はい、しげのですが?

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読書ノート:「四番目の恐怖」1988広瀬隆、広河隆一 講談社

2011年05月10日 22時06分55秒 | 原発と放射能
■1986年のチェルノブイリ原発事故を契機に、日本でも反原発運動はひとつの高揚期をむかえてゆく。その頂点が1988年4月のの脱原発1万人集会への2万人の結集だった。

■しかし、その日を境に、運動は停滞してゆく。僕自身も、以降、「脱原発」を標榜する活動家たちとは別の道を歩むことになり、結局、原発の問題には取り組まなくなった。

■2011年3月11日が引き起こした事態を理解するのに、僕はこの1988年に立ち止まったところからはじめなければならないと思っている。当時指摘されながら、解消されず、ふたたび繰り返される問題を捉え返すためだ。あの時点の認識と警告を集約しているのがこの本だ。「四番目の恐怖」自体は、当時講談社から創刊された雑誌「DAYS JAPAN」の特集記事である。前半がこの記事の再録、後半で原子力関係のさまざまなスキャンダラスな内幕暴露になっている。

(図書館から本を借りたら、返却期限までに読書ノートを終えなくてはならない。
この期限付きの状況が、とにかく読むことを強制する効果を持っている。)

■■■「四番目の恐怖」1988広瀬隆、広河隆一 講談社■■■

■1.スリーマイル島

以下はWikipediaの引用。
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放出された放射性物質は希ガス(ヘリウム、アルゴン、キセノン等)が大半で92.5 PBq(250万キュリー)。ヨウ素は555GBq(15キュリー)に過ぎない。セシウムは放出されなかった。周辺住民の被曝は0.01 - 1mSv程度とされる(後述)。この被害は1957年に起きたイギリスのウィンズケール原子炉事故に次ぐ。
【人体への影響】
en:American Nuclear Societyは、公式発表された放出値を用いて、「発電所から10マイル以内に住む住民の平均被曝量は8ミリレムであり、個人単位でも100ミリレムを超える者はいない。8ミリレムは胸部X線検査とほぼ同じで、100ミリレムは米国民が1年で受ける平均自然放射線量のおよそ三分の一だ」としている(1ミリレムは0.01mSv)。
放射性降下物による健康への影響に関する初期の科学的文献は、こうした放出値に基づいて、発電所の周辺10マイルの地域におけるガンによる死者の増加数は1人か2人と推定している。10マイル圏外の死亡率が調査されたことはない。1980年代になると、健康被害に関する伝聞報告に基づいて地元での運動が活発化し、科学的調査への委託につながったが、一連の調査によって事故が健康に有意な影響を与えたという結論は出なかった。
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以上の記述がある一方で、「四番目の恐怖」のレポートによれば、10万人あたり1100人という癌の発生率が確認されているという。スリーマイル島の北北西の方位に癌や白血病の大集落、という記述もあり、白血病や癌で死んだ具体的な名前もあがっている。

■2.チェルノブイリ

事故からまだ2年しか経過していないこともあり、記述も12ページ分と少ない。この内容を補完するのは、1992年に岩波新書で出た広河隆一「チェルノブイリ報告」。

■3.ウィンズケール

Wikipediaによれば、1947年に着工され、2003年に閉鎖された。
以下、Wikipediaより引用
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1956年10月17日、ウィンズケールに隣接するコールダーホール原子力発電所が、マグノックス炉の方式で世界初の商用発電を開始し、名称も「ウィンズケール・アンド・コールダー研究所」 (Windscale and Calder Works) となった。なお、世界初の原子力発電所は旧ソビエト連邦のオブニンスク発電所である。
1957年10月10日、ウィンズケール火災事故が起きる。この事故は世界初の原子炉重大事故となった。英国北西部の軍事用プルトニウムを生産するウィンズケール原子力工場(現セラフィールド核燃料再処理工場)の原子炉2基の炉心で黒鉛(炭素製)減速材の過熱により火災が発生、16時間燃え続け、多量の放射性物質を外部に放出した。避難命令が出なかったため、地元住民は一生許容線量の10倍の放射線を受け、数十人がその後、白血病で死亡した。現在の所、白血病発生率は全国平均の3倍である。当時のマクミラン政権が極秘にしていたが、30年後に公開された。なお、現在でも危険な状態にある。2万キュリーのヨウ素131が工場周辺500平方キロを汚染し、ヨウ素(ヨード)の危険性を知らせたことで有名である。また水蒸気爆発のおそれから、注水に手間取った。
1971年、核兵器の研究および生産拠点としての操業終了に伴い、新たに設立された英国核燃料公社 (BNFL: British Nuclear Fuels Limited) に生産部門が吸収統合され、ウィンズケールの施設の大半が BNFL の管理下となった。
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「四番目の恐怖」が書かれた当時は、ウィンズケールは核燃料再処理工場として稼動し、周辺の子どもが白血病にかかっていることが記されている。白血病の原因としてはプルトニウムの排出によるもののようだ。「家庭の中で使っている掃除機の埃から、かなりのプルトニウムを検出する状態である。」と記されている。

