今日で、こうのとりのゆりかごが開設して、7年が過ぎた。
http://news.tbs.co.jp/20140509/newseye/tbs_newseye2197312.html
この7年で、92人の乳幼児がここに預けられた。
こうのとりのゆりかごは、92人の子どもの命を守った。
しかし、慈恵病院は、緊急下の妊婦への支援の手を緩めない。
蓮田先生の言葉で言えば、「攻めの支援」はさらに続く。
「赤ちゃんポスト」(こうのとりのゆりかご)を設置する慈恵病院(熊本市)は10日、運用から6年を迎えたとして同院で記者会見した。預け入れ件数が減る一方、2012年度の妊娠・出産に関する相談は過去最多の1000件。蓮田太二理事長は「周知が進んだ結果」と評価するとともに、母子を支えるために将来的には匿名出産できるようにする考えを示した。
相談は11年度の690件から大幅増で、県外からが約7割を占めた。田尻由貴子看護部長によると、以前は県外が約6割だったが、やむにやまれず相談に来た人もいるといい「全国の相談窓口が機能していない結果だ」と指摘した。
11年度までに受け入れたのは83人。相談を受けた中で、特別養子縁組につながったのは167人で、最終的に親が育てることになったのは198人に上る。
匿名出産については、是非、こちらの本を読んでください。(苦笑) 詳しく書いています。
ドイツでは2000年から12年で、およそ700人の赤ちゃんが生まれている。
日本では、ずっと年間20万の胎児が中絶によってその命を消されている。
…
さらに、こうのとりのゆりかごのみならず、24時間の緊急ホットライン(匿名相談)についても話題になってきている。
日本中の各地で、自身の妊娠に悩む女性たちがいる、ということが浮き彫りになるとともに、そういう女性への公的支援が全然ないことを明らかにした、と僕は思っている。
親が育てられない子どもを匿名で受け入れる「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」は10日で運用7年を迎える。設置する慈恵病院(熊本市)の蓮田太二理事長が9日、記者会見し、2013年度に寄せられた電話相談件数が前年比1.4倍になったことを明らかにし、病院の相談対応を強化する方針を示した。
慈恵病院などによると、13年度の相談件数は1445件と前年度の1000件を大きく上回った。昨年11月、TBS系で放映され、慈恵病院をモチーフにしたドラマ「こうのとりのゆりかご」が影響したと慈恵病院はみている。
相談内容は思いがけない妊娠や出産、養育不安、中絶など多岐にわたり、周囲に妊娠を隠したまま出産が迫っているような深刻な事例も増えているという。
慈恵病院は「SOS赤ちゃんとお母さんの相談窓口」を設置して社会福祉士や看護師など専従4人、兼任2人の態勢で相談対応に当たってきたが、専従5人、兼任1人にして相談対応を強化する。
こうした相談を必要とする女性のことを、「緊急下の女性」と呼ぶ。
彼女たちのSOSの声は、これまで行政に響くことはなかった。今も相変わらず、とんちんかんなことをやっている(後で述べます)。
慈恵病院はずっと、「こうのとりのゆりかご」で有名だったけど、実はゆりかご以上に力を入れてきたのが、この相談支援。
でも、ただ病院で妊婦が相談に来るのを待っているだけではない(このことはほとんど知られていない)。
相談と同時に、「同伴支援」というのをやっている。
電話を受けたら、支援が必要な人のそばに支援者が直接出向くのだ。
ドイツでは、「相談」と「同伴」は切っても切れない関係にある。日本ではこのことは全く意識されていない。
(児童相談所も、自宅訪問はあるけど、今やそのほとんどが「警察的」になってしまっている)
奇しくも、ドイツでは、この5月1日から、「内密出産法」が施行された。
この法律を受けて、なんと、中央官庁(日本の厚生労働省に近いけど、厚生労働省とは異なる「家族、高齢者、女性、青少年省」)が、国として、こうした緊急下の女性たちのために、全国一律の電話相談サービスを始めたのだ。
日本で例えれば、厚生労働省が公式HPを作って、そこで、24時間の無料の匿名電話相談サービスを開始した、という話だ。まず、今の日本の厚生労働省がそういうことをするとは思えないけど・・・
そのサイトがこちら↓
https://www.geburt-vertraulich.de/home.html
このサイトの入力するところに、自分の住所を入れると、すぐに自宅付近の支援団体へと接続する。
全国、どこであっても、ドイツの妊婦は孤立せずに、支援団体とつながることができる。
匿名出産に代わる内密出産も合法化されたので、つながりさえできれば、その後、誰にも知られずに出産して、子どもを特別養子縁組等に出すことができる。もちろん途中で考えが変われば、引き取ることもできるし、養子縁組先も必ず見つかる。
そこまでしてはじめて、緊急下の妊婦への支援となる。
ところが!
日本の厚生労働省は、こういうことを全くもって理解していない。そのことを如実に表している記事がupされた。
絶句だった。この国の上の人間たちは、こういう問題を全く理解していない、ということを示すだけ。
政府は少子化対策の新たな柱として、妊娠期からの相談支援の強化に乗り出す。
出産前後に育児不安や深刻な虐待が集中しているため、早期から相談に応じる「母子保健コーディネーター」を置くなど、子育て家庭を継続して支える仕組みを整える。今年度、希望する自治体でモデル事業として取り組んでもらい、全国へ広げる。
産前産後には、妊婦健診などに公費補助はあるが、育児不安や産後うつなどで悩んだ人が総合的に相談できる体制や産後のサポートなどはない。このため、厚生労働省は今年度、妊娠期からの包括的支援に取り組む市町村を募り、助成する。
具体的には、〈1〉保健師らが親子の多様な相談に乗り支援につなぐ「母子保健コーディネーター」の配置〈2〉孤立しやすい産前産後に先輩ママなどを話し相手として派遣〈3〉産後の体調回復を助産師らが応援する産後ケアの実施――に市町村が取り組むよう促す。
この記事で、慈恵病院や僕が訴えていることが全く伝わっていないことがよく分かった。
上からの制度設計とはいつでもこうなんだ。現実で起こっていること、そしてその最前線で頑張っている人の声を聴いて設計するのではなく、「こうすれば、世の中の人も文句を言わないだろう」程度のことで決着する。
専門家を増やし、箱を作り、綺麗な言葉をただ並べるだけ。その中身はスカスカ。何の緊張感もない。
「先輩ママ」という言葉には、もう絶句以外の何物でもなかった。事態の深刻さを全く分かっていない。
こうのとりのゆりかご開設7年が過ぎても、全然上に伝わっていないということだけは分かった。むしろ、この国の人たちの多くが、この問題から、たくさんのことを考え、学び、理解を変えていってくれている。今、赤ちゃんポストを非難する声は、ほとんどあがらない。
みんな、うすうすと、「匿名の妊婦支援が大事だ」と感じてきているように思う。
にもかかわらず、厚生労働省は、(こういう視点を出したのはよいこととしても)その本質、その問題性をまだ理解しているとは思えない。
まだまだ、この戦いは終わっていないんだ。
(ドイツは、匿名出産や赤ちゃんポストについての議論を激しく行い、着地点として「内密出産」を見出し、それを合法化した)
この問題は、僕らの問題でもある。
お上(行政)主導の福祉政策に対して、僕ら市民(住民、生活者)が異議を唱え、立法するくらいの勢いをもたなければいけないんだ。
法律に反対すること、新たな法を作ること、それもまた、民主主義社会における市民の役割だと思う。
これは、民主主義教育の問題であり、これがおろそかにされていることの現れともいえなくもない。
…
続く。