白牡丹というといえども紅ほのか
ある庭で白い牡丹を見た、白い牡丹といっても・・・という映画監督の黒澤明さんの
言葉に次いで挙げられた虚子の句です。
花の名随筆集という本の中に収められたもので
黒澤さんが友人と一緒にたまたま見た、庭の白い牡丹と青桐。
紅い着付けの上に白い水衣をつけているような牡丹、と
枝をきれいに払われた空を突っ切って立つ青桐から
自然に謙虚でなければならぬ、と感銘させられたそうです。
同じ場所で、同じものを見た友人も
不思議とまったく同じことを述べていたそうで
その後二人で話し合ったという内容。
黒澤さんが一口にいうと
柳は緑、花は紅、ということだと書いていました。
牡丹は牡丹の美しさ、青桐は青桐の美しさに徹していて
そのもの独自な生命に徹していないものは、自然の中に絶対ない、
・・そこから映画の話につながるのですが
いい映画は最も映画的である以外にはない、
日本映画が底をついた原因は、映画は映画であるというわかりきった真実を
間違った意識でふみにじった結果だ、と言われるのですが
わたしは映画にあまり詳しくないので難しいです。
ただ先日、熟練のガラス作家の方の作品を一堂に拝見する機会があって
長い時間手がけられてみえた高い技術と
鮮やかな水彩絵の具のように、透明なガラスに落とされて染みた色ガラスに
作家の方への尊敬と
自分の制作への、随筆と似たような反省を感じました。
随筆の最後に黒澤さんが挙げたもう一句
ちりて後おもかげにたつ牡丹かな
蕪村の句のような映画がもし出来たら、胸がドキドキする・・と。
昔ふらっと入った名古屋の地下の映画館で観た「まあだだよ」で
わたしはとてもドキドキしました。
最初、図書館でこの随筆本の美しい装丁に目がとまったのですが
高松松平藩の藩主松平頼恭が絵師に描かせた写生画帖の植物画で
くらげや魚類も有名ですね。
わたしも植物学の採集に描かれた植物画が好きなのですが
この小さな淡い黄色の花の外枠を白でくくってあるのが
とてもモダンだなぁ・・と
素敵でした。
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