講談風の語りで展開される大河風ドラマの主人公は、立花喜久雄。1964年元旦、長崎の老舗料亭「花丸」、侠客たちの怒号と悲鳴が飛び交うなかで、後に国の宝となる役者は生まれる。任侠の一門に生まれながらも、この世ならざる美貌は人々を巻き込み、喜久雄の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。喜久雄は長崎から大阪、そしてオリンピック後の東京へ。喜久雄の身柄を預かったのが、大阪の人気歌舞伎役者・花井半二郎。一方、こちら、大垣俊介。半二郎の実の息子で、つまりは四歳から舞台に立つ梨園の御曹司。いずれ半二郎を襲名する身だが、ちょっとぼんぼんな性格。二人はこうして、ともに女形の才能を見いだされ、切磋琢磨して稽古に励むことになります。物語は喜久雄と俊介を中心に進んでいくが、彼らの親、子、友人、師匠、ライバルたちの人生も並行して語られる。それどれの登場者人物にドラマがあり、各々の人物像がくっきりと描かれていて面白い。日本の成長と歩を合わせるように、技をみがき、道を究めようともがく男たち。血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り。「どんなに悔しい思いをしても芸で勝負や。ほんまもんの芸は刀や鉄砲より強いねん。おまえはお前の芸でいつか仇とったるんや。」芸養子として関西に出た後、歌舞伎界の新星として一躍注目を浴びるも運命に翻弄され続ける波乱万丈な半生が描かれています。身を削るようにして芸道を極めた役者の怒涛の人生青春篇。
2019年9月朝日新聞出版刊
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