働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

高度プロフェッショナル制度 条文と付帯(附帯)決議

2018年08月18日 | 働き方改革関連法
働き方改革関連法案が可決・成立し働き方改革関連法が公布されましたが(働き方改革関連法案は2018年6月29日に可決・成立して7月6日に公布)、この働き方改革関連法により労働基準法に41条の2の規定が追加されて高度プロフェッショナル制度が創設されることになりました。

なお、働き方改革関連法により改正される前の労働基準法は現行労働基準法と呼ばれ、改正後の労働基準法は新労働基準法と呼ばれます。

高度プロフェッショナル制度の経過
2015年(平成27年)4月3日に労働基準法等の一部を改正する法案が国会に上程されました。その改正案の中に高度プロフェッショナル制度の創設が記載されていましたが、その後、継続審議になりました。

2017年(平成29年)7月13月、(日本法令ビジネスガイド2018年7月号に掲載された「詳解 働き方改革法案」<岩本充史弁護士>の記述によると)日本労働組合総連合会(連合)会長が年間104日以上の休日を義務づける等の修正を安倍総理に申し入れ、その申し入れを受け入れ高度プロフェッショナル制度の規定の修正がされました。

2017年9月15日、労働政策審議会は高度プロフェッショナル制度創設などを規定する労働基準法改正法案を含む働き方改革関連法案(働き方一括法案)を「おおむね妥当」と答申しまた。なお、高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の対象拡大については「長時間労働を助長する」旨の労働側反対意見が併記されました。

その後、働き方改革関連法案要綱が諮問され、労働政策審議会は概ね妥当との答申を行い、要綱をもとにして法案化作業が行われ、秋の臨時国会に提出される予定でしたが、衆議院の解散により法案は提出されませんでした。

そして、2018年(平成30年)4月6日、労働基準法等の改正法案の内容を一部修正して包摂する働き方改革関連法案が国会に上程され、6月29日、働き方改革関連法案が可決・成立しました。

7月10日、18日、労働政策審議会・労働条件分科会は、働き方改革関連法の省令等を議題にして時間外労働の上限規制等にかかる省令案の審議、原則の限度時間を超えて就業した労働者に対して実施する健康確保措置は指針で例示された内容をもとに36協定で定めることなど確認しました。

また、8月9日、労働政策審議会・労働条件分科会では事務局より36協定届様式案や時間外・休日労働に関する指針案(イメージ)が示され議論されました。

そして労働政策審議会・労働条件分科会では高度プロフェッショナル制度については、労働時間上限規制などの議論後に予定されていますが、その場において国会の附帯(付帯)決議が「どこまで配慮されるかどうか」、注目されています。

高度プロフェッショナル制度に関する付帯(附帯)決議
衆議院における付帯(附帯)決議
9 高度プロフェ ッショナル制度の対象となる労働者の健康確保を図るため、労働基準監督署は、使用者に対して、働く時間 帯の選択や時間配分に関する対象労働者の裁量を失わせるような過大な 業務を課した場合や、新設される規定に基づき対象 労働者が同意を撤回した場合には制度が適用されないことを徹底するとともに、法定の 健康確保措置の確 実な実施に向けた指導監督を適切に行うこと。また、改正法施行後、速やかに制度運用の実態把握を行い、その結果に基づき、必要な措置を講ずること。

参議院における付帯(附帯)決議
19 長時間労働の歯止めがないとの指摘を踏まえ、高度プロフェッショナル制度を導入するに当たっては、それが真に働く者の働きがいや自由で創造的な働き方につながる制度として運用され、かつそのような制度を自ら希望する労働者にのみ適用されなければならないことに留意し、この制度創設の趣旨にもとるよな制度の誤用や濫用によって適用労働者の健康被害が引き起こされるような事態を決して許してはいけないことから、制度の趣旨に則った適正な運用について周知徹底するとともに、使用者による決議違反等に対しては厳正に対処すること。

20 高度プロフェッショナル制度の適用労働者は、高度な専門職であり、使用者に対して強い交渉力を持つ者でなければならないという制度の趣旨に鑑み、政府は省令でその対象業務を定めるに当たっては対象業務を具体的かつ明確に限定列挙するとともに、法の趣旨を踏まえて、慎重かつ丁寧な議論を経て結論を得ること。労使委員会において対象業務を決議するに当たっても、要件に合致した業務が決議されるよう周知・指導を徹底するとともに、決議を受け付ける際にはその対象とされた業務が適用対象業務に該当するものであることを確認すること。

21 前項において届出が受け付けられた対象業務について、制度創設の趣旨に鑑み、使用者は始業・終業時間や深夜・休日労働など労働時間に関わる働き方についての業務命令や指示などを行ってはならないこと、及び実際の自由な働き方の裁量を奪うような成果や業務量の要求や納期・期限の設定などを行ってはならないことなどについて、省令で明確に規定し、監督指導を徹底すること。

22 高度プロフェッショナル制度の対象労働者の年収要件については、それが真に使用者に対して強い交渉力のある高度な専門職労働者にふさわしい処遇が保障される水準となるよう、労働政策審議会において真摯かつ丁寧な議論を行うこと。

23 高度プロフェッショナル制度を導入する全ての事業場に対して、労働基準監督署は立入調査を行い、法の趣旨に基づき、適用可否をきめ細かく確認し、必要な監督指導を行うこと。

24 今般の改正により新設される労働時間の状況の把握の義務化や、高度プロフェッショナル制度における健康管理時間の把握について、事業主による履行を徹底し、医師による面接指導の的確な実施等を通じ、労働者の健康が確保されるよう取り組むこと。

