翌日。
2043年の世界に戻ってきた52歳の歩夢はドラマの撮影で東京都内の某スタジオの控え室にいた。
「あ、そうだ。撮影の合間で読もうと思って、じいさんからの手紙をカバンに入れてきたんだっけ。」
そう思い出した歩夢はカバンの中から、30年前の世界で老人に手渡された手紙を取り出した。
そこにはこう書かれていた。
「お前がこの手紙を読んでいる頃には、2043年の世界でベテラン俳優として忙しい日々を送っている事じゃろう。
お前がタイムスリップしてきた時間では説得の邪魔をしてしまって済まなかったのう。
でも分かっておくれ。
わしは人生がもうそれほど長くないと分かった時に、30歳を過ぎた頃に夢を諦めてしまった事をとても後悔したのじゃ。
そう、わしはお前のさらに30年後、つまり2073年から来た82歳のお前じゃ。
お前は本当はタイムスリップして、22歳のわしへの説得に成功したのじゃ。
そのおかげでわしは、23歳の時にそこそこ良い会社に就職して、やがて自分で会社まで立ち上げてビジネスに成功したのじゃ。
美人な奥さんも貰ってなぁ、何不自由ない生活を送ってこられたのじゃ。
しかし、それが「幸せな人生だったか?」と問われれば、自信を持ってそうと答えられんのじゃ。
やっぱり若い頃に諦めてしまった夢が呪いの様にずっと自分につきまとっているのじゃ。
わしの時代では景気対策のために、大金さえ払えば抽選に参加せずともタイムマシンの搭乗権を獲得できるようになっとる。
そこでわしは大金をつぎ込み、2013年の世界に再び戻り、22歳のわしを説得する52歳のわしを邪魔して、若い頃のわしに夢を追いかけ続けさせたのじゃ。
本当に済まなかったな、52歳のわし。
でもきっとその甲斐あって、若い頃のわしが頑張ってくれて、52歳のわしは人気俳優として忙しい日々を送っている事を確信しておる。
この手紙をお前が読んでいる頃には、わしも2073年の世界に戻されておるじゃろう。
ほんの数日だったが、52歳と22歳の自分と熱く語り合えて本当に楽しかった。
最後になるが、タバコや酒はなるべく控えるようにしておくれ。
わしが82歳ではなく、もっともっと長く生きられるようにな。
それでは元気でな。」
「なんだよ、じいさん。っていうか30年後の俺… そうならそうと言ってくれれば良かったのに。っていうか俺、あと30年であんなにハゲて、あんなに老けるのか?」
52歳の歩夢が82歳の歩夢からの手紙を読み終えたのを見計らったかのように、歩夢の母が岐阜の実家から歩夢の携帯電話に電話をかけてきた。
「はい、何?」
歩夢はどうせまた金の催促だろうと思いながら電話にでた。
「もしもし、歩夢? あんた、そろそろお金送ってきてちょうだいよ~。」
予想通りだった。
「うん、分かったよ。もうすぐギャラ入るからさ。そしたら送るよ。
ちょうど今日もドラマの撮影なんだよ。今も控え室にいて、これからまた撮影の続きだから電話切るね。」
「撮影って言ったって、あんたはExtra(エキストラ)でしょ?
ギャラも大した額じゃないんでしょ?」
「まぁ、そうなんだけどさ…
でもな、おふくろ。たとえエキストラでも、たとえギャラは少なくても、俺は今すごく幸せな人生を送れていると思えるんだ。
おふくろ… 52歳にもなって今更だけど、俺を産んで、そして育ててくれて本当にありがとう。」
歩夢がそう言うと、歩夢の母の目からは涙が溢れて止まらなかっ…
「ちょっと歩夢! 何を綺麗に話をまとめようとしてるのよ!
