働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

移民政策ではなく「還流移民」政策?

2018年11月12日 | 入管法改正案
法務省に2018年8月31日に新設された外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策検討会の構成員(有識者)の岡部みどり・上智大学法学部教授は、「『骨太の方針』:外国人労働者受け入れ拡大を『成功』に導くために」(nippon.com、2018年9月26日)という文章の中で、「『移民政策であるか否か』ということが焦点の1つになっているようだが、そのような問題提起はナンセンスとまでは言えないにせよ、もはや時代遅れである」と述べています。

岡部みどり・上智大学法学部教授の文章を読み進めると、今回の安倍政権の「外国人材の受入れ拡大」(外国人労働者の受入れ拡大)政策は、時代遅れの移民政策ではなく「還流移民」(サーキュラー・マイグレーション)政策だということになります。

つまり、岡部みどり・上智大学法学部教授は、還流移民とは「外国人労働者が受け入れ国に定住するのではなく、一定期間を経て出身国あるいは第三国へ移動することで、受け入れ国の労働需要を満たすだけでなく、出身国における頭脳流出の解消や社会インフラの発展に貢献しうるという発想に基づく出入国管理戦略である」と述べています。

技能実習生こそ、法務省の「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策検討会」の構成員の岡部みどり・上智大学法学部教授の言う「還流移民」なのでしょう。自分たちに都合のよいことであったとしても、技能実習生がどれだけ酷い目に遭っているのか、考えたことがあるのでしょうか。

追記:この記事に関連して岡部みどり・法務省検討会構成員(上智大学法学部教授)より「還流移民は技能実習生の待遇を改悪する考え方ではありません」、また「現行の技能実習制度は廃止すべきと再三申し上げております」とのご指摘・ご連絡をいただきました。あらためて記事を見直し、岡部みどり教授への当方のコメントが不適切であり、誤解を招くような記載であったことをお詫びいたします。(2019年3月7日)

沖縄タイムスの2018年11月11日の社説には、「技能実習生を巡っては、今年1月からの半年間で4279人が失踪していることが明らかになった。劣悪な待遇に耐えかねて逃げ出す人が後を絶たない」、「労働基準監督署などが昨年、監督指導に入った事業所の7割を超える4226カ所で実習生に対する違法残業などの違反も確認されている」と書かれています。

さらに社説には「新たな在留資格を設ける入管法改正案について、政府は臨時国会での成立を目指している。だが技能実習の問題を放置したまま受け入れ拡大にかじを切れば、不当労働や人権侵害も拡大しかねない」、また「入管政策の大転換にもかかわらず、閣議決定された入管法改正案は制度設計の不備が目立つ。法の根幹ともいえる受け入れ対象業種や規模が定まらないのは、いかにも『生煮え』。対象分野や求められる人材基準などの課題を、法案成立後に省令や運用方針などで定めるとするのは国会軽視である」とも記載されています。
いま、外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策検討会では2018年末を目途に外国人労働者受け入れ総合的対応策の策定に向けて議論中ですが、本来は総合的対応策ができてから国会に入管法改正案を提出するべきだと思います。

また、外国人労働者(安倍政権は「外国人材」と言う)受け入れ総合的対応策は、政権や産業界にとり都合のよい受け入れ策ではなく「人権保障に重点を置いた受け入れ策」(沖縄タイムス社説)とすべきでしょう。

*外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策検討会は、国民及び外国人双方の視点に配慮しつつ、共生施策の企画及び立案に資する意 見聴取等を実施し、外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策を検討することを目的とする。

*岡部みどり・上智大学法学部教授。専門は国際関係論、国際的な人の移動研究。専門は国際関係論、国際的な人の移動研究。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻。学術博士(東京大学大学院)。外務省専門調査員、国際連合大学アカデミック・プログラム・アソシエイト、ケンブリッジ大学国際研究所客員研究員、オックスフォード大学移民研究所客員研究員、上智大学法学部准教授(20007年~14年)などを経て2014年より現職。主な著書は『人の国際移動EU-地域統合は「国境」をどのように変えるのか?』法律文化社、2016年。


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