25 高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者の健康確保を図るため、「健康管理時間」は客観的な方法による把握を原則とし、その適正な管理、記録、保存の在り方や、労働者等の求めに応じて開示する手続など、指針等で明確に示すとともに、労働基準監督署は、法定の健康確保措置の確実な実施に向けた監督指導を適切に行うこと。

26 高度プロフェッショナル制度適用労働者やその遺族などからの労災申請があった場合には、労働基準監督署は、当該労働者の労働時間の把握について徹底した調査を行う等、迅速かつ公正な対応を行うこと。

27 高度プロフェッショナル制度に関し、それが真に制度の適用を望む労働者にのみ適用されることを担保するためには、本人同意の手続の適正な運用が重要であることから、提供されるべき情報や書面での確認方法を含め、本人同意に係る手続の要件等について指針等において明確に規定するとともに、本人同意が適正に確保されることについて決議の届出の際に労働基準監督署において確認すること。また、使用者に対して、同意を得る際には不同意に対していかなる不利益取扱いもしてはならないこと、労働者が同意を撤回する場合の手続についても明確に決議した上で、同意の撤回を求めた労働者を速やかに制度から外すとともに、いかなる不利益取扱いもしてはならないことについて、周知徹底し、監督指導を徹底すること。

28 高度プロフェッショナル制度においても、使用者の労働者に対する安全配慮義務は課されることを踏まえ、労働基準監督署は、高度プロフェッショナル制度適用労働者の健康管理時間の把握・記録に関して、当該使用者に対して、適切な監督指導を行うこと。

29 高度プロフェッショナル制度を導入するに当たっての労使委員会における決議については、その制度創設の趣旨に鑑み、有効期間を定め、自動更新は認めないことを省令等において規定すること。加えて、本人同意については、対象労働者としての要件充足を適正に確認するためにも、短期の有期契約労働者においては労働契約の更新ごと、無期又は一年以上の労働契約においては一年ごとに合意内容の確認・更新が行われるべきであることを指針に規定し、監督指導を徹底すること。

30 高度プロフェッショナル制度の具体的な実施の在り方については、多くの事項が省令に委任されていることから、委員会審査を通じて確認された立法趣旨や、本附帯決議の要請内容を十分に踏まえ、労働政策審議会における議論を速やかに開始し、省令等に委任されている一つ一つの事項について十分かつ丁寧な審議を行い、明確な規定を設定するとともに、対象事業主や労働者に対して十分な周知・啓発を行い、併せて監督指導する労働基準監督官等に対しても十分な教育・訓練を行うこと。

31 高度プロフェッショナル制度に関して、政府は、三年を目途に、適用対象者の健康管理時間の実態、労働者の意見、導入後の課題等について取りまとめを行い、本委員会に報告すること。

47 働き方改革の実行の過渡期においては、いわゆる生活残業を行う従業員が生活困窮に陥ること、高度プロフェッショナル制度の運用の仕方が必ずしも適切ではないこと等の問題が生じる可能性があることから、本法施行後、労働時間等の実態についての調査を定期的に行い、現状を把握しつつ、働き方改革実行計画の必要な見直しを不断に行うこと。

*「附帯(付帯)決議とは、国会の衆議院及び参議院の委員会が法律案を可決する際に、当該委員会の意思を表明するものとして行う決議のこと。」(Wikipediaより)

高度プロフェッショナル制度の条文
<新労働基準法>
41条の2 賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について 意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の 労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された 事業場において、当該委員会がその委員の5分の4以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第二号に掲げる労働者の範囲に属する労働者(以下この項において「対象労働者」という。)であって書面 その他の厚生労働省令で定める方法によりその同意を得たものを 当該事業場における第一号に掲げる業務に就かせたときは、この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。ただし、第三号から第五号までに規定する措置のいずれかを使用者が講じていない場合は、この限りでない。
一 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)
二 この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該 当する労働者であつて、対象業務に就かせようとするものの範囲
 イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。
 ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者1人当たりの給与の平均額をいう。)の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。
三 対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(この項の委員会が厚生労働省令で定める労働時間以外の時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働 した時間との合計の時間(第五号ロ及びニ並びに第六号において「健康管理時間」という。)を把握する措置(厚生労働省令で定める方法に限る。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
四 対象業務に従事する対象労働者に対し、1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えること。
五 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。
 イ 労働者ごとに始業から24時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ 、第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。
 ロ 健康管理時間を1箇月又は3箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。
 ハ 1年に1回以上の継続した2週間(労働者が請求した場合においては、1年に2回以上の継続した1週間)(使用者が当該期間において、第39条の規定による有給休暇を与えたときは、当該有給休暇を与えた日を除く。)について、休日を与えること。
 ニ 健康管理時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に健康診断(厚生労働省令で定める項目を含むものに限る。)を実施すること。
六 対象業務に従事する対象労働者の健康管理時間の状況に応じた当該対象労働者の健康及び福祉を確保するための措置であって、当該対象労働者に対する有給休暇(第39条の規定による有給休暇を除く。)の付与、健康診断の実施その他の厚生労働省令で定める措置のうち当該決議で定めるものを使用者が講ずること。
七 対象労働者のこの項の規定による同意の撤回に関する手続
八 対象業務に従事する対象労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
九 使用者は、この項の規定による同意をしなかった対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
十 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

2項 前項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、同項第四号から第六号までに規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。

3項 第38条の4第2項、第3項及び第5項の規定は、第1項の委員会について準用する。

4項 第1項の決議をする委員は、当該決議の内容が前項において準用する第38条の4第3項の指針に適合したものとなるようにしなければならない。

5項 行政官庁は、第3項において準用する第38条の4第3項の指針に関し、第1項の決議をする委員に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。

*高度プロフェッショナル制度の施行は2019年(平成31年)4月1日です。


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