昨日、ヴィジュアル系専門のレコード屋(CD屋だろ?!)で、年配の店員さんとお話をさせてもらった。
彼の話では、「現在のヴィジュアル系は、売れているバンドと売れていないバンドの差が非常に激しい」とのことだった。たしかに、97、8年頃のV系と比べても、その差はかなり激しい。おそらく成功組は、ムック、メリー、ナイトメア、ガゼット、シドといったバンドが入るのだろう。これらのバンドは、3000人~15000人キャパのホールやアリーナを埋めつくすだけの人気を誇っている。だが、その店員さんの話だと、「今、中間組がいない状態にあるんです。若いバンドはその地位をめぐってしのぎを削っている」、とのことだった。とはいえ、実際には、中間組がいないわけではないはずだ。たとえば中間組(中堅)として、アリスナイン、アンティック珈琲店、ファンタスマゴリア、D、12012、ヴィドールなどが考えられる。
では、店員さんは、なぜこうしたバンドが存在するにもかかわらず、「中間組はいない」と言い切ったのか。これが問題なのである。そこで、今回は、現在現役で頑張っているV系バンドマンたちへのエールを込めて、ネオ・ヴィジュアル系以降のV系のあり方について論じてみたい。
まず、現在、「中間組の不在」として考えられるのは、①成功組に特徴的な「カタカナ名ヴィジュアルバンド」以後のスタイルが不明である、ということがある。僕の意見に過ぎないが、いわゆる「カタカナバンド」はもう新鮮味をなくしている。最近もどんどんバンド名をカタカナで表記するバンドが続々生まれてきているが、どれも「亜流」な印象を受けてしまう。カタカタ名バンドはもはやネオ・V系のスタンダードにはなれない、と僕は考える。それからもう一つ。②「中間組の不在」が意味しているのは、奇抜な格好とド派手なメイクとロリータファッションなどをバンドの売りにするバンドは現在のV系トレンドには含めてはならない、ということである。現在、あるいは近い未来、V系の世界で成功しようと思っているバンドマン諸君は、安易に、かつてのV系バンドを真似ないほうが良いかもしれない。
最近のV系は、旧ヴィジュアル系インスパイア系バンド(X、初期ラルク、マリスミゼル、シャズナ、ラレーヌ、初期ディルなどにインスパイアされるゴテゴテの耽美なバンド/キュート・ロリータ系バンドetcたち:例えば、メガマソ、ヴィドール、D、ファンタスマゴリア、など)と、中期以降のディルやカリガリ・メリー・ムックにインスパイアされたダークなカタカナ名バンド(例えば、サディ、ジュリー、ギロ、ダリ、ネガ、ガネーシャ、ギルガメッシュ、バイオレット、ガイズファミリーなど)とに分裂しているように思われる。これをさらに遡れば、XやAIONやマリスミゼルやシャズナやサイコルシェイムetcをルーツに置く伝統的なVISUAL SHOCK系(あるいは耽美系)と、AUTO-MOD、DEAD END、DER ZIBET、BUCK-TICK、D'ERLANGER、ZI:KILLをルーツに置くポジパン系(あるいは黒服系)との分裂とも言うことができるかもしれない。(ここで分析が難しいのがLUNA SEAである。LUNA SEAは、一方でXに影響を受けながら、他方でポジパン系の影響も受けている。旧ヴィジュアル系の典型とも言えるSUGIZOと、ポジパン系の典型とも言えるINORANが共にいたバンドなのだ。また、後の世代に与えた影響力は、半端じゃなく、現在のあらゆるバンドがLUNA SEAを通っているほどである。ゆえに、LUNA SEAはカテゴリー化不可能である・・・)
いずれにしても、現在のV系における「中間組の不在」というのは、まさにこの両者の歪みによって生じている現象なのではないだろうか。厳しく言えば、今は、ケバケバな耽美系V系も、キュートな甘いV系も、ダークなポジパン系V系も、厳しい状況にある、ということだ。次世代のV系トップランナーの地位は、こうした類型に囚われない発想を打ち出すバンドが勝ち取ることになるだろう。V系は、ラーメンと同様、「破壊なくして創造なし」の世界なのだ。現状の観念を壊したり、ずらしたりすることで、新たな動きが起こる。V系には、規定された概念が存在しない。だから、常にV系は変化を起こしていく。その変化を作り出すバンドが次世代のトップランナーになり得るのである。それは、リスクを伴うものであるし、失敗する危険性も高いのだ。
次世代のV系のトップを勝ち取るための条件
①カタカナ表記のバンド名は避けるべし(現在飽和状態。僕はこれを「メリーインスパイア系」と呼んでいるが、これは現状ではかなり厳しいと思われる。)
②安易にロリータ系にはしることなかれ(これも飽和状態。また、ポピュラリティーを得るのも非常に困難。でも、マニア向けであれば十分にいけるかも)
③絶叫は可能な限り避けるべし(完全に飽和状態/ディルを超えるのは困難)
④V系の本質はテクニックのみにあらず(失敗例多し。V系は、もちろん技術が問われるジャンルであるが、技術を備えていても、成功する条件にはなりにくい)
⑤↑とはいえ、ルックスにこだわりすぎるな(イケメンは2人がベスト?!例えばメンバー全員が超かっこいいアリス九號などは、逆に「個性がない」と受け止められてしまう恐れがある。逆に超イケメンとそこそこのメンバーで編成されたバンドは、逆に、イケメンメンバーが引き立ち、それが魅力となって注目される可能性が高くなる)
⑥従来の価値観に囚われることなかれ(個性のないバンド多し)
⑦↑と連動するが、路線の変更は大胆に行うべし(ボウイ系からダーク系へと変身したBUCK-TICK、ヘビメタからクラシカルな耽美系に変身したX、ルナシー系からロリータ系に転向したシャズナ、耽美系から狂気・絶叫系に移行したディルアングレイらの勇気ある【変身】、【路線変更】を見よ)
こうやって、現在のV系を論じてみると、ネオ・V系のムーブメントも若干、下降気味ではないか、と思えてくる。ディルアングレイの国内外での大成功、ムック・メリー系の成功、ナイトメア/ガゼットの大ヒットなど、この数年間、V系にとって緩やかなバブルが続いていた(かつてほどではないが)。今後、ネオV系がどのような方向へと向かっていくのか。V系をこよなく愛する者にとっては、今後の動向が非常に気になるところである。かつてのV系没落のようにならないことを祈るばかりだ・・・
*このエッセイは半分本気、半分ユーモアの記事です。あしからず♪