第13回 労働基準関係法制研究会(厚生労働省)議事録
第14回「労働基準関係法制研究会」(厚生労働省労働局の有識者会議)が労働基準関係法制研究会が(2024年)11月12日に厚生労働省会議室で開催されるとの開催案内が厚生労働省のサイトに昨日(11月5日)からありますが、昨日は前回(第13回)と前々回(第12回)労働基準関係法制研究会の議事録も厚生労働省サイトに公開されました。
つながらない権利について労働基準関係法制研究会メンバー意見
第13回 労働基準関係法制研究会(厚生労働省)議事録から「つながらない権利」について労働基準関係法制研究会メンバー(構成員)意見を抜粋すると次のような見解が述べられていました。
安藤至大・日本大学経済学部教授
(資料)7ページ目の下にあるつながらない権利について1つ発言します。つながらない権利と言ったときに、何をもってつながっていると考えるのかということについて、誤解があると非常にもったいないかなと思ってのお話です。
例えば上司から部下に電話をかける。電話をするというのは、受けて、会話をしたら当然その分時間を取られるわけで、これはつながっていると思うわけですね。ただ、例えば休日に上司が部下に対して、次の勤務日にこれをやってねというような指示をメールで送る。電子メールというのは必ずしも送ったときと受けて開いて読むときのタイミングはずれていても問題がないといったとき。ただし、来たメールはほかのメールと混ざっているので、どんなメールかといって見てしまう。来たメールを見てしまうのは、これは電話と違って、時間的に即座に拘束されているわけではないのですが、しかし、仕事に関連する情報が目を通じて脳に入ってきてしまう。これをつながっていると考えるのかといったときに悩ましいかなと感じておりました。これは私個人としてはつながっているとカウントしないほうが明確なのではないかと。
私も、仕事面で、一緒に研究活動している仲間などに連絡する際には、どうしても急ぎのやつはビジネスチャットを使って、オンラインでいつも、誰がオンラインになっているか、お互い見えているような状況で、オンラインになっている人にメッセージを送って、「これ、今すぐできる?」というのを聞いたりします。これに対して、電子メールは1日1回見れば十分ぐらいの時間感覚で、かつ、何かお願いするときには、いつまでとか、急ぎじゃないよといったメッセージをつけたりするわけです。
こういうことは多分、仕事の現場でも、急ぎのものと、そうではなく、ただし、今思いついてしまったので、相手に連絡だけしておきたいといったもの、いろいろ含まれていると思われる中、このつながらない権利というものを明示的に設定するかどうかは別として、様々なベストプラクティスみたいな形で、急ぎのものとそうでないものをどうやって指揮命令が区別できるのか、こういうやり方をやると働き手としては混乱がないよといって、急ぎじゃないものは急ぎじゃないとちゃんと伝わるように、例えば通知するチャネルを分けるであるとかいうことも重要かと思いますので、この辺り、オンとオフのうち、オフの時間にやっていいことって何なのということは少し考えておく必要があると感じました。
水町勇一郎・早稲田大学法学学術院教授
以前も申し上げたことですけれども、つながらない権利を労働者の権利として構成することには違和感がありますし、労働からの解放の規制という整理の中で、労働時間規制と関連づける形で議論することには何か引っかかるものがありました。もちろん、こうしたつながらない状況を守ることが重要であることを否定するものではありません。
先ほど安藤先生がいろんな場面をお話しいただきましたけれども、そのようなことも考え合わせますと、つながらない権利はパワーハラスメントの問題として整理できるのではないでしょうか。パワーハラスメントには6類型がありますが、そのうち、個の侵害に当たりうると思います。上司が労働者に連絡を取ったからといってそれが直ちにパワハラに当たるものではないけれども、度々連絡したり、急ぎでもない連絡をしたりすることは、労働者の私生活を侵害する、よろしくないものと考えます。常識的な範囲の連絡であれば特に問題はないですが、それが私生活の侵害に当たるようなものであれば、ハラスメントの問題として、このような行為が不適切である、あるいは違法であるという判断ができるのではないかと考えます。
