Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

武内伸さんから学ぶラーメン論

先日、技術とアウラの話をしました。

http://blog.goo.ne.jp/sehensucht/e/ee1eabcc85ea7eff9cabd851b36da625

それにどこまで関連するか分かりませんが、武内伸さんの本でも同じようなことを述べていました。

***

武内さんは、「生誕100年にも満たない歴史の浅さにもかかわらず、その発祥やネーミングの由来等、すべからく定説がなく、曖昧模糊としている」という点に、他の外食産業との違いを見出しています(p.138)。

さらに、「どこか謎めいていて、後ろめたさが漂っていた方が、グレードが高いといった特殊性がある」とまでいいます。謎めいていて、後ろめたさの漂うお店、まさに、そういうお店に僕らラーメン好きは惹かれるんですね。本来のラーメン好きの先輩たちは、そういうお店を確かに求めていたんだと思います。

武内さんは、こう言います。「小さくて、どこかひなびて汚い店に、赤地に白ヌキの『中華そば』の暖簾が掛かっていたりすると、それほど腹が減っていなくても、ついふらりと店の中に吸い込まれてしまうのが、ラーメンなのである」、と。

うんうん、と思ってしまいます。そうだよな~、そうなんだよな~、と。我が悪麺友のらんちばさんは、もしかしたら武内さんスピリットを受け継ぐお方なのかもしれない、と思うほどです。どこかひなびた汚いお店に、僕も強く惹かれます。そういうお店は、たしかに入るのが「後ろめたい」。それがいいんですけどね。

武内さんは、ラーメンと出会い、そしてゆっくりと食べて、感動する(?)プロセスこそ、「いうにいえない感動」だと言っています。「店構え、メニュー書き、さらにカウンター越しに見えるオヤジさんの一挙手一投足に、自然と目がいく。そして出されたラーメンは、まず視覚と嗅覚で味わう。次に、味覚が自分の期待を上回るものであったときの至上の喜びと感動。すべてのプロセスが、スパイスとなり、一杯のラーメンに、いうにいえない感動を覚える」(p.139)、と武内さんは言っていて、これもまた食べ歩き人間にとっては、本当に身にしみる事実(経験)なわけです。

こうしたラーメンの食べ歩きの喜びや感動が、ラーメンブームの中で、消されつつあることを、武内さんは1996年の時点で嘆いています。「マスコミの過剰ともいえる情報発信によって、味わうべきプロセスが、先にインプットされてしまう」、と、彼は過剰な情報発信による弊害を批判し、「いうにいえない感動」が損なわれていることを警告していたのです!

そして、技術とアウラに関する(と思われる)次の一文が続きます。

ラーメン業界自体もチェーン化、マニュアル化が進み、新しくオープンし、明るくきれいな店でも、そこそこの味を出すといった傾向が強い。ラーメン愛好者にとっては、旨いということはイイことには違いないが、本来味わうべきプロセスや凄みといった、付加価値的なスパイスを楽しむ醍醐味が、どんどん削り取られてきているのは悲しい事実である。

…[中略]… 一軒のラーメン屋に、己の命運を賭けて暖簾をくぐり、大ハズレだったときの失意のなかにも、なにか突き抜けるような快感。自分の目のなさ、修業の未熟さを恥じ、次なるチャレンジへ向けての決意を新たにする。こんな燃えたぎる熱意をわかせてくれる、ダイナミックなまずさを楽しめる店も、最近では姿を消しつつある」(p.138)。


武内さんの言いたいこと、「旨いということはイイことだといいつつも、ラーメンの本質はそこではないんだよ!」という気持ちこそ、僕の言いたいことなんですよね。

2011年の今では、チェーン化、マニュアル化のみならず、パターン化、流行化、ハイレベル化、ガラパゴス化など、いろんな弊害が各地で起こっているように思うのです。それをまとめて、「技術化」と僕は呼びたいんですね。

すごいレベルは高いのに、ラーメンの味自体はすごいのに、なのに個性を感じない。独自性を感じない。90年代以前には存在していなかった「高いモチベーション」をもった人がラーメン業界に入ってきているのに、味の向上と引き換えに、ラーメンを心から味わうプロセスがなくなりかけている。武内さんの批判は、今なお有効なラーメン批判となっているように思うのです。今の新しいラーメン店は、どこも「店構え、メニュー書き、さらにカウンター越しに見えるオヤジさんの一挙手一投足」が見えてこないんです。どこも、それなりにこだわっているように見えますが、それ自体がパターン化されていて、ホンモノっぽさを感じないんです。

まぁ、そもそも、ひなびた汚いお店と都内の最新店を比較すること自体、無理があるわけですが、今の若い店主さんは、そういう「ひなびた汚いお店」を「未来の自分の姿」としては見ていないように思うのです。若くして台頭した若い人気ラーメン店主さんは、「有名になりたい」という理由で、ラーメン屋さんをやり、成功しています。そういうのもありっちゃありだとは思いますが、本流ではないし、正直、勝手にやってろという気持ちもなくはないです。ラーメンを愛した先輩たちのことなど、眼中になさそうで、嫌な気持ちになります。

僕的には、この武内さんのスピリットをしっかりと受け継ぎたいと思う今日この頃です。

それにしても、この『超凄いラーメン』、本当に超凄いです(苦笑)。ちなみに、佐々木晶さんもこの本を読んで、ラーメンの食べ歩きを始めたそうです。改めて、武内さんの偉大さに驚く若輩ラーメンフリークkeiであります。

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