Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

母への手紙ーSterniParkからのメッセージ

SterniParkのBabyklappe(赤ちゃんポスト)に置かれている手紙の日本語訳(kei-version)です。


愛するお母さんへ

どんな人でも助けが必要な状況というのは、いくつもあります。あなたはご自分のお子さんをわたしたちの手に託したのです。それは、きっと、あなたにとってたやすい決心ではなかったことでしょう。わたしたちはそのことを理解しています。なので、わたしたちは、あなたの匿名性と秘密の保持をお約束いたします。

あなたのお子さんは、医療的な診断を受けた後に、8週間、しっかりとした里親家族に預けられ、大切に養育されます。その養育のすべてが極秘(厳密)に行われます。

あなたは大丈夫ですか?
わたしたちはあなたを支援できる状態にありますし、また支援したいと思っています。支援が必要な時はいつでも、相談にいらしてください。何も問いませんし、お金もかかりませんし、当然警察に通報することはありません!

ひょっとしたら、あなたは出産後の医療的処置が必要かもしれません。いつでも、わたしたちの助産師(Hebamme)が待機しています。また、わたしたちは全国的に様々な医療機関と連携しています。あなたの名前を尋ねたりすることはありません。費用もいっさいかかりません。

また、もしかしたら、せめてお子さんのお写真だけでも欲しいとお思いではないでしょうか。その際には、0000-000-0 000にお電話ください。

時間はあらゆる苦痛を癒すことはできません。けれども、いくらかは癒せるはずです。

これからの8週間以内であれば、いつでも、あなたにはお子さんを引き取る可能性が残されています。わたしたちのところで生活することもできます(Du koenntest auch bei uns wohnen)。それはお一人であっても、お子さんとご一緒でも構いません。もちろん、無料ですし、匿名で構いません。

24時間、わたしたちはあなたのためにいます。そして、あなたがお望みであれば、一緒に解決の道を探っていきましょう。

あなたの幸せを願っています。そして、多くの力が与えられますように。

24時間無料電話番号
0000-00-0 000


全訳です。

これが、ドイツの赤ちゃんポストから母親へのメッセージの全貌です。一言一言が、確信と信念に基づいているように思います。

ここで、繰り返される「無料」と「匿名性」と「秘密保持」。ともすると、今の時代では、全部否定的に捉えられてしまいそうですが、、、

いや、本当に、厳しく批判されそうです。

これだけ財政が緊迫しているのに、無料とはどういうことだ。妊娠も出産も、自己責任ではないのか。情報開示が求められる時代に、匿名性とはどういうことだ。親の養育義務はきちんと遵守すべきではないのか。隠ぺい体質こそ、今の時代で最も許されないことではないか。悪しき官僚機構である。…

ゆえに、赤ちゃんポストは、「運動」なんです。現代社会における母子福祉闘争、あるいは教育闘争と言ってもいいかもしれない。ある種の戦いなんですよね。

僕は、赤ちゃんポストを求めるお母さんたち=社会的に追いつめられている人たちのための理論を探っています。それは、社会的に未熟な存在=子どもたちの論理でもあります。経済学や政治学、あるいは自然科学は、ある意味、強者の論理です。経済学で、「無料」の大切さを論じることは極めて難しいと思います。無料の大事さというと、どうしてもチャリティーになってしまいます。チャリティーの経済学的意味というのは、なんとも微妙な表現です。

教育の論理も、政治-経済学の論理で説明されることが多々あります。ですが、シティズンシップ教育というのも、ある種、政治参加という極めて高い目標を設定しています。

僕は、政治や経済から疎外された(というと言い過ぎ!?)人たちの側からの論理こそ、本来の教育が目指す論理だと思います。「本来の」というと語弊がありますかね。「普遍の教育」が目指す論理と言ったほうがいいかもしれません。

一般的な教育は、「勝ち組を目指す教育」となっています。よい点数、よい成績、よい進学先、よい大学、よい就職先、よい人生、よい老後、という風に。こうした「よさ」は、他者との比較の中で生まれてくる「よさ」=「価値基準」です。もちろん世の中には、絶対的にエリートが必要でしょうけれど、エリートのために公教育があるわけではないはずです(歴史的には、そういう側面は常にありますが…)。

けれど、本当のエリートは、負けた人を支える仕組みが見えている人(あるいはそれを求めている人)のことを言います。自分の利益や自分の名誉のためではなく、公共の福祉のために貢献できる人のことをいいます。究極的には、全ての人を大切にできる社会を実現しようとする人が、本当のエリートです。あるいは、世界平和のために尽力できる人が、根本的な意味でのエリートだと僕は思います。

そう考えると、「本当によいエリート」は、「勝ち組を目指す教育」によっては生まれないのです。本当のエリートが増えなければ、この社会はよくならない。社会全体の利益を考え、現代的にはグローバルな利益を考え、もっと言えば、人類全般、いや、この地球全体の利益を考えられるエリートがいなければ、この社会はよくはなりません。

上にある「無料」「匿名性」「秘密保持」は、まさにそういう意味で、真のエリート的な思想だと僕は思います。この三つを守ることは容易ではありません。

ですが、それを守ることが、危機的な状況下にある人を救うためにはどうしても必要なのです。

(了)

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