Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

見ることと待つこと。

僕が教育/福祉/保育を考える際にいつも念頭に置いていることは、見ることと待つことだ。もっといえば、よく見ることと、じっくり待つこと。この二つは絶対に欠かせないと確信している。

でも、多くの人はよく見ることをしないし、待つことにも耐えられない(もちろん僕も同じようなもの。まだまだ道の途上・・・)。

相手のちょっとした動きやちょっとしたしぐさ、あるいは何の意味もなさそうな一言。そういったものをしっかり見逃さないでいられるか。見ることには忍耐が必要で、見えてくるまでじっくり待つしかない。待てない人間は、見ることをやめて、何かをしようとする。自分から何かをしてしまうことで、その「見る」という行為は中断されてしまい、結局何も見えてこないままで終わってしまう。見る行為はすぐにでもできるが、見えてくるまでには時間がかかる

最近気付いたのだが、僕の講義や授業ではほとんど私語や遅刻がない。もちろんしゃべることを許していないからだが、それだけじゃないことが分かった。僕は常日頃から、受講している学生たちをじっくり見ている。携帯電話をいじっている学生や寝ている学生や余所見をしている学生がいたら、そのつどすぐに注意している。それは、僕の話を聴けっていうだけではなくて、そういう小さいところを見てるぞ!という意思表明でもあるのだ。100人くらいの教室だって、しっかり見ようとすれば色々と見えてくるのだ。(教育という仕事の半分は「注意すること」だと思う)

けれど、そういう小さな部分を見過ごして、後になって手遅れになってしまうってことも多々あるのだ。見過ごしを繰り返すことで事が大きくなる。常日頃から現場をよく見ていれば、しっかり見ようとしていれば、分かることも多いのだと思う。ようは日ごろからしっかり見ようとしているか、その努力を怠っていないか、ということが重要なのだ。

もうすぐうちの学生たちが福祉施設実習に行く。その目標を全員分読んで赤ペンを入れたのだが、その多くが、「待っているだけでなく、自分から動いて主体的に活動する」ということを書いていた。本当に多かった。どうやら、「待つ」というのはいけないことのようだ。もちろん、何にもしないでただつったっているだけの実習生は必要ない。学ぶ意欲も何かを得ようという気持ちもない学生はすみやかに実習を取りやめるべきだ。でも、自ら主体的に動くことがほんとうにいいことなのかどうかは分からない。主体的に動くだけでなく、主体的に待つっていうことだってあるんじゃないか、と思うのだ。いうなれば、能動的に受動的になる、といったところか。単なる受身ではない受動的生。

僕はよく「積極的に何にもしない」ってことを言っている。これは河合先生の言葉のデフォルメなのだが、積極的に主体的に待ちながら状況をよく見る(考える・解釈する)という態度をいわんとしている。だけど、これを伝えるのは本当に難しい。単なる能動でも、単なる受動でもないのだ。「受動的能動」とでも言おうか、、、

みんな動かないと不安になる。動いていないと恐怖を感じるのだ。動かないとダメ、動かないとダメ、、、と。すべきことを見つける前に、どうでもいいことをやってしまう、どうでもいいことやとりあえずやることをやることで、今すべきことが見えなくなってしまう。みんな前のめりで生きようとしている。無駄なことやデメリットは排除するという考えを強くもっている。なんでもかんでも「率先してやってしまおう」とする。皆、先回りするのだ。

そうした行動すべてを停止しる。そして、まず立ち止まって、状況をよく見る。よく見た上で、そこで何が起こっているのかを吟味し、解釈する。で、その状況下で、何をしたらいいかを見えるがままに見ていく。考える。その時間は、外から見れば『待つ』ということになる。待ちながら、自分の方向性を見定めていく。

それは、「状況下にある自己」をたえず強く自覚することにつながっている。状況の中でおのれの方向性を見出し、それを見出すためにじっくりと待ち、見えてくるまでじっと耐える。そして、見えてきたことに基づいて、おのれの行動を決定していく。そういう態度でいられるひとこそ、現場の人の名にふさわしい人間なのではないだろうか。

そこで問題となっていること、そこで問わねばならないことは、自分が捏造したりでっち上げたりするものではない。そこで問われているもののうちに自分のすべきことが潜んでいるのである。それを見出すかどうかは、まさにおのれ次第、ということになるだろう。

見ることをやめて、見えるのを待つ。ちょっと態度を変えただけでも、随分と見え方が変わってくると思うのだが・・・

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