Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

北村 薫「空飛ぶ馬」

2013-09-23 05:01:00 | ミステリ小説
親交のある落語家の円紫師匠と女子大生の「私」のコンビが身の回りに起きた不思議な事や謎を解き明かす物語です。「私」が円紫師匠に語り、その話を聞いた円紫師匠が深い見識と論理的帰結により導き出した答えが謎めいた出来ごとの真相だった、と云ったスタイルの物語です。日常の謎を扱ったもので、殺人など起きなくてもミステリーは書けるとキャッチコピーのような言葉が生まれた作品でもあります。「空飛ぶ馬」に続いて「夜の蝉」「秋の花」「六の宮の姫君」「朝霧」と書かれましたが、女子大生の「私」が物語の続きと共に成長する姿も描かれています。高校の国語教師であった著者の確かな言葉使いの文章で書かれたこの本は、一種のアームチェア・ディテクテイブと云えるかも知れません。相手を思いやる心を持って行動する人を第三者が見ると意外な奇妙な行為、行動に見えてしまうことがあります。円紫師匠は深い洞察力でそのあたりを解き明かしたり「私」にヒントを与えたりします。こういったスタイルのものは古くからありますが日常の謎をテーマにしたものを広く認知させた著者の功績は大きいものと思われます。
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乙 一「暗いところで待ち合わせ」

2013-09-23 00:59:30 | ミステリ小説
意味深なタイトルですがミステリーです。ホラーとかそう云った内容のものではありません。しかし、本格ものでもありません。むしろ純愛小説的なシチュエーションと展開を見せるストーリーです。社会人でありながら他人との関わりあい方に不器用な男と、眼に障害を持つ女性との奇妙な同居生活が起きます。それは駅のホームでの事件のせいです。彼は職場の男性と上手くいかずトラブルを抱えていました。その先輩がホームから転落し死亡する事故が起きます。同じホームにいた彼は警察に疑われます。このため駅のホームが見えるアパートの一室に忍び込みます。そこには眼の不自由な若い女性が一人暮らしているのを彼は知っていました。息を殺しじっとホームの見える窓辺に潜む彼。彼女の方も人の気配に気付きます。しかし、危険な相手ではないことを悟り気付かないフリをします。こうして二人の奇妙な同居生活が始まりました。相手を思いやり少しずつ心が通い合うところなど、交互に視点を変えた描写で読ませる上手さです。読後の余韻は心地よいものでした。
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三津田信三「首無の如き祟るもの」

2013-09-22 08:29:33 | ミステリ小説

技巧を尽くした本格ミステリーです。怪異とホラー要素を上手く融合させたストーリーで読者をミステリアスな世界に誘います。
探偵役の作家 刀城言耶シリーズのなかでも一番の出来の良さではないかと思います。探偵が究明する真相も二転三転し、そのプロットの複雑さ
にも目を見張ります。
たった一言のセリフが重大な伏線であったり、動機や犯行のあり方も良く出来た背景や舞台装置によってとても自然に感じ無理のないストーリー
となっています。 横溝正史のような世界感の、こういったタイプの作品を提供してくれる作家は彼一人をおいて見当たらず、とても貴重な存在であると思います。
こういった路線のミステリーをもっと書き続けて欲しいものです。
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石持浅海「扉は閉ざされたまま」

2013-09-22 07:36:24 | ミステリ小説



ミステリーのジャンルで云う「密室もの」です。誰もその部屋には出入りしなかった。物理的に出入り出来ない場合と、大勢の人の眼があり誰も出入りしていないのが確認出来る場合などがあります。
しかし、部屋の中には死体があり明らかに他殺となれば、いったいどうして犯行が行われたのかと興味を呼ぶお話になるわけです。なぜ密室なのか? それはすべて犯人側の都合によります。
不可能犯罪を演出することにより自分は捕まらない。立証出来ない状況を作り出すことにより逮捕を免れると云う手段です。その他に犯人自身のアリバイ工作とか色々ありますが犯人側による理由の他にありません。
古典と云われるなかには傑作が沢山ありますが、人智にも限りがあるはずですからそろそろこのジャンルのものはネタ切れであろうと思われます。有名な名作の応用しか道はない、そう思っていました。

しかし、この本は密室にする理由が成立する新しい手口で斬新さを感じました。そして犯人側の視点で書かれていて死体のある部屋の扉を閉めたまま、ある理由で犯行を疑われないように時間を稼ごうとします。
仲間の不在を不審に思う皆を上手く誤魔化していましたが、犯人である彼に食い下がる女性がいます。もともと、聡明で頭脳の切れる彼に一目置いていた彼女ですが、その彼に挑む彼女も負けてはいません。
こうして二人の心理戦、頭脳戦が始まります。閉じられた扉の前で二人の戦いが上質で知的な会話に依って繰り広げられ、時間を追って少しずつ真相が明らかになってくる展開も見事です。
読んでみる価値のある一冊、そう断言できるミステリーと云えます。


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乾くるみ「イニシェーション・ラブ」

2013-09-22 06:57:12 | ミステリ小説




有名な本です。最後のページで読者が「えっ?」となります。でも、それにはまったく予備知識なしで読んだ場合ではないでしょうか。
最後のページ、最後の一行で大ドンデン返しのある仕掛けの本として知った上で読んでみると勘のよい読者は仕掛けに気付くかも知れません。
でも、ボンヤリと妙な感じに気付いていても全体の仕掛けの上手さには再度読み返してみないと解からないところが多いのも事実です。
こう云った点から二度読み返したくなるミステリーとして、ある意味有名な本となっています。
このトリックはやはりやったもの勝ちと言えます。つまり他の作家がこれに似たものや応用したものを書いては「イニシェーション・ラブ」の二番煎じと酷評されますから。
そういった意味ではこの作品は、ミステリーにおける古典の座をひとつ手に入れたのかも知れません。ミステリーファンにはこの本は時を経ても語り継がれる本でしょうから。
ドンデン返しのある本としてのカテゴリーに必ず入っている一冊なのは間違いありません。
未読の方は手にとって騙されてみるのも楽しいでしょう。
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