■4.青森・六ヶ所村

以下、Wikipediaより引用
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1993年から約2兆1,900億円の費用をかけて青森県上北郡六ヶ所村弥栄平地区に建設が進められている。現在試運転中である。2010年10月竣工予定だったが、2012年9月に最大で2年後まで竣工が延期されることが判明した。

概要

日本全国の原子力発電所で燃やされた使用済み核燃料を集め、その中から核燃料のウランとプルトニウムを取り出す再処理工場である。最大処理能力はウラン800トン/年、使用済燃料貯蔵容量はウラン3,000トン。2010年の本格稼動を予定して、現在はアクティブ試験という試運転を行っている。試運転の終了は当初2009年2月を予定していた。しかし、相次ぐトラブルのため終了は2010年10月まで延期されることが発表されていたが、2010年9月になってから、さらに完成まで2年延期されることが発表された。完成までの延期はこれまでに18回にも及ぶ。これら延期のため、当初発表されていた建設費用は7600億円だったものが、2011年2月現在で2兆1930億円と約2.8倍以上にも膨らんでいる。

茨城県東海村に日本原子力研究開発機構が所有する再処理工場(東海研究開発センター核燃料サイクル工学研究所 最大処理能力:ウラン210トン/年)を置換する施設とされ、青森県六ヶ所村の敷地内にはウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物埋設センター、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターが併設して建設されている。今後 MOX燃料工場の建設も予定されており、核燃料サイクルのための核燃料コンビナートを形成する。
この施設は核燃料サイクル事業で先行するフランスから技術協力を受けており、現在でもフランス人技術者が複数名、本施設で働いている。
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「四番目の恐怖」はいう。「この産業は、エネルギーを生み出すのではなく、これから果てしなくエネルギーを食い、残り少ない貴重な石油を飲みつくす怪物だったのだ。それが、このシナリオの厳しい現実だ。・・・問題の死の灰は、過去わずか12年半の累積量を実績計算しただけで、もうすでにチェルノブイリ原子炉の144倍、つまり144年分の量に相当する。このわずか1パーセントが漏れただけで、チェルノブイリ爆発事故をしのぐという意味だ。」


■5番目の恐怖

主に、高レベル廃棄物を保管処理する技術が確立していないことを暴露している。

「高レベル廃棄物は、チェルノブイリ原子炉から全世界に飛び散ったと同じ死の灰を、まずガラスに溶かし込み、ボンベのようなステンレスの容器(キャニスター)に閉じ込めるプランだ。
電力会社のPR館などを訪れると、このガス・ボンベのような容器が陳列されている。重大な問題は、このような実物がこの世に存在しないことである。・・・
このステンレスのキャニスター1本の中に、どれほどの放射能をつめるつもりかと尋ねられ、答えて曰く、「40万キュリー・・・低レベル廃棄物のドラム缶の数百万本くらいに相当する」
わずか1本で40万キュリーとは、動燃が発行しているパンフレットの表紙のように、横に女性が立てばこの人は即死なのである。・・・」

■原子力発電所建設の目的

原子力発電所建設の目的は、土木事業の利権あさりにある、というのが広瀬氏の見解だ。ここで電力会社の原発必要論に隠されている重大なからくりを暴露している。
1988年5月現在の電力会社のPRに見られる必要論は、
「発電所は真夏の電力消費がピークに達する時にも30パーセント余るほど大過剰であると言われているが、夏には渇水があるため、現有の水力発電1890万キロワットのうち660万キロワットが使えなくなり、1230万キロワットに落ちる。さらに火力発電の能力9370万キロワットのうち、夏には定期点検のため680万キロワットも運転できなくなる。その結果、8690万キロワットに能力が落ちる。こうして火力と水力を合計しても、9920万キロワットにしかならない。昨年8月に需要のピークが記録された日のうち最大3日間を取り、これを平均すると、日本全国で1億1449万キロワットにたっしているのだから、原子炉36基をすべてストップさせると発電能力が足りなくなる。1529万キロワット分が不足するから、少なくとも原子炉2800万キロワットのうち、半分以上は必要である。しかも発電所内で使用する電力300万キロワットと、事故による停電などに対する余裕を見込めば、ほとんどぎりぎりの線を維持しているに過ぎない。」

ここには、電力需要がピークに達する時期を選んで火力発電所の定期点検をするというトリックと、5月、6月ごろから故意にダムの貯水を減らし、夏8月の稼動を20パーセントまで落とすという「創作された渇水」が背後にあるという。加えて、火力発電を中心とした1987年の原発以外の本当の発電能力は、1億4816キロワットに達しており、当時の原子力2800万キロワットがすべて停止しても、まったく電力不足を起こさないことが記されている。

つまり、「原発を止めれば電力が足りなくなる」というのは、当時からデマだったことになる。

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