと思うのか。理由があるやろが、おらあ」と大声で怒鳴りつけたこともあったとしている。
逮捕後の取り調べは全過程が録音・録画されていた。初公判に向け、争点を絞り込む公判前整理手続きで、こうした映像が生田被告側に開示された。生田被告側は国賠訴訟で映像を証拠請求する方針。
代理人の河津博史弁護士は、捜査段階で計7回の苦情を検察側に申し入れたにもかかわらず改善されなかったと明かし、「検事個人だけでなく、組織の緊張感の低下が背景にある。不当な取り調べを組織として把握した場合は、(検事に)制裁が科される仕組みが必要だ」と指摘した。
検察の独自捜査を巡っては、横浜地検の検事が容疑者に「ガキ」などと繰り返し、東京地裁は18日、取り調べの違法性が争われた国賠訴訟で「社会通念の範囲を超えていた」として国に110万円を支払うよう命じている。
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袴田巌さん(88)が、死刑囚の立場から半世紀ぶりに解放される。無罪とした静岡地裁の再審判決に対し、検察当局は「強い不満」を表明しつつ、控訴しないと発表した。数々の問題が指摘された捜査や裁判は、どこまで検証されるのか。
8日午後5時すぎ、検察トップの畝本直美・検事総長が出した異例の談話。結論は「控訴しない」としつつ、文面の多くを占めたのは静岡地裁の無罪判決に対する批判だった。
なかでも「具体的な証拠や根拠が示されていない」と強い不満をあらわにしたのは、判決が認定した「捜査機関による証拠捏造(ねつぞう)」だ。
昨年3月の東京高裁による再審開始決定でも、可能性を指摘された捏造。再審無罪の判決が出る前、ある検察幹部は有罪判決への期待をのぞかせながら「もし無罪になり、再び捏造を指摘されたら控訴するべきだと意見する」と言い切った。
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