石﨑由希子・横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授
今、議論になっているつながらない権利関連で1点と、インターバル関連で1~2点意見を述べさせていただければと思います。
まず、つながらない権利関係で、今、安藤先生から様々なケースを御紹介いただいて、メールにしても、例えば、ただ送るのか、それとも即返信を求めるのか、あるいはLINEだったらどうなのかとか、いろんなケースによって、またその職場の風土ですとか、個々の労働者のいろんな考え方によって、それを受け入れるのか受け入れないのかというのは大分違う部分があるのかなと私も思うところであります。
そうした意味で、何らか国によって一律な規制を設けるというよりは、各企業、あるいは各職場のレベルで、どうすれば気持ちよく働けるのかみたいな、先ほど水島先生からパワハラの枠の中でという話がありましたけれども、ある種の職場環境配慮的な枠組みの中で、そうしたことの議論を促していくという方向が望ましいのではないかと私も思っているところではあります。
ただ、ここの仕組み方の中で1つ考え得る選択肢としては、このつながらない権利の問題というのは、ある種、時間の長さではなくて、その時間の質というのか、時間帯に着目したような話なのではないかという気もしておりまして、その問題を、場合によっては労働時間設定改善委員会とか、そうしたところで取り上げていくこと、それ自体は促していってもいいのではないかという気がしております。
労働時間等設定改善法、もともとは時短というところを目的として設定されて発展してきたという経緯があるかとは思いますが、そこに1つ時間帯という視点を入れていくということ、もしかして法律レベルでは難しいということであれば、まずは指針とかガイドラインの中でという話になるのかもしれませんが、そうした方向性というのは1つ検討してみてもよいのかなと思った次第であります。
それからもう一点、インターバルについてなのですけれども、こちらもこれまで申し上げてきたとおり、法令の中で規定を置いておくことが必要ではないかと考えているところでありまして、選択肢としては、労基法か、あるいは労働時間等設定改善法かというところかとは思いますけれども、罰則をつけない形で柔軟に進めていくということを考えると、もしかすると現実的なのは労働時間等設定改善法なのかなあという気はしているところではあります。
このインターバルを、今後ある種義務規定として入れていくときに少し気になっておりましたのは、前回でしたか、前々回、黒田先生から問題提起があった非常時の場合の労働時間の、36協定なんかの時間外労働ができるケースでの、そこに対して何らか対応が必要ではないのかというところとの関係であります。原則的にはというとか、その場合、非常時のようなケースではインターバルも確保できないということになるのは、そこは致し方ないかなと思うのですけれども、他方で、インターバルの代替措置として定めるほうの規制というのは、可能な限り、そういった非常時のもとでも適用できるような方向、ちょっとそこは義務規定ではなくて努力義務みたいな形かもしれませんけれども、が望ましいのではないかという気もしておりまして、そこをさらに検討する必要があるのではないかと思った次第であります。
水町勇一郎・早稲田大学法学学術院教授
つながらない権利のところなのですが、背景に考えなければいけないことは大きく2つあって、1つは、デジタル化とかアルゴリズムの中で、外国で何でこういうことがいっぱい議論されて法制化されているのか。もう時間、場所を問わない働き方になって、働き方自体が、仕事とプライベートの区別がつかなくなっている。家でも仕事しなければいけないし、別に職場でも家庭との間でLINEを送ったりしているということもあるので、その区別がつかなくなっていく中で、仕事とプライベート、私生活の線引きをどうするかというので、ちゃんとルールをつくらないと、現場で力関係が強い弱いというので勝手にルールをつくったら、私生活が損なわれてしまうのではないかという時代の流れの中でどう線引きするかという問題。
