極度の緊張感を保持しながらも、わたしは自ら置いたブロックの場所にしゃがみこみ、般若心経を唱えた。そして、今から歌を捧げることを少女達に伝えた。
再び、壕の入口に置いてある道具一式を壕に持ち込み、セッティングする。マイクをジャックに差込み、デッキに入れられたカセットを外から目視し、右手には鈴、左手にはマイクを握っていた。
消し去ることの出来なかった迷いは、ここでようやく結論が出た。やはり、メロディーを完璧に覚えていないため「白梅の少女達」は見送り、次回完璧にしてから歌おうと。そう腹に決めた。
そして「草原の少女」という曲のみを歌う気持ちで、再生ボタンを押した。すると、音がならない。不穏な気持ちになり、わたしはすぐに再生を止め、テープを出して確認した。すると、再生される面が最後まで行っており、結果テープの全てを巻き戻ししないといけない状態だった。
誤作動があってもいけないと思い、電池を抜いていたデッキ。この日は、音楽を流しながら清掃はしたものの、プレイしたのはCDだ。カセットの再生ボタンを押した記憶がなかったため、偶発的にボタンに触れたと捉えることが正しいのかもしれない。それでも、不可思議といえば不可思議な現象だ。
音がならないという事は、一体どういうことなのか?少女達に想いを募らせ作った曲を今ここで歌おうと思えば歌えたものの、完璧さを求め断念したわたしは、冷や水を浴びせられた。まるで、テープを再生不能状態にさせ、思い返す時間を与えたとしかいいようがない。あまりにも必然すぎる現象と言える。
『完璧など求めていないよ。このために用意したんでしょ?失敗してもいいじゃない。気にしないで。さぁ、歌ってよ。』
テープを巻き戻ししている最中、このメッセージを感受した。これは、少女達からの諭しである。そう、完璧に歌うことが目的じゃない。少女達のためにと作ったあの情感と感覚をだんだんわたしは取り戻したのだった。曲が出来上がった時のあの熱をわたしは再び自身の中で感じ始めた。
『うーん・・・そういうことか・・・。』
こころの中でそうつぶやき、わたしは再び腹を括った。あの熱を、最初の想いを再び。
この情感の中で佇んでいるところで、テープの巻き戻しが終わった。そして、改めてお詫びし、メッセージを伝える。まずは「草原の少女」を歌って、その後、「白梅の少女達」を歌いますと。再生ボタンを押し、わたしは曲に合わせて歌い始めた。
1月に歌った「草原の少女」に即座に少女達は反応を始めた。しらじらと周りが明るくなってきて、一段と壕の中に熱が帯びる。今回、どうも少女達だけじゃない気配も感じた。あ、日本軍の兵隊さん。彼らも複数感じる。わたしはぐっとこらえながら、兵隊さんを感じた場所に向け、鈴を振った。
「草原の少女」を歌い終えた時、日本軍の兵隊さんのメッセージを感受した。『すまない、すまない』それは沖縄の少女達に向けてお詫びしている気持ちだった。わたしの歌で想いが浮かび上がってはきたものの、最初何を伝えたいのか分からなかったが、歌を終えた直後に、そのメッセージから全てが理解出来たのだった。
日本軍の兵隊さんも、戦争秩序とは言え、自決を促した行いを悔いている。その行いを悔い、少女達にすまないと詫びていることを感受したのだった。そして、彼らはまずは少女達が浮かばれねば、我々が先には行けないという、衝撃的なメッセージだった。
わたしは、この感受した内容を内包しながら、彼らのメッセージを少女達に伝えるべく、この曲に全てを託そうと感じた。もうメロディーを間違ってもいい、わたしの想い、そして兵隊さんの想いをどうか感じ取って!という悲痛な気持ちでわたしはCDプレイヤーの再生ボタンを押した。
「白梅の少女達」この歌を歌う中で、わたしは神様にもお願いしていた。わたしの歌で彼女達の想いを浮かばせ、その後少女達の想いを沖縄にいる龍神様に連れ出してもらい天に上げて頂く。そして輪廻転生し再び新たな命となって、この世に生を受けることを祈り願っていた。わたしの供養にも限界がある。一番大切な部分は、神様にお願いするしかないのである。
その必死な想いは歌に込められ、また不思議さを呼び寄せる。あれだけ不安だったものが払拭され、出だしの頭部分だけ間違ったものの、それ以降完璧に歌いきれたのだった。我ながら、自分自身の表現する過程で現れる憑依体質に驚いていた。と同時に、壕の中で溢れかえる熱気と明るさに、少女達の強い想いを感じ、わたしは尋常ではない感覚に襲われ号泣してしまった。
涙をぬぐい、壕の中で明日再び来ることを伝え、わたしは道具一式持ち運びだした。外は午後7時を廻っていたが、まだ明るく、そしてテントを組み立て作業されている人たちがいた。
『ご苦労様です』と声を掛け、持ち込んだお供え物の空き箱などを片付け、前日やるべきことを全て終えた達成感と、明日の慰霊祭本番に向け、高揚感が持続されたまま、白梅之塔を後にしたのだった。
移動の時、きくさんにお電話をした。明日の準備で慌しくしている様子を感じながらも、無事に沖縄入りしたこと、そして、明日お世話になることへの謝意を伝えた。声は明るく、白梅之塔へ行ってきたことを伝えると、とても恐縮されていた。きくさんは、明日は大役だ。ほんの少ししか話せないかもしれないけれど、しっかり目に焼き付けよう。
