働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

副業・兼業の労働時間管理に関する厚生労働省議論

2020年07月29日 | 副業・兼業 労務管理
労働政策審議会・労働条件分科会(第162回)
厚生労働省の労働政策審議会・労働条件分科会(第162回)が、明日=2020年7月30日(木)13:00~15:00、労働委員会会館講堂(東京都港区芝公園1-5-32 労働委員会会館7階)で開催される予定。

議題は、「経済財政運営と改革の基本方針2020」等について(報告事項)、副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方について、労働基準法に基づく届出等における押印原則の見直しについて。

労働政策審議会・労働条件分科会(厚生労働省)

副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する議論経過
厚生労働省における「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方」に関する議論については中断していたが、前回(第161回)労働政策審議会・労働条件分科会でも議題になり議論された。

しかし、厚生労働省において最初に議論されたのは「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」(2018年7月17日~2019年7月25日、全9回)においてであった。この検討会は報告書をとりまとめ、厚生労働省は2019年8月8日に報告書を公表した。

副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会(厚生労働省)

「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」報告書を受けて労働政策審議会・労働条件分科会で「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方」について議論されることになった。

まず2019年9月26日(第154回)、つづいて10月18日(第155回)、11月25日(第156回)、そして今年(2020年)6月25日(第161回)に開催された労働条件分科会で議論された。

第161回の労働政策審議会・労働条件分科会配布資料「副業・兼業の場合の労働時間管理について」には、今までの労働条件分科会での主な意見と今後検討すべき事項について箇条書きされている。

労働条件分科会におけるご主な意見
〇 事業主を異にする場合でも労働時間は通算するという現行の行政解釈を維持すべき。時間外労働の上限規制や割増賃金の支払について労働時間を通算すべき。
〇 副業・兼業を普及促進することで労働者の健康が阻害されることは本末転倒であり、労働者の健康確保が最も大事である。
〇 労働者保護の観点から、過重労働防止や健康確保、使用者の実務上の雇用責任や安全配慮義務、個人情報保護の観点からの労働者のプライバシーの取扱など様々な問題や課題をバランスよく満たす方策について、丁寧かつ慎重に議論すべき。
〇 企業が副業・兼業を認めない理由として、企業実務の観点から労働時間の通算規定への対応が難しいという声がある。企業実務に混乱のない労働時間管理、労務管理ができるよう議論を進めるべき。
〇 副業・兼業を前提として、労働時間管理や働き過ぎ防止のための実効的な仕組みを考える必要。この点、健康確保措置に重点を置いた労働安全衛生法や、労働契約の付随義務として副業・兼業に関する情報を、どこまで使用者、労働者に申告を求めることができるのかといった問題を多角的に捉えて、相互補完的に作用することで、実効性のある仕組みを作ることができるのではないか。
〇 副業・兼業の把握に係る自己申告について、どのように把握すべきか等について明確にすべき。
〇 副業・兼業を認める場合、自己申告が前提となるが、競業等の場合の企業情報の管理の観点から、副業・兼業先の企業の情報が、本業の企業による副業・兼業が可能かの判断に必要。必要な情報についてどのように考えるか。
〇 労働時間は労働者による自己申告や自己管理が現実的。
〇 副業・兼業により労働時間を通算した場合の時間外労働に関し、企業による対応について検討すべき。
〇 労働者の自己申告で労働時間を把握することは一つの選択肢であり検討すべきだが、副業・兼業も含め、労働時間管理及び健康管理の責任は、一義的には使用者が負うといった原則に戻って検討すべき。
〇 副業・兼業の場合の労働契約の先後等に応じた労働時間の捉え方について、一般的に理解されているかも考える必要。
〇 学生時代のアルバイトを継続したまま就職した場合についてどう考えるか等について整理が必要。
〇 本業と副業・兼業先について、就業先が3つあった場合についてはどう考えるか等について整理が必要。
〇競業避止、情報漏洩、安全配慮義務の問題等について、どのような課題があるか。(この他、 検討会報告書において示された健康確保措置は評価、今後十分検討すべき等の意見があった。)

今後検討すべき事項のイメージ
〇労働者の健康確保に留意し、長時間労働・過重労働につながらないようにするという観点を持ちつつ、副業・兼業の場合の実効性ある労働時間管理の在り方
〇労働者の副業・兼業の確認及び副業・兼業を認めるに当たっての判断に必要となる情報
〇副業・兼業を行っている労働者の労働時間の把握、特に労働者の自己申告による労働時間の把握
〇副業・兼業を行っている労働者の労働時間を通算して管理するに当たって、本業、副業・兼業先及び労働者の間において必要となる情報
〇「本業」及び「副業・兼業先」の考え方
〇本業、副業・兼業先が3つ以上になった場合等の取扱
〇月単位での労働時間の管理等、使用者の労務管理の負担軽減を図りつつ、簡便に労働時間を管理する方法
〇副業・兼業の場合の競業避止、情報漏洩、安全配慮義務等