私が泣くとでも思ったのかい? ふざけた事言ってないで、さっさとお金送ってきてちょうだい! 分かった?」
「…」
翌月、52歳の歩夢は再びタイムマシン搭乗権の抽選に応募した。
<完>
2043年の世界に戻ってきた52歳の歩夢はドラマの撮影で東京都内の某スタジオの控え室にいた。
「あ、そうだ。撮影の合間で読もうと思って、じいさんからの手紙をカバンに入れてきたんだっけ。」
そう思い出した歩夢はカバンの中から、30年前の世界で老人に手渡された手紙を取り出した。
そこにはこう書かれていた。
「お前がこの手紙を読んでいる頃には、2043年の世界でベテラン俳優として忙しい日々を送っている事じゃろう。
お前がタイムスリップしてきた時間では説得の邪魔をしてしまって済まなかったのう。
でも分かっておくれ。
わしは人生がもうそれほど長くないと分かった時に、30歳を過ぎた頃に夢を諦めてしまった事をとても後悔したのじゃ。
そう、わしはお前のさらに30年後、つまり2073年から来た82歳のお前じゃ。
お前は本当はタイムスリップして、22歳のわしへの説得に成功したのじゃ。
そのおかげでわしは、23歳の時にそこそこ良い会社に就職して、やがて自分で会社まで立ち上げてビジネスに成功したのじゃ。
美人な奥さんも貰ってなぁ、何不自由ない生活を送ってこられたのじゃ。
しかし、それが「幸せな人生だったか?」と問われれば、自信を持ってそうと答えられんのじゃ。
やっぱり若い頃に諦めてしまった夢が呪いの様にずっと自分につきまとっているのじゃ。
わしの時代では景気対策のために、大金さえ払えば抽選に参加せずともタイムマシンの搭乗権を獲得できるようになっとる。
そこでわしは大金をつぎ込み、2013年の世界に再び戻り、22歳のわしを説得する52歳のわしを邪魔して、若い頃のわしに夢を追いかけ続けさせたのじゃ。
本当に済まなかったな、52歳のわし。
でもきっとその甲斐あって、若い頃のわしが頑張ってくれて、52歳のわしは人気俳優として忙しい日々を送っている事を確信しておる。
この手紙をお前が読んでいる頃には、わしも2073年の世界に戻されておるじゃろう。
ほんの数日だったが、52歳と22歳の自分と熱く語り合えて本当に楽しかった。
最後になるが、タバコや酒はなるべく控えるようにしておくれ。
わしが82歳ではなく、もっともっと長く生きられるようにな。
それでは元気でな。」
「なんだよ、じいさん。っていうか30年後の俺… そうならそうと言ってくれれば良かったのに。っていうか俺、あと30年であんなにハゲて、あんなに老けるのか?」
52歳の歩夢が82歳の歩夢からの手紙を読み終えたのを見計らったかのように、歩夢の母が岐阜の実家から歩夢の携帯電話に電話をかけてきた。
「はい、何?」
歩夢はどうせまた金の催促だろうと思いながら電話にでた。
「もしもし、歩夢? あんた、そろそろお金送ってきてちょうだいよ~。」
予想通りだった。
「うん、分かったよ。もうすぐギャラ入るからさ。そしたら送るよ。
ちょうど今日もドラマの撮影なんだよ。今も控え室にいて、これからまた撮影の続きだから電話切るね。」
「撮影って言ったって、あんたはExtra(エキストラ)でしょ?
ギャラも大した額じゃないんでしょ?」
「まぁ、そうなんだけどさ…
でもな、おふくろ。たとえエキストラでも、たとえギャラは少なくても、俺は今すごく幸せな人生を送れていると思えるんだ。
おふくろ… 52歳にもなって今更だけど、俺を産んで、そして育ててくれて本当にありがとう。」
歩夢がそう言うと、歩夢の母の目からは涙が溢れて止まらなかっ…
「ちょっと歩夢! 何を綺麗に話をまとめようとしてるのよ!
私が泣くとでも思ったのかい? ふざけた事言ってないで、さっさとお金送ってきてちょうだい! 分かった?」
「…」
翌月、52歳の歩夢は再びタイムマシン搭乗権の抽選に応募した。
<完>