東京・有楽町。ここ十年で大きく様変わりしており、先日もファッションビルの「ルミネ有楽町」がオープンしたばかりだ。
しかし、このお洒落感が漂う近代的な街に、かつてアレンジボールや雀球を打つことができる、古いパチンコ屋(アレンジ屋?)があったのをご存知だろうか。
「かもめ」という、いかにもレトロなネーミングの店である。
駅前の飲食店街を少し入った、小汚い路地(朝日街通り)にポツンと建っていた小店で、「なんで都心にこんな昭和っぽい店があるのだろう?」と驚いた方も多かったのではないか。
店の前には、クルクルと回る電動式の看板があり、そこには「アレンジボールが打てる店」「雀球」なんて謳い文句が書いてあった。
店内は非常に狭く、一列10台ほどのシマが6列ぐらいしかなかった。
そして、設置機種はすべてアレンジボールか雀球のみ。羽根モノ、デジパチ、権利モノといった普通の機種は、どこにも見当たらない。当然、CR機なんて置いてある訳もなく…。
しかも、電動ハンドルではなく、手打ち式の台ばかり置いてあり、まさに昭和40年代のパチンコ店を、そのまま現代に再現したかのような雰囲気だった。流石に、昭和40年代のパチ屋を直接知っている訳ではないが、映像や写真などでは何度も目にしている。
さて、「かもめ」だが、店内のそれぞれの台の横には「メダル貸し出しサンド」がついており、そこに200円を投入するとコインが3枚出てくる。
購入したコインを台に入れると16発の玉が出てきて、手打ち式アレンジボールの場合は、それを一発一発打ち出していき、盤面下の1から16までの数が書かれた入賞スポットに玉を入れる。
エキサイトやアレジンなどのアレパチを打った方ならば、なんとなくイメージが湧くのではないか。
また盤面の上部には、1から16までの数字が不規則に並んだ「ビンゴ」のような役モノがあり、入賞した数字と同じ数字のランプが次々に点灯していく。16発打って、ランプがタテ・ヨコ・ナナメに揃うと当りとなり、賞球(メダル)が下皿に出てくる仕組みであった(台ごとに特性は異なる)。
いっぽう雀球の方は、盤面にテレビモニターが付いていて、あたかもコンピュータ麻雀のような雰囲気が漂っていた。盤面下の入賞スポットには、数字ではなく麻雀牌が書かれており、16発打って手役が完成するとコインが出てくるようになっていた。
仕組みは非常に単純だが、実に面白いゲーム性だったと思う。また、安銭で割と長く遊べるので、昼休みや仕事の帰りにちょくちょく寄っていた。
獲得したメダルは換金できた筈だが、大抵メダルを使い切ってから店を出ていたので、この店で景品を取ったことは一度もない。完全にゲーセン感覚で立ち寄っていた。
店長のOさんがとても温厚な方で、いつ行ってもカウンターでニコニコしながらお客を眺めていた。儲ける云々よりも、打ってる人を楽しませたい、という姿勢が強く感じられた。屋根裏の倉庫から部品を取り出しては古い台の修理に励む店長の姿が、今も目に焼き付いている。
この「かもめ」だが、残念ながら数年前に再開発のあおりを受けて閉店してしまった。
しかし、まるで「都会のオアシス」のようなこの有楽町の名店は、これからも私の記憶から消えることはないだろう。