Life is ART!

高齢者施設で活躍しているアートワークセラピスト達の旬な声をお届けします。

はじまりの春

2017-02-25 23:40:36 | 素敵な現場
例えば、新しい職場。
例えば、公園デビュー。
例えば、知らない人ばかりのセミナー。

新しい人間関係は、大なり小なり不安と緊張をはらみます。けれど、もし

「長年住み慣れた家を去り一人、高齢者施設へ入る」

年老いた自分がそんな状況になった時、
私たちはどんな思いにかられ、新たな人間関係を築いていくのでしょうか。



この日、施設入所して間もないM様が、初めてアートワークセラピーの場にいらっしゃいました。

顔馴染みの皆様からは、机に並んだ桃の花やお雛様に歓声が上がっています。
けれどM様は周囲には目もくれず、固い表情のままセラピストにおっしゃいました。

「私は色んなことをしてきたのよ。たくさんのことをね」
その沈んだ声色に、私はただ頷くことしかできませんでした。

M様が今抱える嘆きや、期待や、寂しさや、今まで築いてきた人生の喜怒哀楽。それらを私たちセラピストは実際には何らわかりません。

だからこそ丁寧に、外の世界へ心を橋渡しするアート素材を準備します。
今日の素材は、和紙です。


「Mさん、どの色がご自身に近い色と感じますか?」
M様はこの、どこか安心感のある肌色の和紙を選ばれました。







そしてこの作品を完成させました。



M様から離れた席の方々が、M様の作品を見て手を振っています。

「こっちにも見せて~」
「わあ、いいね!」
「素敵よ」

M様はその方々に、手を振り返したり、お声をかけたりはしませんでした。
でもその様子をつぶさにじっと、伺っていらっしゃったのです。

帰り際、M様はセラピストに、はにかむ笑顔でこうおっしゃいました。
「今日は楽しかった。…このくらいなら私もできるのよ」

春が来ます。
どなたにも、はじまりの新しい春です。


シニアアートワークセラピスト 高橋 恵子



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