もう一つは、働き方、働かせ方も非常に多様になっていて、要はここで何が問題か。所定労働時間以外に何をさせることができるのか、してはいけないかという問題で、例えば土日が休みの人で所定労働時間になっていないとした場合に、例えばあのファイルどこにあったのとLINEを送って、それでも、所定労働時間外だから全くリアクションしなくていいのかということから、例えば日曜日に大きな事故、事件が起こって、休日出勤をしてこれに対して対応してくれと。でも、土日はつながらない権利があるから、それに対して全くリアクションをしちゃいけないのかというので、いろんな対応があり得る中で、要は、法律で、これはやっていい、これはやっちゃだめというのはできないので、やはり職場できちんと実態に合わせて話し合ってくださいということが大切なのですが、話し合ってくださいと言っても、話し合うところは大体ちゃんとしたところで話し合って、全然ちゃんとしてないところは話し合わないということになるので、基本的には、諸外国でやられている一つの方法としてはデフォルト。基本的には、所定労働時間外は連絡を取っちゃだめよと。リアクションがなくても何も処分とかサンクションしちゃだめよということをデフォルトにしながら、それ以外に、連絡に対するリアクションとか、実際、休日労働命令を出した場合には休日労働しなければいけないとか、どこをどういう人に何ができるかをちゃんとルール化してくださいねと。何もしないとデフォルトになってしまうので、そうでないルールをどう話し合うか。
その措置を取っていないときに法的にどうするかというので、場合によってはそういう措置を具体的に話し合って、取っていなければ罰則をつけるという国も出始めているし、これって、現場で話し合うことが大切だから、日本でいうと労働時間等設定改善法の中で話し合って、まずルール化を進めていってくださいということになるか、あとは労働契約法の中で、ゼロ時間契約との関係とかもあるのですが、所定労働時間でない時間に対して何までできるかを、所定労働時間でないけれども、どこまで連絡を取ったり義務づけることができるかというルールを、労働契約法やそれに関するルールとして明確にしていく。政策的にはいろいろあると思いますが、労働時間等設定改善法だとコンプライアンスをしっかりしている大企業でやるだけで、実際は本当に私生活をちゃんとしてくれというところにそれが波及するかどうかという懸念もあるので、場合によっては、労働契約法上こういうルールをつくるということが大切なのだという意識をみんなに持ってもらいながら、諸外国の動きを見てルール化していくということも政策的に大切かなと思いました。
黒田玲子・東京大学環境安全本部准教授
勤務間インターバルについてと、つながらない権利についても少しコメントさせていただきます。
勤務間インターバルについては、前々回の議論で、長時間勤務の上限規制とどう違うのか、目的を一緒にしているところもかなりあると思うので、その目的と効果の違いをはっきりさせるべきではないかというお話があったと思います。もちろん補完的な施策になると思うので、目的を同じにしているところもあるとは思います。長期間の、例えば月単位、年単位という意味での健康悪影響のリスクを下げるという目的は同じにしているところもあると思うのですが、どちらかというと、勤務間インターバルは長期間というよりは短期間、1日単位とか、先ほどの休日労働からの解放でも、連続勤務時間、連続勤務日数13日というのは、ウィークリーだったりマンスリーだったりの疲労からの回復ということを意味していると思うのですが、勤務間インターバルはどちらかというとデイリーな疲労からの回復というものを意図している分の比重のほうが大きいのかなと思っているので、ちょっと目的は違うのではないか。もちろん、勤務間インターバル確保の目的として、ワークライフバランスの確保という点も重要だと思うのですけれども。
運輸のほうで改善基準告示でしたか、が議論されたとき、詳しくは承知していないのですが、恐らく、覚醒時間が長くなる、つまり睡眠時間が減るというのと一緒ですけれども、1日当たりの覚醒時間が長ければ長いほど、もしくは、なかなか線引きはできないですけれども、覚醒時間が19時間を超えてくるとアルコール濃度、例えば血中アルコール濃度0.05%に相当とかいう研究もあったりして、これは運転する場面に当てはめると酒気帯びの呼気基準を超えてきますけれども、そういうのを加味しながらきっと決めていると思うのですね。だから、睡眠時間はこれぐらい確保すべきで、睡眠時間だけでなくて、もちろんその前後の生活時間の通勤時間を加味すべきだということを検討していると思います。