副業・兼業の場合の労働時間管理に関する論点及び整理事項(案)
1.労働時間通算が必要となる場合
・ 労働時間が通算される場合
・ 通算して適用される規定
・ 通算されない規定
2.副業・兼業の確認
・ 副業・兼業の確認方法
・ 労働者から確認する事項
3.労働時間の通算
・ 基本的事項
・ 副業・兼業の開始前(所定労働時間の通算)
・ 副業・兼業の開始後(所定外労働時間の通算)
4.時間外労働の割増賃金の取扱い
・ 割増賃金の支払義務
・ 割増賃金率
5.簡便な労働時間管理の方法
・ 簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)
・ 管理モデルの枠組み
・ 管理モデルの実施
6.競業避止、情報漏洩、安全配慮義務等

第161回 労働政策審議会労働条件分科会配布資料「副業・兼業の場合の労働時間管理について」(PDF)

労働政策審議会・労働条件分科会(第161回)に関する報道
時事ドットコムニュースが「副業は割増賃金支払いを 労働時間管理でモデルケース―厚労省」と題した記事を2020年6月25日(20時30分)に配信している。

厚生労働省は(6月)25日、従業員が副業や兼業をした場合の労働時間管理に関する考え方を、労働政策審議会の分科会に示した。副業については、本業での勤務時間に関係なく、働いた時間すべてに割増賃金を支払うことをモデルケースとして提示。労働時間管理を容易にするのが狙いだ。

同省は副業や兼業の労働時間管理に関するガイドラインを8月末までに策定。モデルケースも盛り込む。これを採用するかは企業次第だが、管理がしやすい方法を示すことで、副業の容認を促す。

副業の労働時間管理は企業にとって負担が重く、副業が進まない理由の一つと指摘されている。モデルケースでは、本業の企業が従業員の残業時間の枠を設定。副業の雇用者はこの枠を踏まえ、法律上の上限を超えない範囲で従業員を働かせることができるとした。
例えば、A社(本業)の従業員が同社で9時間、B社(副業)で3時間それぞれ働く場合、A社は通常通り、1日8時間の法定労働時間を超えた1時間分について割増賃金を支払う。一方、B社は3時間すべてが割増賃金の対象となる。


また、東京新聞(電子版)は『<働き方改革の死角>副業・兼業の「労働時間の通算」問題決着 課題は低賃金で不安定な働き手を増やす恐れ』と題した記事を2020年7月4日( 06時00分)に配信している。

<働き方改革の死角>副業・兼業の「労働時間の通算」問題決着 課題は低賃金で不安定な働き手を増やす恐れ(東京新聞)

参考・兼業・副業促進案として「労働者の自己申告制度」
未来投資会議(第39回)が2020年6月16日官邸4階大会議室で開催された。配布資料によると、議案(1)兼業・副業の促進では兼業・副業の促進に向けた対応案として「労働者の自己申告制」が提案された。

兼業・副業の促進に向けた対応(案)
1.兼業・副業の現状と課題
・人生100年時代を迎え、若いうちから将来を見据えて、自らの希望する働き方を選べる余地を作っていくことが 必要。ウィズコロナ、ポストコロナの時代の働き方としても、兼業・副業などの多様な働き方への期待が高い。

・実態をみると、兼業・副業を希望する者は、近年増加傾向にあるものの、他方、実際に兼業・副業がある者の数は横ばい傾向であり、保守的。

・背景には、労働法制上、兼業・副業について、労働時間を通算して管理することとされている中、「兼業・副業先での労働時間の管理・把握が困難である」として、兼業を認めることに対する企業の慎重姿勢がある。

・このため、労働時間の管理方法について、ルールを明確化することが必要。

2.労働者の自己申告制について
兼業・副業の開始及び兼業・副業先での労働時間の把握については、新たに労働者からの自己申告制を設け、その手続及び様式を定める。この際、申告漏れや虚偽申告の場合には、兼業先での超過労働によって上限時間を超過したとしても、本業の企業は責任を問われないこととしてはどうか。

3.簡便な労働時間管理の方法について
・本業の企業(A社)が兼業を認める際、以下(1)(2)の条件を付しておくことで、A社が兼業(B社)の影響を受けない形で、従来通りの労働時間管理で足りることとしてはどうか。

(1)兼業を希望する労働者について、A社における所定の労働時間(*1)を前提に、通算して法定労働時間又は上限規制の範囲内となるよう、B社での労働時間を設定すること(*2)。
*1 「所定の労働時間」とは、兼業の有無と関係なく、各企業と労働者の間で決められる、残業なしの基本的な労働時間のことで、通常は、法定労働時間の範囲内で設定される。
*2 B社において36協定を締結していない場合は、「A社における所定の労働時間」と「法定労働時間」の差分の時間、B社で兼業可能。B社において36協定を締結している場合は、当該協定の範囲内で、「A社における所定の労働時間」と「B社の36協定で定めた上限時間」の差分の時間、B社で兼業可能。

(2)A社において所定の労働時間を超えて労働させる必要がある場合には、あらかじめ労働者に連絡すること により、労働者を通じて、必要に応じて(規制の範囲内におさまるよう)、B社での労働時間を短縮させる(*)ことができるものとすること。
*B社の労働時間の短縮について、労働者から虚偽申告があった場合には、上限規制違反についてA社が責任を問われることはない。

・また、これにより、A社は、従来通り、自社における所定外労働時間(*)についてのみ割増賃金を支払えば足りることとなる。
*企業によっては、所定労働時間を法定労働時間より短く設定し、所定外労働時間であっても法定労働時間内であれば割増賃金を払わないこととしている場合もあるが、その場合は法定労働時間を超える部分。


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