(つづく)
再び、壕の入口に置いてある道具一式を壕に持ち込み、セッティングする。マイクをジャックに差込み、デッキに入れられたカセットを外から目視し、右手には鈴、左手にはマイクを握っていた。
消し去ることの出来なかった迷いは、ここでようやく結論が出た。やはり、メロディーを完璧に覚えていないため「白梅の少女達」は見送り、次回完璧にしてから歌おうと。そう腹に決めた。
そして「草原の少女」という曲のみを歌う気持ちで、再生ボタンを押した。すると、音がならない。不穏な気持ちになり、わたしはすぐに再生を止め、テープを出して確認した。すると、再生される面が最後まで行っており、結果テープの全てを巻き戻ししないといけない状態だった。
誤作動があってもいけないと思い、電池を抜いていたデッキ。この日は、音楽を流しながら清掃はしたものの、プレイしたのはCDだ。カセットの再生ボタンを押した記憶がなかったため、偶発的にボタンに触れたと捉えることが正しいのかもしれない。それでも、不可思議といえば不可思議な現象だ。
音がならないという事は、一体どういうことなのか?少女達に想いを募らせ作った曲を今ここで歌おうと思えば歌えたものの、完璧さを求め断念したわたしは、冷や水を浴びせられた。まるで、テープを再生不能状態にさせ、思い返す時間を与えたとしかいいようがない。あまりにも必然すぎる現象と言える。
『完璧など求めていないよ。このために用意したんでしょ?失敗してもいいじゃない。気にしないで。さぁ、歌ってよ。』
テープを巻き戻ししている最中、このメッセージを感受した。これは、少女達からの諭しである。そう、完璧に歌うことが目的じゃない。少女達のためにと作ったあの情感と感覚をだんだんわたしは取り戻したのだった。曲が出来上がった時のあの熱をわたしは再び自身の中で感じ始めた。
『うーん・・・そういうことか・・・。』
こころの中でそうつぶやき、わたしは再び腹を括った。あの熱を、最初の想いを再び。
この情感の中で佇んでいるところで、テープの巻き戻しが終わった。そして、改めてお詫びし、メッセージを伝える。まずは「草原の少女」を歌って、その後、「白梅の少女達」を歌いますと。再生ボタンを押し、わたしは曲に合わせて歌い始めた。
1月に歌った「草原の少女」に即座に少女達は反応を始めた。しらじらと周りが明るくなってきて、一段と壕の中に熱が帯びる。今回、どうも少女達だけじゃない気配も感じた。あ、日本軍の兵隊さん。彼らも複数感じる。わたしはぐっとこらえながら、兵隊さんを感じた場所に向け、鈴を振った。
「草原の少女」を歌い終えた時、日本軍の兵隊さんのメッセージを感受した。『すまない、すまない』それは沖縄の少女達に向けてお詫びしている気持ちだった。わたしの歌で想いが浮かび上がってはきたものの、最初何を伝えたいのか分からなかったが、歌を終えた直後に、そのメッセージから全てが理解出来たのだった。
日本軍の兵隊さんも、戦争秩序とは言え、自決を促した行いを悔いている。その行いを悔い、少女達にすまないと詫びていることを感受したのだった。そして、彼らはまずは少女達が浮かばれねば、我々が先には行けないという、衝撃的なメッセージだった。
わたしは、この感受した内容を内包しながら、彼らのメッセージを少女達に伝えるべく、この曲に全てを託そうと感じた。もうメロディーを間違ってもいい、わたしの想い、そして兵隊さんの想いをどうか感じ取って!という悲痛な気持ちでわたしはCDプレイヤーの再生ボタンを押した。
「白梅の少女達」この歌を歌う中で、わたしは神様にもお願いしていた。わたしの歌で彼女達の想いを浮かばせ、その後少女達の想いを沖縄にいる龍神様に連れ出してもらい天に上げて頂く。そして輪廻転生し再び新たな命となって、この世に生を受けることを祈り願っていた。わたしの供養にも限界がある。一番大切な部分は、神様にお願いするしかないのである。
その必死な想いは歌に込められ、また不思議さを呼び寄せる。あれだけ不安だったものが払拭され、出だしの頭部分だけ間違ったものの、それ以降完璧に歌いきれたのだった。我ながら、自分自身の表現する過程で現れる憑依体質に驚いていた。と同時に、壕の中で溢れかえる熱気と明るさに、少女達の強い想いを感じ、わたしは尋常ではない感覚に襲われ号泣してしまった。
涙をぬぐい、壕の中で明日再び来ることを伝え、わたしは道具一式持ち運びだした。外は午後7時を廻っていたが、まだ明るく、そしてテントを組み立て作業されている人たちがいた。
『ご苦労様です』と声を掛け、持ち込んだお供え物の空き箱などを片付け、前日やるべきことを全て終えた達成感と、明日の慰霊祭本番に向け、高揚感が持続されたまま、白梅之塔を後にしたのだった。
移動の時、きくさんにお電話をした。明日の準備で慌しくしている様子を感じながらも、無事に沖縄入りしたこと、そして、明日お世話になることへの謝意を伝えた。声は明るく、白梅之塔へ行ってきたことを伝えると、とても恐縮されていた。きくさんは、明日は大役だ。ほんの少ししか話せないかもしれないけれど、しっかり目に焼き付けよう。
(つづく)