運転業務は公衆衛生上のリスクが高いので、きちんと睡眠時間をより確保すべきという議論があったと思いますが、運転業務でなくても、労働により覚醒時間が長く、日によってはそうではないけれども、特定の日はかなり長時間働かざるを得なかったとなると、やはりそこからの回復時間もかなり必要になりますので、勤務間インターバルを制度として義務化すべきだとは思っています。ただ、その導入は労使での検討がいろいろと必要となりますので、すぐに義務化できるかどうか分からないと思うのですが、検討会としてはやはり義務化というような意見を述べていくべきではないかとは思っています。
あともう一つ、先ほど事務局から交替制勤務の話が別の文脈で出ていたのですけれども、交替制勤務をしている人は労働者の2割弱ぐらいと言われていると思いますが、何を交替制勤務かとみなすかによって数え方が1割から2割という幅があると思いますけれども、そういう方も含めて勤務間インターバルを保てるようにということも考えると、こちらもきちんと制度化すべきだと思います。ほとんどの会社や組織では、きちんと勤務間インターバルを保てるようにシフト勤務は正循環で設定し回っていると思いますけれども、なかなかそこがきちんとできていなかったり、とにかく人手不足なのでということで、現状はなかなか難しかったり、というところもあると思います。ルールを決めないといつまでたっても勤務間インターバルを保つということができないので、このタイミングでぜひ義務化を目指して報告書としては出すべきではないかと思っています。
あと、つながらない権利に関して、水島先生(議事録では「水島先生」となっていますが正確には水町勇一郎早稲田大学教授)のお話を伺いながら、確かにハラスメントの文脈で語るというのもありかなとは思った一方で、オフの時間に何らかの連絡がある、ごくまれだったらいいのでしょうけれども、割とフランクな連絡が頻繁にあるというと、そのこと自体の有害性とか精神負担ということも考えるべきで、必ずしもハラスメントの文脈だけで言えるわけでない。本人がそう感じていないし、相手も感じていないし、けれども、そのことに関する有害性ということは考えるべきで、ハラスメントの文脈だけで語れるかというとちょっと疑問に感じましたので、コメントさせていただきました。(第13回「労働基準関係法制研究会」議事録より)
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つながらない権利について労働基準関係法制研究会メンバー意見
第13回 労働基準関係法制研究会(厚生労働省)議事録から「つながらない権利」について労働基準関係法制研究会メンバー(構成員)意見を抜粋すると次のような見解が述べられていました。
安藤至大・日本大学経済学部教授
(資料)7ページ目の下にあるつながらない権利について1つ発言します。つながらない権利と言ったときに、何をもってつながっていると考えるのかということについて、誤解があると非常にもったいないかなと思ってのお話です。
例えば上司から部下に電話をかける。電話をするというのは、受けて、会話をしたら当然その分時間を取られるわけで、これはつながっていると思うわけですね。ただ、例えば休日に上司が部下に対して、次の勤務日にこれをやってねというような指示をメールで送る。電子メールというのは必ずしも送ったときと受けて開いて読むときのタイミングはずれていても問題がないといったとき。ただし、来たメールはほかのメールと混ざっているので、どんなメールかといって見てしまう。来たメールを見てしまうのは、これは電話と違って、時間的に即座に拘束されているわけではないのですが、しかし、仕事に関連する情報が目を通じて脳に入ってきてしまう。これをつながっていると考えるのかといったときに悩ましいかなと感じておりました。これは私個人としてはつながっているとカウントしないほうが明確なのではないかと。
私も、仕事面で、一緒に研究活動している仲間などに連絡する際には、どうしても急ぎのやつはビジネスチャットを使って、オンラインでいつも、誰がオンラインになっているか、お互い見えているような状況で、オンラインになっている人にメッセージを送って、「これ、今すぐできる?」というのを聞いたりします。これに対して、電子メールは1日1回見れば十分ぐらいの時間感覚で、かつ、何かお願いするときには、いつまでとか、急ぎじゃないよといったメッセージをつけたりするわけです。
