今週、僕がとりつかれていた男がこの人、奥崎謙三。
昭和のアナーキストであり、戦争を経験した日本人の中で最も過激だった人の一人。
今、僕は「日本人にとっての(太平洋戦争という)過去の克服問題」について調べていて、知った。
彼の生涯については↓
http://blog.goo.ne.jp/okuzaki_kenzo
原一男監督という方が撮った渾身のドキュメンタリー映画で、その迫力や生々しさは半端ない。
内容については、既に色々な所で語られているので割愛。
http://blogos.com/article/41126/
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このドキュメンタリーの醍醐味は、元軍曹に、当時の最も悲惨な状況を語らせた点にある。
誰も語ろうとしない戦争での蛮行。
ドイツでも同様だったけど、日本の元軍人も戦争で実際に起こったことの最も悲惨なことは語らない。
語りたくない。語れない。思い出したくない。
色んな思いがあるのだろう。いずれにしても、「沈黙する」というのが、戦後の軍人の態度の典型である。
だから、僕ら戦後世代は、戦争中に人間がいかに極限状態に置かれるのかをありありと想像できない。
最近は、戦争を賛美する声も多くあり、また近隣諸国との軋轢もあり、「戦争」がそう遠くないという感覚を抱いてしまう。
「多分、大丈夫だろう」
みんなが、そう思う時が一番怖い。戦争は常に起こる。今も、内乱やテロをはじめ、世界各国で起こっている。
ジェノサイドは過去の惨劇ではない。
奥崎は、「二度と戦争を繰り返してはならない」、と訴え、戦争が起こる元凶として国家権力と(ほぼ一人で)戦い続けた。
(といっても、彼自身、とんでもないアナーキストで、また誇大妄想の持ち主で、尊敬できる人物ではないが…)
このDVDは、彼が、当時の元軍曹に、「語られない過去」を語らせた、という点で重要な作品だと思う。
そして、奥崎謙三というアナーキストを歴史的に残した、という点で稀有な作品だと思う。
彼は、どれだけ悲劇的な人生を生きようとも、「生」に満ち溢れていた。
今の日本人とは違う、「生への執着」があり、「自分への尊敬」を止めなかった。
むちゃくちゃな生き方をした人だけど、このDVDで一瞬見せる愛情に満ちた笑みを見ると、惹きつけられてしまう。
今、日本にこういうはちゃめちゃで無鉄砲で、あれほど無垢に、愚直に生きる男はいるだろうか。
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この作品は、過去の克服のためのメディアになり得るか。
今の僕としては、「ならない」と思わざるを得ない。
個人的には心が揺さぶられたけど、これを「教材」として扱うことには抵抗感がある。
でも、何度も見たい作品となった。
追記
きっと彼が幸せな境遇で育っていたら、こういう人間にはならなかっただろう。
けど、不幸だったからこそ、そして悪夢をみたからこそ、僕らは惹きつけられるんだとも思う。
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