尊皇攘夷(じょうい)派の幕末の志士で、山形県庄内町清川地区出身の清河八郎が江戸で起こした「町人無礼討ち」事件に関し、新たな資料がこのほど、千代田区四番町歴史民俗資料館(東京)の調査で見つかった。生誕180年のことし、「殺人者」などとして描かれてきた負のイメージに対し、江戸幕府の権力としたたかに渡り合った人物像が浮かび上がった。
清河本人の著書などによれば、1861(文久元)年5月20日、江戸市中で仲間と酒を飲んだ帰り道、町人風の男がしつこくからんできたため、清河はこの男を切り捨てた。自ら奉行所に訴え出ずに逃走したとして、全国に手配される身となり、「酔って町人を切り捨てた」という評伝につながったとされる。
新資料は、資料館が2006年に入手した江戸北町奉行所同心、山本啓助の手帳。縦約13センチ、横19センチ、93枚からなる。清河を追って新潟や庄内を回った記録だ。
資料館調査員で早稲田大の西脇康講師(日本史学)らの調査で、手帳の中に、事件前日の5月19日、南北の奉行所合同で清河ら尊皇攘夷の有力志士8人を捕縛する命令が下ったとする記述が見つかった。
幕府の陰謀は指摘されてきたものの、無礼討ちの前に奉行所が組織的に動いていたことを示す資料は初めて。西脇氏は、清河に倒幕の意志はなかったが、開国に傾く幕府にマークされていたことは間違いないとして、「恐らく、捕縛の網が張り巡らされた上で追っ手の1人がからみ、本人は絶体絶命を察知して刀を抜いたのではないか。酔った上での軽挙妄動とは思えない」と分析する。
西脇氏は一方で「清河は『不慮の事』として片付けており、幕府の関与には触れなかった。登用されたい思いの表れ」と読む。清河は逃亡生活の後、幕府から将軍警護を命ぜられて浪士組を結成。しかし、最後は幕府の刺客に暗殺された。
庄内町の清河八郎記念館の広田幸記副館長は「政治的な伏線の上での事件で、酒乱の殺人犯ではないことを証明するものだ」と評価している。
清河八郎のマイナスイメージを決定的にしたのは司馬遼太郎の「竜馬がゆく」とされる。日本近世文学に詳しい山形大の山本陽史教授(日本文学)は「清河は保守派の性格が強調され、坂本竜馬の引き立て役として描かれた」と説明。「(新資料は町人討ちの)行動を説明する傍証であり、清河の名誉回復にもつながる」と話している。
手帳は10月4日~11月14日に四番町歴史民俗資料館で開かれる企画展で初公開される。
8/26 河北新聞
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清河本人の著書などによれば、1861(文久元)年5月20日、江戸市中で仲間と酒を飲んだ帰り道、町人風の男がしつこくからんできたため、清河はこの男を切り捨てた。自ら奉行所に訴え出ずに逃走したとして、全国に手配される身となり、「酔って町人を切り捨てた」という評伝につながったとされる。
新資料は、資料館が2006年に入手した江戸北町奉行所同心、山本啓助の手帳。縦約13センチ、横19センチ、93枚からなる。清河を追って新潟や庄内を回った記録だ。
資料館調査員で早稲田大の西脇康講師(日本史学)らの調査で、手帳の中に、事件前日の5月19日、南北の奉行所合同で清河ら尊皇攘夷の有力志士8人を捕縛する命令が下ったとする記述が見つかった。
幕府の陰謀は指摘されてきたものの、無礼討ちの前に奉行所が組織的に動いていたことを示す資料は初めて。西脇氏は、清河に倒幕の意志はなかったが、開国に傾く幕府にマークされていたことは間違いないとして、「恐らく、捕縛の網が張り巡らされた上で追っ手の1人がからみ、本人は絶体絶命を察知して刀を抜いたのではないか。酔った上での軽挙妄動とは思えない」と分析する。
西脇氏は一方で「清河は『不慮の事』として片付けており、幕府の関与には触れなかった。登用されたい思いの表れ」と読む。清河は逃亡生活の後、幕府から将軍警護を命ぜられて浪士組を結成。しかし、最後は幕府の刺客に暗殺された。
庄内町の清河八郎記念館の広田幸記副館長は「政治的な伏線の上での事件で、酒乱の殺人犯ではないことを証明するものだ」と評価している。
清河八郎のマイナスイメージを決定的にしたのは司馬遼太郎の「竜馬がゆく」とされる。日本近世文学に詳しい山形大の山本陽史教授(日本文学)は「清河は保守派の性格が強調され、坂本竜馬の引き立て役として描かれた」と説明。「(新資料は町人討ちの)行動を説明する傍証であり、清河の名誉回復にもつながる」と話している。
手帳は10月4日~11月14日に四番町歴史民俗資料館で開かれる企画展で初公開される。
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