こういうことは多分、仕事の現場でも、急ぎのものと、そうではなく、ただし、今思いついてしまったので、相手に連絡だけしておきたいといったもの、いろいろ含まれていると思われる中、このつながらない権利というものを明示的に設定するかどうかは別として、様々なベストプラクティスみたいな形で、急ぎのものとそうでないものをどうやって指揮命令が区別できるのか、こういうやり方をやると働き手としては混乱がないよといって、急ぎじゃないものは急ぎじゃないとちゃんと伝わるように、例えば通知するチャネルを分けるであるとかいうことも重要かと思いますので、この辺り、オンとオフのうち、オフの時間にやっていいことって何なのということは少し考えておく必要があると感じました。
水町勇一郎・早稲田大学法学学術院教授
以前も申し上げたことですけれども、つながらない権利を労働者の権利として構成することには違和感がありますし、労働からの解放の規制という整理の中で、労働時間規制と関連づける形で議論することには何か引っかかるものがありました。もちろん、こうしたつながらない状況を守ることが重要であることを否定するものではありません。
先ほど安藤先生がいろんな場面をお話しいただきましたけれども、そのようなことも考え合わせますと、つながらない権利はパワーハラスメントの問題として整理できるのではないでしょうか。パワーハラスメントには6類型がありますが、そのうち、個の侵害に当たりうると思います。上司が労働者に連絡を取ったからといってそれが直ちにパワハラに当たるものではないけれども、度々連絡したり、急ぎでもない連絡をしたりすることは、労働者の私生活を侵害する、よろしくないものと考えます。常識的な範囲の連絡であれば特に問題はないですが、それが私生活の侵害に当たるようなものであれば、ハラスメントの問題として、このような行為が不適切である、あるいは違法であるという判断ができるのではないかと考えます。
石﨑由希子・横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授
今、議論になっているつながらない権利関連で1点と、インターバル関連で1~2点意見を述べさせていただければと思います。
まず、つながらない権利関係で、今、安藤先生から様々なケースを御紹介いただいて、メールにしても、例えば、ただ送るのか、それとも即返信を求めるのか、あるいはLINEだったらどうなのかとか、いろんなケースによって、またその職場の風土ですとか、個々の労働者のいろんな考え方によって、それを受け入れるのか受け入れないのかというのは大分違う部分があるのかなと私も思うところであります。
そうした意味で、何らか国によって一律な規制を設けるというよりは、各企業、あるいは各職場のレベルで、どうすれば気持ちよく働けるのかみたいな、先ほど水島先生からパワハラの枠の中でという話がありましたけれども、ある種の職場環境配慮的な枠組みの中で、そうしたことの議論を促していくという方向が望ましいのではないかと私も思っているところではあります。
ただ、ここの仕組み方の中で1つ考え得る選択肢としては、このつながらない権利の問題というのは、ある種、時間の長さではなくて、その時間の質というのか、時間帯に着目したような話なのではないかという気もしておりまして、その問題を、場合によっては労働時間設定改善委員会とか、そうしたところで取り上げていくこと、それ自体は促していってもいいのではないかという気がしております。
労働時間等設定改善法、もともとは時短というところを目的として設定されて発展してきたという経緯があるかとは思いますが、そこに1つ時間帯という視点を入れていくということ、もしかして法律レベルでは難しいということであれば、まずは指針とかガイドラインの中でという話になるのかもしれませんが、そうした方向性というのは1つ検討してみてもよいのかなと思った次第であります。
それからもう一点、インターバルについてなのですけれども、こちらもこれまで申し上げてきたとおり、法令の中で規定を置いておくことが必要ではないかと考えているところでありまして、選択肢としては、労基法か、あるいは労働時間等設定改善法かというところかとは思いますけれども、罰則をつけない形で柔軟に進めていくということを考えると、もしかすると現実的なのは労働時間等設定改善法なのかなあという気はしているところではあります。
