昨年末、念願の翻訳本を出版することができた。本当に念願だったし、初の翻訳本ってことで、本当にしんどかった。やらなければならない手続きも色々あったし、実際にウィーンに行って著者と訳の照らし合わせも何時間にもわたって行ったし、表紙の撮影も自分自身でやったし、なんとも「セルフプロデュース」って感じでたいへんだった。もちろん訳本が完成したときの感動はひとしおだった。
でも、まだ一冊目。翻訳業も僕のライフワークとして今後も積極的にやっていきたい。次に考えているのが、フランツ-ミヒャエル・コンラートという人の「GESCHICHTE DER SCHULE(学校の歴史)」という本だ。あっちではわりと有名なC.H.BECK社が出版元だ。
目次
1. 古代
学校の進化史的基盤
エジプト
ギリシャ
ローマ
2. 中世のヨーロッパ
古代後期から中世初期へ
中世盛期の大聖堂学校と修道院学校
世界的な学校制度の始まり
女子と女性の陶冶(Bildung)に向けて
3. 新時代:ヒューマニズム、改革、バロック
学校制度の改革の帰結
プロテスタント諸国の高等学校
福音主義ドイツにおける下級教育制度(Dash niedere Schulwesen)
カトリックの反改革
4. 近代:啓蒙主義と19世紀
初等教育制度
高等学校
中学校制度の成立
女子教育制度
5. 20世紀、21世紀のドイツの発展
ワイマール共和国
国家社会主義
「旧」ドイツ連邦共和国
ドイツ民主主義共和国
新連邦州の学校
新世紀の学校:PISAとIGLUとその他
参考文献
この本は文字通り、学校の歴史を述べた本で、古代エジプト時代から今日の教育までを網羅している。教育学を学んでいる人でも、学校の歴史を一通り概観している人はあまりいないと思う。僕も中高の教員免許証をもっているけど、学部時代になんらかの講義で学校の歴史をまるごと学んだという記憶はない。もちろん興味があったから色んな本を読み漁ったけど、「学校」の歴史っていうのはそれほどポピュラーじゃなかった。教育思想や教育哲学の歴史(つまり人物論や教育論の歴史)はたしかに結構あったけど・・・ デューイとかフーコーとかアリエスの本とかって学校の歴史に通じるものがあるけど、「学校そのもの」っていうより、「教育のあり方」に向けられていた。学校の歴史に関する本(個別の学校じゃなくて)って本当にあんまりない(みたい)
各種学校の歴史的研究 土方苑子
本書はどちらかというと、学校という建物/場所/空間がどのような歴史をたどって今に至っているのか、ということについて詳しく述べてくれている。エジプト時代に子どもたちはどういう通学路を通っていたかとか、修道院時代の子どもと学校とか、そういう方向性の本なのだ。読んでいて、ぐいぐいひきつけられる本だった。
F.M.コンラートさんは、1954年生まれ。現在は、アイヒシュテット・インゴールシュタット・カトリック大学の教授だ。アイヒシュテットはミュンヘンの北にある町。専門は、20世紀のドイツの教育の発展史。また、最近日本でも話題のPISAが学校の将来にとってどのような意味があるのか、ということについても積極的に議論している。本書の他に、「子ども期と家族」(2001)、「キンダーガーデン-始まりから今日に至るまでの幼稚園の歴史」(2004)、「子ども期-教育学入門」(2007)がある。(彼の大学の情報はこちら)
・・・
しかし、まずはなんといっても本書を全部翻訳しなきゃならない(汗) これがたいへんなのだ。でも、翻訳業は僕が大事にしている仕事の一つ。今年中に翻訳原稿を仕上げたいかな。
僕の心の中に、ベンヤミンの言葉でもある「翻訳者の使命」という言葉がある。僕は、ドイツ語が好きで、教育と福祉が大好きな人間だ。19歳からドイツ語を学び始めて、どういうわけか今に至るまでずっと続けている。「僕にしかできないこと」、その一つにドイツやスイスやオーストリアの教育・福祉の最前線を伝えること、というのがあるんだと思う(まだまだだけど)。僕ら日本人は、まだまだ欧州からたくさん学ぶべきことがあるんじゃないか、と思う。多くの人は英米(英語圏)にまなざしが向いているけど、せめて僕くらいは最後までドイツ語圏に思いを馳せ続けたいと思う。
僕の勤務校では、幼稚園教諭の育成も行っているが、幼稚園とドイツが全然結びつかない学生も多々いる。悲しいけどそれが現実だ。(おそらく今後もっと悲劇的な現状になるとは思うが)ドイツ語圏と日本の教育・福祉の架け橋になっていきたいと思う。