ときどき、年次有給休暇繰越数があるのに新規付与分から減数させられるという苦情、質問をたまに見かけます。ところがこの方式は民法にて規定されており、こちらの方がむしろ法にかなっているのです。すなわち当事者間で取り決め(意思表示)がなければ、年次有給休暇の減数は、債務者ここでは会社側有利な方から減数して扱ってよいのが、民法の定めです(民法488条4項2号)。
(同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当)
第488条 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第1項に規定する場合を除く。)は、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
3 前2項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。
4 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第一項又は第二項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
二 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。
比較的ながい条文の引用ですが、構造は明確です。古い繰り越し分からでなく新規付与から減数する方が、債務者の会社は有利となります。どれだけ有利(労働者にとって不利)かは、こちらの繰越展開図をごらんください。
有利な扱いを就業規則に明確にしてもしなくても、民法に規定したとおり取り扱ってよいのです。そういった取り扱いをして労働者とのトラブルをさけていきたのでしたら、就業規則に明確にしておくことが望ましいです(同条1項、3項)。
ただし、これまでしてきた減数を「古い繰越分」から「新規付与」へ変更することは、就業規則にあらたに規定することも含め労働者に対し不利益変更ですので、変更するに合理的理由、労働者への説明等、労働契約法にそった手続きを経ないことには、簡単には有効とはなりません。また学説には、この民法の規定は、年次有給休暇にあてはまらない、とする立場もあります。
(2023年9月15日投稿)過去記事を分離再編集