このインターバルを、今後ある種義務規定として入れていくときに少し気になっておりましたのは、前回でしたか、前々回、黒田先生から問題提起があった非常時の場合の労働時間の、36協定なんかの時間外労働ができるケースでの、そこに対して何らか対応が必要ではないのかというところとの関係であります。原則的にはというとか、その場合、非常時のようなケースではインターバルも確保できないということになるのは、そこは致し方ないかなと思うのですけれども、他方で、インターバルの代替措置として定めるほうの規制というのは、可能な限り、そういった非常時のもとでも適用できるような方向、ちょっとそこは義務規定ではなくて努力義務みたいな形かもしれませんけれども、が望ましいのではないかという気もしておりまして、そこをさらに検討する必要があるのではないかと思った次第であります。
水町勇一郎・早稲田大学法学学術院教授
つながらない権利のところなのですが、背景に考えなければいけないことは大きく2つあって、1つは、デジタル化とかアルゴリズムの中で、外国で何でこういうことがいっぱい議論されて法制化されているのか。もう時間、場所を問わない働き方になって、働き方自体が、仕事とプライベートの区別がつかなくなっている。家でも仕事しなければいけないし、別に職場でも家庭との間でLINEを送ったりしているということもあるので、その区別がつかなくなっていく中で、仕事とプライベート、私生活の線引きをどうするかというので、ちゃんとルールをつくらないと、現場で力関係が強い弱いというので勝手にルールをつくったら、私生活が損なわれてしまうのではないかという時代の流れの中でどう線引きするかという問題。
もう一つは、働き方、働かせ方も非常に多様になっていて、要はここで何が問題か。所定労働時間以外に何をさせることができるのか、してはいけないかという問題で、例えば土日が休みの人で所定労働時間になっていないとした場合に、例えばあのファイルどこにあったのとLINEを送って、それでも、所定労働時間外だから全くリアクションしなくていいのかということから、例えば日曜日に大きな事故、事件が起こって、休日出勤をしてこれに対して対応してくれと。でも、土日はつながらない権利があるから、それに対して全くリアクションをしちゃいけないのかというので、いろんな対応があり得る中で、要は、法律で、これはやっていい、これはやっちゃだめというのはできないので、やはり職場できちんと実態に合わせて話し合ってくださいということが大切なのですが、話し合ってくださいと言っても、話し合うところは大体ちゃんとしたところで話し合って、全然ちゃんとしてないところは話し合わないということになるので、基本的には、諸外国でやられている一つの方法としてはデフォルト。基本的には、所定労働時間外は連絡を取っちゃだめよと。リアクションがなくても何も処分とかサンクションしちゃだめよということをデフォルトにしながら、それ以外に、連絡に対するリアクションとか、実際、休日労働命令を出した場合には休日労働しなければいけないとか、どこをどういう人に何ができるかをちゃんとルール化してくださいねと。何もしないとデフォルトになってしまうので、そうでないルールをどう話し合うか。
その措置を取っていないときに法的にどうするかというので、場合によってはそういう措置を具体的に話し合って、取っていなければ罰則をつけるという国も出始めているし、これって、現場で話し合うことが大切だから、日本でいうと労働時間等設定改善法の中で話し合って、まずルール化を進めていってくださいということになるか、あとは労働契約法の中で、ゼロ時間契約との関係とかもあるのですが、所定労働時間でない時間に対して何までできるかを、所定労働時間でないけれども、どこまで連絡を取ったり義務づけることができるかというルールを、労働契約法やそれに関するルールとして明確にしていく。政策的にはいろいろあると思いますが、労働時間等設定改善法だとコンプライアンスをしっかりしている大企業でやるだけで、実際は本当に私生活をちゃんとしてくれというところにそれが波及するかどうかという懸念もあるので、場合によっては、労働契約法上こういうルールをつくるということが大切なのだという意識をみんなに持ってもらいながら、諸外国の動きを見てルール化していくということも政策的に大切かなと思いました。
黒田玲子・東京大学環境安全本部准教授
