福祉新聞 2012年8月27日「論壇」
「障害者支援法 提言実現の「意志」持とう」
佐藤久夫 (元・障がい者制度改革推進会議総合福祉部会長/日本社会事業大学教授)
6月に障害者総合支援法(「法」)が成立し、来年4月に実施される。
「法」は、
- 障害者自立支援法の名称を変え、
- 「共生社会の実現」、「どこで誰と生活するかについての選択の機会の確保」等の理念を定め、
- 一部の難病による障害者を対象に追加し、
- 障害福祉計画でのニーズ把握を義務化し、
- 重度訪問介護の対象を拡大する。
- 3年を目途に、常時介護を要する障害者の支援、移動支援、就労支援、その他の障害福祉サービスの在り方、障害支援区分認定を含む支給決定の在り方等を検討する。
しかし障がい者制度改革推進会議総合福祉部会の骨格提言とは大な落差がある。
まず
- 必要な支援を受ける権利を示さず、
- 依然谷間に置かれる障害者が残り(多くの難病患者、難聴者や中軽度知的障害者等)、
- 市町村が支援をしぶらざるをえない財政構造が維持され、
- 相談支援体制の独立性が目指されず、
- 利用者負担制度を見直さず、
- 報酬制度を変えず(日額制や常勤換算等)、
- 3年目途の検討では骨格提言が生かされる保障がない。
小宮山厚生労働大臣は国会答弁で繰り返し述べてきた。
「骨格提言は障害者の願いが詰まった重いものでぜひ実現したい。しかし予算の壁などがあるので段階的・計画的に。すぐ出来ないものは検討項目に入れた。骨格提言に沿って、かつ障害者の意見を反映させて検討する。」
国会で約束した大臣の言葉を信じたい。
今後どう取り組むべきか。
まず、検討項目を骨格提言に即して理解することである。
とくに「その他の障害福祉サービスの在り方」には、利用者負担、報酬、国・地方の財政負担のあり方、障害者の範囲等も含まれる。
第2に、専門職や行政の知恵を最大限反映すべきである。
骨格提言は基本方向を示したが、その実施には基準や体制等の準備が必要となる。
第3に、地方の自治体や障害者団体からの提言や実態紹介が必要とされる。
基本法の地方の合議制機関の役割も重要である。
第4に、透明性を確保し、データを公開して議論すべきである。
例えば、個別ニーズ評価の方式に関する国際的国内的な調査研究と試行事業。
第5に、もっとも重要な点は、政府や関係者が骨格提言実現の「意志」を持つことである。
例えば財政難。骨格提言実現の費用推計調査を実施すべきである。財政難を「口実」にするのかこれに「挑戦」するのか。政治主導も問われる。
政府と国会が骨格提言に先送り的対応を取っているさなか、14県8政令市を含む217の地方議会から骨格提言尊重の意見書が国会に出された。
4月には和歌山地裁で人工呼吸器をつけた障害者の訴えを認めて、21時間介護保障を命じた判決が出て市も受け入れた。
高松市の母親が「娘が希望する専門学校の説明会に行きたいので手話通訳派遣を」と求めたが、「市外だからダメ」、「義務教育とそれに準ずる高校教育ではない」と断られ、この2月に提訴した。
このように骨格提言は障害者、地方議会、地方行政、司法の声でもある。
自立支援法違憲訴訟の基本合意や骨格提言に励まされてますます多くの障害者が、安心して生きるために、そして胸を張って社会参加するために、必要な支援を請求する時代になっている。これは東日本大震災後に日本がめざしている新生・復興の共生社会への道の一部である。
そのために障害者、家族、行政職員、支援職員が骨格提言を改めて学び合い、行動し、この歴史の流れを早めたい。