勤務間インターバルについてと、つながらない権利についても少しコメントさせていただきます。
勤務間インターバルについては、前々回の議論で、長時間勤務の上限規制とどう違うのか、目的を一緒にしているところもかなりあると思うので、その目的と効果の違いをはっきりさせるべきではないかというお話があったと思います。もちろん補完的な施策になると思うので、目的を同じにしているところもあるとは思います。長期間の、例えば月単位、年単位という意味での健康悪影響のリスクを下げるという目的は同じにしているところもあると思うのですが、どちらかというと、勤務間インターバルは長期間というよりは短期間、1日単位とか、先ほどの休日労働からの解放でも、連続勤務時間、連続勤務日数13日というのは、ウィークリーだったりマンスリーだったりの疲労からの回復ということを意味していると思うのですが、勤務間インターバルはどちらかというとデイリーな疲労からの回復というものを意図している分の比重のほうが大きいのかなと思っているので、ちょっと目的は違うのではないか。もちろん、勤務間インターバル確保の目的として、ワークライフバランスの確保という点も重要だと思うのですけれども。
運輸のほうで改善基準告示でしたか、が議論されたとき、詳しくは承知していないのですが、恐らく、覚醒時間が長くなる、つまり睡眠時間が減るというのと一緒ですけれども、1日当たりの覚醒時間が長ければ長いほど、もしくは、なかなか線引きはできないですけれども、覚醒時間が19時間を超えてくるとアルコール濃度、例えば血中アルコール濃度0.05%に相当とかいう研究もあったりして、これは運転する場面に当てはめると酒気帯びの呼気基準を超えてきますけれども、そういうのを加味しながらきっと決めていると思うのですね。だから、睡眠時間はこれぐらい確保すべきで、睡眠時間だけでなくて、もちろんその前後の生活時間の通勤時間を加味すべきだということを検討していると思います。
運転業務は公衆衛生上のリスクが高いので、きちんと睡眠時間をより確保すべきという議論があったと思いますが、運転業務でなくても、労働により覚醒時間が長く、日によってはそうではないけれども、特定の日はかなり長時間働かざるを得なかったとなると、やはりそこからの回復時間もかなり必要になりますので、勤務間インターバルを制度として義務化すべきだとは思っています。ただ、その導入は労使での検討がいろいろと必要となりますので、すぐに義務化できるかどうか分からないと思うのですが、検討会としてはやはり義務化というような意見を述べていくべきではないかとは思っています。
あともう一つ、先ほど事務局から交替制勤務の話が別の文脈で出ていたのですけれども、交替制勤務をしている人は労働者の2割弱ぐらいと言われていると思いますが、何を交替制勤務かとみなすかによって数え方が1割から2割という幅があると思いますけれども、そういう方も含めて勤務間インターバルを保てるようにということも考えると、こちらもきちんと制度化すべきだと思います。ほとんどの会社や組織では、きちんと勤務間インターバルを保てるようにシフト勤務は正循環で設定し回っていると思いますけれども、なかなかそこがきちんとできていなかったり、とにかく人手不足なのでということで、現状はなかなか難しかったり、というところもあると思います。ルールを決めないといつまでたっても勤務間インターバルを保つということができないので、このタイミングでぜひ義務化を目指して報告書としては出すべきではないかと思っています。
あと、つながらない権利に関して、水島先生(議事録では「水島先生」となっていますが正確には水町勇一郎早稲田大学教授)のお話を伺いながら、確かにハラスメントの文脈で語るというのもありかなとは思った一方で、オフの時間に何らかの連絡がある、ごくまれだったらいいのでしょうけれども、割とフランクな連絡が頻繁にあるというと、そのこと自体の有害性とか精神負担ということも考えるべきで、必ずしもハラスメントの文脈だけで言えるわけでない。本人がそう感じていないし、相手も感じていないし、けれども、そのことに関する有害性ということは考えるべきで、ハラスメントの文脈だけで語れるかというとちょっと疑問に感じましたので、コメントさせていただきました。(第13回「労働基準関係法制研究会」議事録より)
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